127柱目の人柱

ど三一

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屋敷編

対面

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「ささっそれではごゆっくりなされませ~!稲葉も近くに控えておりますから、何か美味な物を召し上がる際は御声掛けいただいても良いのですからね~」

すすす…と襖を閉めると、部屋には主様とナジュ2人きりとなった。整えられた布団の上には二つの枕が置かれ、近くにあるお盆の上には水差し、身体を清める為の水が入った桶と手拭いが用意されている。ナジュはそれらを順々に見てから、布団の上に座る主様を見た。真っ白な肌襦袢を身に着け、普段は烏帽子を被っているが今夜は外している。しかし相変わらず顔の白布は付けたままだ。

(夜に来るって事は…そういう…こと…だよな)

当然子どもではないので、その意味はわかる。主様はナジュとの情交を求めて部屋を訪れたのだろう、と。呪殺の為主様に身を任せた過去はあるが、それ以後は抱かれていない。あくまで交換条件で合意の元の情交であり、ナジュもそれは納得している。ただ、現在の主様の望みを面と向かって拒否する事はできない。狩人1人呪殺して、本来ならばナジュは命を捨てるつもりであった。もうこれ以上憎々しい者達を道連れに出来ぬならと覚悟していたが、御蔭の神様に成れば望みも適うという話に心揺らぎ、最終的には命を長らえている。さらに御手付き様としての務め、即ち夜伽を行わずに、あれやこれやの面倒を看て貰い、手当まで。到底夜伽を断れる身分ではない。ナジュは膝に堅く握った手を置いて下を向いていた。観念する他ない、そう思っていた。


部屋の外では、稲葉と御蔭が控えている。御蔭は忌々しいという表情で部屋を背にしてじっと時間が過ぎるのを待っていた。一方稲葉はというと、自分の部屋から持ってきた菓子を床に数個置いて、持参した竹筒に入った茶を飲みながら饅頭を食べていた。長く黙っていられない性格の稲葉は、中に聞こえない位のひそひそ声で御蔭に話しかける。

「うふふ…稲葉は人畜生の営みを何度か目撃した事があるのですが、中々滑稽でしてね~!夜すやすやと眠っていました所、外から何だかうるさい鳴き声が聞こえて見に行きますと、社の近くの林で事に及んでいる人畜生がおりまして!その内静まって何処かへ行くだろうと思っていましたら、なんと2刻も交わっていたのです!稲葉は一度社の方に戻っていたのですが、次第に地鳴りのような声に変わり居てもたっても居られなくなり、ご近所迷惑にございます~!と注意しに行きますと、何と交わったまま社の周囲を徘徊し始めましてね?その時の格好が可笑しくて、片方が前足で歩き、もう片方が…」
「……そんな話はどうでもいい。菓子を食べていてもいいから静かにしていろ」

詳細を説明しだした稲葉を諌めた御蔭は、側近が用意した夜食の中から、音が出ずに摘まめる菓子が入った包みを雑に渡した。

「おや…これは噛み応えがあり長く楽しめる菓子でございますな?むぐ……むぐ…」
(やはり早めに追い出しておくか、呪殺が終わった時に命を奪うべきだったか…!)

部屋の中はまだ静かだった。布団と着物がすれ合うささやかな音は聞こえるが、行為に至っているような物音は無い。御蔭の内心はじりじりと焼けつくような焦燥に苛まれ、ナジュへの殺意を深めていく。
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