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屋敷編
着席
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股右衛門に案内されて会場に足を踏み入れると、そこには既に屋敷中の使用人や見慣れぬ主様の配下達が各々席に着いていたり、桜の下で立ち話に興じていた。ナジュは使用人だけでもあれ程の数であるのに、まだこれだけの人がいたのかと目を丸くする。会場に居る者達は、ナジュの姿が見えると一礼してまた話に興じる。
「今日ばかりは平伏しなくていいんだ。無礼講だからな」
股右衛門とナジュが席をどこにするか話していると、その姿をこっそり窺う者達が居た。普段ナジュの世話に関わらない使用人や主に御殿に居る者である。反対に、会場で最終確認をしていた一ヶ瀬や洛中、部下達は初めて見た御手付き様を無遠慮に眺めていた。
「股右衛門の兄貴の側に居るあれが御手付き様か…何と言うか……綺麗な顔した男ではあるな」
「そうだな…まるで売れっ子役者のような顔立ちだ…」
「うう~ん?…なあんか、僅かに悪い気が見えるが」
洛中は指で輪っかを作って、そこからナジュの姿を覗く。すると一部ぼんやりと影が見えた。解り易く穢れというものは見えないが、美しい顔に似合わない気が混じっている。
「……」
「ほら、洛中。他の膳を確認するぞ」
「ああ」
輪っかを解くと影は消えて、美しい着物に身を包んだ一点の曇りもない華やかな姿となる。洛中は腕を組んで何かを考える仕草をしたが、一ヶ瀬が呼ぶ声がして、宴の準備が最優先だと考えを頭の片隅に追いやった。
「御手付き様~!股右衛門先輩~!こちらでございます!」
「稲葉?」
主様に設けられた席の向かい、すぐ隣に座る稲葉がナジュと股右衛門に向かって手を振っていた。稲葉の側には御蔭の配下が1人側についており、稲葉がつまみ食いをしないかと見張っている。
「御手付き様、どうぞ稲葉の隣にお座りください!共に美味しい料理に舌鼓を打ちましょうぞ!」
股右衛門はすぐに稲葉の企みを看過した。
「そんな事言ってお前…ナ…御手付き様の御膳から摘まもうとしてるだろう?」
「い、いいえっ!そんな事はございませぬよ~?」
わかりやすくそっぽを向いてごまかそうとする稲葉に、ナジュは少し笑って隣の席に座った。股右衛門が「いいのか?」と聞くと、ナジュは「食べきれないかもしれないしな」と足を崩して落ち着いた。それじゃあ、とナジュの隣に座ろうとする股右衛門に、ナジュは待てと止めた。
「お前も今日は俺の世話をしなくていいんだろう?好きな場所に座れよ」
「俺は別にどこでもいいんだが」
「…ここで褌一丁になる勇気があるのか?」
ナジュがこそっと耳打ちすると、股右衛門は辺りを見た。主様の席近くには配下の中でも重鎮が腰を下ろしており、その佇まいには一介の使用人では恐縮してしまうものがある。ナジュの言わんとする事が解った股右衛門は、静かに会話をしている歴々をちら、と眺めた後、そそくさとその場を立ち去って、使用人達の集まる離れた席に座った。ナジュが稲葉の側に座る事が決定すると、近くに居た重鎮たちが形式ばった挨拶をする。それが一通り終わると、御蔭を伴った主様が到着し、配下達、使用人達は席に座り一礼する。いよいよ宴会が始まろうとしている。
「今日ばかりは平伏しなくていいんだ。無礼講だからな」
股右衛門とナジュが席をどこにするか話していると、その姿をこっそり窺う者達が居た。普段ナジュの世話に関わらない使用人や主に御殿に居る者である。反対に、会場で最終確認をしていた一ヶ瀬や洛中、部下達は初めて見た御手付き様を無遠慮に眺めていた。
「股右衛門の兄貴の側に居るあれが御手付き様か…何と言うか……綺麗な顔した男ではあるな」
「そうだな…まるで売れっ子役者のような顔立ちだ…」
「うう~ん?…なあんか、僅かに悪い気が見えるが」
洛中は指で輪っかを作って、そこからナジュの姿を覗く。すると一部ぼんやりと影が見えた。解り易く穢れというものは見えないが、美しい顔に似合わない気が混じっている。
「……」
「ほら、洛中。他の膳を確認するぞ」
「ああ」
輪っかを解くと影は消えて、美しい着物に身を包んだ一点の曇りもない華やかな姿となる。洛中は腕を組んで何かを考える仕草をしたが、一ヶ瀬が呼ぶ声がして、宴の準備が最優先だと考えを頭の片隅に追いやった。
「御手付き様~!股右衛門先輩~!こちらでございます!」
「稲葉?」
主様に設けられた席の向かい、すぐ隣に座る稲葉がナジュと股右衛門に向かって手を振っていた。稲葉の側には御蔭の配下が1人側についており、稲葉がつまみ食いをしないかと見張っている。
「御手付き様、どうぞ稲葉の隣にお座りください!共に美味しい料理に舌鼓を打ちましょうぞ!」
股右衛門はすぐに稲葉の企みを看過した。
「そんな事言ってお前…ナ…御手付き様の御膳から摘まもうとしてるだろう?」
「い、いいえっ!そんな事はございませぬよ~?」
わかりやすくそっぽを向いてごまかそうとする稲葉に、ナジュは少し笑って隣の席に座った。股右衛門が「いいのか?」と聞くと、ナジュは「食べきれないかもしれないしな」と足を崩して落ち着いた。それじゃあ、とナジュの隣に座ろうとする股右衛門に、ナジュは待てと止めた。
「お前も今日は俺の世話をしなくていいんだろう?好きな場所に座れよ」
「俺は別にどこでもいいんだが」
「…ここで褌一丁になる勇気があるのか?」
ナジュがこそっと耳打ちすると、股右衛門は辺りを見た。主様の席近くには配下の中でも重鎮が腰を下ろしており、その佇まいには一介の使用人では恐縮してしまうものがある。ナジュの言わんとする事が解った股右衛門は、静かに会話をしている歴々をちら、と眺めた後、そそくさとその場を立ち去って、使用人達の集まる離れた席に座った。ナジュが稲葉の側に座る事が決定すると、近くに居た重鎮たちが形式ばった挨拶をする。それが一通り終わると、御蔭を伴った主様が到着し、配下達、使用人達は席に座り一礼する。いよいよ宴会が始まろうとしている。
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