127柱目の人柱

ど三一

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屋敷編

御蔭の訪問

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「御手付き様、御蔭様がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか」
「?…ああ」

ナジュは文を書いていた手を止めると、近くに重ねて置いてある座布団を一枚取って自分の近くに置いた。世話をしてくれる股右衛門や鳥羽、瓜絵や他にも字を教えてくれる使用人達が頻繁に訪れる為、押し入れに仕舞わずにすぐ用意できる位置に置いている。ナジュはせんべえのようになった座布団の中から、まだかろうじて厚みのある物を選んだ。ナジュが文を箱に仕舞うと、御蔭が入ってきた。此処に座れと座布団を叩く。御蔭はナジュと膝を突き合わせるような距離に気乗りはしなかったが、偉ぶるよりはいいと素直に座った。

「どうしたんだ?此処に来るのは珍しいな」
「学舎から正式な返事が来た」
「本当か!」
「学舎にて、神様候補として学ぶ事を許可すると。金竜様の急な退座により学び始めの時期は後になるが、正式に決定した。此処に学舎で生活する上での事前の説明や注意事項が記されている。主様も既にご覧になった。お前もしっかり目を通しておくように」
「わかった。ありがとうな御か……」

急にナジュの様子が変わった。それに怪訝な表情をする御蔭。

「どうした、何か気がかりな事でもあるか?」
「いや……まだ字を習ってる途中だから…これは調べ甲斐がありそうだと思って」

御蔭は壁に立て掛けられた大きな紙に目をやる。春夏秋冬、月名、数の単位等初歩的な漢字が書かれているのが裏側からうっすら見える。

(私が呼んで説明した方が早い、が…他の使用人達に任せればいい事だ。しかし先程から股右衛門の姿が見えないな)
「使用人達はどうした?」
「会議だと。月に一度のって言ってた。…まずここからだな……えーっと…」

ナジュは最初の文字から躓いているようである。

(…後で股右衛門が教えてやると思うが、念の為説明しておくか)

「…待て、私が読むからお前は聞いていろ」
「おう」

御蔭は文を受け取って開くと、座布団ごとナジュが立ち上がり、御影の側にぴったりとくっついて座った。そして筆を構える。御蔭は動揺した顔を向けるが、ナジュは最初の漢字に筆先を合わせて待機している。

「…何だ」
「読みがなふっておこうと思って。ゆっくり頼む」
「……」

御蔭は渋々ナジュの言う通りにした。さっさと読んで終わろうと思ったのだが、途中いちいち漢字の意味や書き順を聞いてくる為、一向に終わらず、他の使用人達が帰って来ても、御蔭に恐縮してしまいナジュの部屋に近付かない。唯一股右衛門が部屋の襖からコッソリと中の様子を覗いていた。

「へへ…美形が2人、身を寄せ合ってら…湯殿での光景が懐かしいねぇ…!」

「宿舎を用意…」
「しゅく」
「…泊まる所、宿の別の読み方だ」
「成る程……やど、しゅくとも読む…と」
「近いんだが…」
「ならお前がもっとこっちに寄ってくれよ。着物の袖もちょっと邪魔だし」

ナジュは御蔭の着物の袖を捲り、不安定な体勢を支えようと御蔭の腕に掴まった。

「捲るな掴まるな!」
「字が震えちゃうだろ。なあ、この用意っていう字はそれぞれどんな意味なんだ?」
「どんなっ…用……使う…とか、用いる…だとか……」

御蔭がナジュの質問に翻弄されているのを、股右衛門は微笑ましく見ていた。

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