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屋敷編
身支度
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ナジュの風呂上りに、いつもとは違う顔ぶれの使用人がナジュの部屋を訪れる。
「本日主様のお渡前のお世話をさせていただきます」
手に持つのは化粧道具や身なりを整える為の鋏や剃刀。その使用人達はナジュの着物を肌蹴させると、さらさらとした粉の入った容器に刷毛をくぐらせ、肌に乗せていく。ナジュは男女とも化粧とは無縁の生活を送って来た為、拒否というより居心地の悪さの方を感じている。
「御手付き様はとても整ったお顔立ちをされておりますから、私たちもお化粧をさせていただくのを楽しみにしておりましたのよ。ああ…なんて愛らしい瞳に、いじらしいお鼻に、形の良い唇…お顔の線も、直線に曲線が混じったような男女の境を惑わせるような美しさ…。主様のご寵愛も納得ですわ…」
「…俺は…別に」
「御手はあたくしにお任せくださいませ。御手付き様は素材がよろしいですから、爪に色等乗せずとも、その美しさを際立たせるだけでよいでしょう。…ここをこうして…はあ…淑やかな薄桃色…愛らしい」
「御髪を整えますね、それと御体も。御手付き様はささやかな産毛でいらっしゃいますから、剃刀で何度か撫でるだけで結構でしょう。おみ足に少々の強張りがございますから、特製の薬液を刷り込みながら揉みほぐしましょう。そうすれば、柔らかさしなやかさに加え、張りと弾力が向上します」
何度もいらないと言ったが、「我々はこの時の為に腕を磨いてきたので、後生だから身支度をさせて欲しい」と懇願され、渋々折れたナジュだったが、その技術は確かなもので、派手に化粧を施されたわけではないが洗練されていく自分の姿には驚いた。農作業で日差しを浴びて、うっすらと染みが治りかけで残っていたが、使用人達の手管により綺麗に整えられて、舞台を降りた薄化粧の役者のような面構えとなった。ナジュの出来を様々な角度から眺めて使用人達は十分に満足し部屋を去って行った。
「俺じゃないみたいだな……」
上半身を肌蹴たまま己の顔を確認する。これで整えてくれと、部屋に置いて行った鏡台の前に座り、さらに女顔になった自分を眺める。机部分には唇に塗る紅が置いてあり、乱れてしまったら直すくらいは股右衛門にも出来るからと言っていた。
「この目尻の赤…こんなもん何の意味が…」
「うひょー!別嬪さんがいるぜ~!」
「うわっ!?」
部屋の外からナジュの身支度をこっそり覗いていた股右衛門は、鏡に映る美しい人の姿に興奮して、抜き足差し足で近づき背後から抱きしめた。ナジュは驚いて、身支度の最後まで頑なに手で隠していた胸を晒してしまう。
「おい!やめろっ抱きつくな!」
「へへへ~いいじゃねえかよぉ~…こんなに綺麗にしてもらって……て?」
「腕離せ!」
ナジュは腰に回る腕を取ろうと四苦八苦している。股右衛門の視線は鏡に映ったナジュの美しい姿に釘付けであったが、その中に一つ二つ異様な物が見えた。薄桃の胸の先でゆらゆらと揺れる何か。股右衛門はその飾りに手を伸ばした。
「本日主様のお渡前のお世話をさせていただきます」
手に持つのは化粧道具や身なりを整える為の鋏や剃刀。その使用人達はナジュの着物を肌蹴させると、さらさらとした粉の入った容器に刷毛をくぐらせ、肌に乗せていく。ナジュは男女とも化粧とは無縁の生活を送って来た為、拒否というより居心地の悪さの方を感じている。
「御手付き様はとても整ったお顔立ちをされておりますから、私たちもお化粧をさせていただくのを楽しみにしておりましたのよ。ああ…なんて愛らしい瞳に、いじらしいお鼻に、形の良い唇…お顔の線も、直線に曲線が混じったような男女の境を惑わせるような美しさ…。主様のご寵愛も納得ですわ…」
「…俺は…別に」
「御手はあたくしにお任せくださいませ。御手付き様は素材がよろしいですから、爪に色等乗せずとも、その美しさを際立たせるだけでよいでしょう。…ここをこうして…はあ…淑やかな薄桃色…愛らしい」
「御髪を整えますね、それと御体も。御手付き様はささやかな産毛でいらっしゃいますから、剃刀で何度か撫でるだけで結構でしょう。おみ足に少々の強張りがございますから、特製の薬液を刷り込みながら揉みほぐしましょう。そうすれば、柔らかさしなやかさに加え、張りと弾力が向上します」
何度もいらないと言ったが、「我々はこの時の為に腕を磨いてきたので、後生だから身支度をさせて欲しい」と懇願され、渋々折れたナジュだったが、その技術は確かなもので、派手に化粧を施されたわけではないが洗練されていく自分の姿には驚いた。農作業で日差しを浴びて、うっすらと染みが治りかけで残っていたが、使用人達の手管により綺麗に整えられて、舞台を降りた薄化粧の役者のような面構えとなった。ナジュの出来を様々な角度から眺めて使用人達は十分に満足し部屋を去って行った。
「俺じゃないみたいだな……」
上半身を肌蹴たまま己の顔を確認する。これで整えてくれと、部屋に置いて行った鏡台の前に座り、さらに女顔になった自分を眺める。机部分には唇に塗る紅が置いてあり、乱れてしまったら直すくらいは股右衛門にも出来るからと言っていた。
「この目尻の赤…こんなもん何の意味が…」
「うひょー!別嬪さんがいるぜ~!」
「うわっ!?」
部屋の外からナジュの身支度をこっそり覗いていた股右衛門は、鏡に映る美しい人の姿に興奮して、抜き足差し足で近づき背後から抱きしめた。ナジュは驚いて、身支度の最後まで頑なに手で隠していた胸を晒してしまう。
「おい!やめろっ抱きつくな!」
「へへへ~いいじゃねえかよぉ~…こんなに綺麗にしてもらって……て?」
「腕離せ!」
ナジュは腰に回る腕を取ろうと四苦八苦している。股右衛門の視線は鏡に映ったナジュの美しい姿に釘付けであったが、その中に一つ二つ異様な物が見えた。薄桃の胸の先でゆらゆらと揺れる何か。股右衛門はその飾りに手を伸ばした。
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