127柱目の人柱

ど三一

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屋敷編

4文字の手紙

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「御手付き様、どなたかより文が届いております」
「文?」
「本匠殿からお渡しするように言われました。それと無理にとは言わないが、お返事を下さると幸いですとも。お受け取り頂けますか?」

勉強中のナジュの元に三つ折りにされた文が届いた。共に居た鳥羽と股右衛門は、その簡素な紙を見て嫌な予感がした。

「また稲葉か?」
「そうでしょうね…宿題と称して己が自尊心を満たすためのお褒めの言葉を頂戴する、という魂胆でしょう。あのウサギめ…」
「ま、まあ…中を見て見なきゃわからないからな…」

ナジュは警戒する2人とは反対に、稲葉の文とも言い切れないと思っていた。これまで稲葉から送られて来た宿題に対する返信には、送り主が稲葉と分かるような印が紙の表に付いていた。ある時は自分の名前、またある時はs美化した自画像、またまたある時には花押を真似たよく解らない落書き。届いた文にそれらは一切見られず、綺麗に折り畳まれているだけであった。ナジュは2人の目の前で文を開けて見た。

「…おはよう?」

文にはそれだけが書かれていた。ひらがなたった4文字である。ナジュは紙が重なっていないかと何度も調べてみたが、本当にそれ1枚だけであった。

「おかしな手紙だな。それだけをナジュに伝える為に態々寄越したのか?」
「使用人は本匠殿から預かったと申してましたね。まさか…本匠殿が?」
「いや、それはないだろう。筆跡が違うし、説明もせずこんな事をするお人じゃない」
「では誰が…?」
「名前も無いから、御殿の外の者か?本匠殿が預かっていた、というのも気になるが」

2人は膝を突き合わせてこの文の贈り主について思案する。ナジュは一枚の半紙を取り出して、そこに返事を認めた。そして届いた文と同じように三つ折りにすると、丁度茶菓子を持ってナジュの部屋に来ていた瓜絵に手渡した。

「瓜絵、これを本匠に渡して欲しいんだ」
「ええ、かしこまりました。…何かご用でしょうか?」
「いや、今日来た文への返事だと言ってくれれば分かると思う」
「はい。では少々席を外しますね」

瓜絵はナジュの部屋から出て、本匠を捜しに行く。先程まで厨房に居た筈なので、まだそこに居るか他所に行ったか使用人仲間に聞いてみるつもりだ。

「すみません、本匠殿はまだいらっしゃいますか?」
「今出て行ったぞ。確か…針子部屋で新しく仕立てる主様の着物の図案を確認するとおっしゃってたな」
「ありがとうございます。そちらに行ってみますね」

瓜絵は手紙をしっかりと持って針子部屋に向かう。途中、針子が通りがかり瓜絵は本匠が部屋に居たかと聞くと、まだいらっしゃると答えた。

(すれ違いになったら大変だ。急いでお渡ししよう…!)

瓜絵はあまり足音を立てないように早歩きで進み、針子部屋に着いた。そろっと中を窺うと、針子達が本匠と共に図案を囲んで何やら話し合っていた。瓜絵は遠慮がちに部屋に入り、小声で「本匠殿」と呼んだ。

「瓜絵、どうした」
「御手付き様より本日届いた手紙のお返事を預かってきました」
「!…ご苦労だったな、瓜絵」

本匠は文を受け取ると、針子達に少し出ると言って御殿に向かった。
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