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屋敷編
稲葉の宿題
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「御蔭様、学舎より文が届いております」
ナジュが文字の勉強を始めて数日後、御蔭の部下が学舎からの返答の文を預かってきた。それを受け取り、自室にて開封すると、中には学舎で学ぶ為の条件が記されていた。前回は検討しているという返事であったが、今回は条件が確定したようだ。
(空座であるが、神様の推薦状が必要……他に希望する者が居る為………今月の内に推薦状を学舎に届ける事、とある……)
条件の他に、入学時期が少し遅れる事も書いてあった。他の座の希望者が予想よりも多数であり、その選考に時間を要する為という理由らしい。御蔭の予定では来月にでもこの御殿からナジュの姿が消えている筈であったが、それはひと月ふた月伸びるかもしれない。それに座の競合が起きた場合、他の神様候補と争わねばいけなくなり、普通の人間のナジュには少々不利な形勢と見る。
(あの座に選ばれる条件は不明だが、入学前にできるだけ鍛えておく事に越したことはない……確か奴は最近文字を学び始めたとか……天界文字は学舎で習う筈だから良いとして、その他の読み書き位は覚えさせて行った方が私の目的の達成にも近いか…?)
御蔭は文を綺麗に畳み直し、主様に入室の許可を求めた。神通力で返事が返ってくると、御蔭は「失礼します」と言って部屋の中に入った。主様は朝餉を終えて、縁側でのんびりと梅を眺めていた。側には稲葉が淹れた緑茶が盆に乗せられて置かれている。そしてその稲葉は、主様に用意された菓子を頂戴してまた嘘くさい武勇伝を語っている。
「主様、学舎からの入学に関する返答の文が届きました」
(…読んでくれ)
「かしこまりました。稲葉はよろしいので?」
(ああ)
「むっ!?この稲葉は主様の右腕、左腕も同然!さあさあ御蔭様、話して下され!」
(苛々とする……)
御蔭は文の内容の要点を選んで主様に伝えた。主様はいよいよナジュの学舎行きについて自分が手助けしなければいけない時が来たと、御蔭が新たな言葉を紡ぐ度に気分が沈んで行った。隣に座る稲葉は、あらあら!やなんと!など軽快な反応をして、御蔭を弱冠苛立たせながら菓子を頬張る。
「…以上となります」
(承知した。御蔭、下がっていいぞ)
「はっ……」
御蔭が部屋を辞すると、主様は膝に肘を付けて、ふうとため息を吐いた。稲葉は目をぱちぱちと開閉させて、主様の様子を見た。
「いかがされました?主様」
(……)
主様は何でもないと手を振った。稲葉はぼんやりと梅を眺めている主様を、悩みがあるのでは?等一寸も思わず、先程まで何を話していたかを忘れ、稲葉の話題は屋敷についてに変わった。
「最近御手付き様は御勉強熱心でいらっしゃいまして、この稲葉も感心するほどで御座います!」
(……)
「まだ学び始めてそれ程経過しておりませぬが、ひらがなとカタカナをぼんやりと覚えたらしいのです!稲葉も菓子を頂戴しに参上した際に幾つか問題を出して、勉強の御助力をしたのですよ!」
(お前はいいな……気軽にナジュに会えて…)
「その問題が、”稲葉の良い所をひらがなで7つ書く事”で御座いまして、御手付き様ったら中々筆が進まず、稲葉が表を見ながらでもいいですよと言った所、「いや、表はいい…表は…」とおっしゃって、御自分の力で拙い字ながらも頑張って書いておりました。稲葉は感心して、親心が芽生えそうで御座いました」
(楽しそうだな…)
「股右衛門先輩も他の使用人達も御手付き様を甘やかして、「7つは多過ぎる、3つにしろ!」だの、「もっと簡単な問題を出せ!」だのと五月蠅く申しておりましたから、稲葉が厳しくしないと御手付き様の為になりませぬ!ひらがな、カタカナ、漢字、何を使ってもいいという条件で、稲葉へのお褒めの言葉を書いた文を宿題にしております。いつ届くか楽しみに御座います!」
(文……)
主様は稲葉の言葉に何か思いついた様子だった。稲葉は袴に菓子屑をぼろぼろと零したのを地面に払落し、また一つ主様の菓子を頂戴した。
ナジュが文字の勉強を始めて数日後、御蔭の部下が学舎からの返答の文を預かってきた。それを受け取り、自室にて開封すると、中には学舎で学ぶ為の条件が記されていた。前回は検討しているという返事であったが、今回は条件が確定したようだ。
(空座であるが、神様の推薦状が必要……他に希望する者が居る為………今月の内に推薦状を学舎に届ける事、とある……)
条件の他に、入学時期が少し遅れる事も書いてあった。他の座の希望者が予想よりも多数であり、その選考に時間を要する為という理由らしい。御蔭の予定では来月にでもこの御殿からナジュの姿が消えている筈であったが、それはひと月ふた月伸びるかもしれない。それに座の競合が起きた場合、他の神様候補と争わねばいけなくなり、普通の人間のナジュには少々不利な形勢と見る。
(あの座に選ばれる条件は不明だが、入学前にできるだけ鍛えておく事に越したことはない……確か奴は最近文字を学び始めたとか……天界文字は学舎で習う筈だから良いとして、その他の読み書き位は覚えさせて行った方が私の目的の達成にも近いか…?)
御蔭は文を綺麗に畳み直し、主様に入室の許可を求めた。神通力で返事が返ってくると、御蔭は「失礼します」と言って部屋の中に入った。主様は朝餉を終えて、縁側でのんびりと梅を眺めていた。側には稲葉が淹れた緑茶が盆に乗せられて置かれている。そしてその稲葉は、主様に用意された菓子を頂戴してまた嘘くさい武勇伝を語っている。
「主様、学舎からの入学に関する返答の文が届きました」
(…読んでくれ)
「かしこまりました。稲葉はよろしいので?」
(ああ)
「むっ!?この稲葉は主様の右腕、左腕も同然!さあさあ御蔭様、話して下され!」
(苛々とする……)
御蔭は文の内容の要点を選んで主様に伝えた。主様はいよいよナジュの学舎行きについて自分が手助けしなければいけない時が来たと、御蔭が新たな言葉を紡ぐ度に気分が沈んで行った。隣に座る稲葉は、あらあら!やなんと!など軽快な反応をして、御蔭を弱冠苛立たせながら菓子を頬張る。
「…以上となります」
(承知した。御蔭、下がっていいぞ)
「はっ……」
御蔭が部屋を辞すると、主様は膝に肘を付けて、ふうとため息を吐いた。稲葉は目をぱちぱちと開閉させて、主様の様子を見た。
「いかがされました?主様」
(……)
主様は何でもないと手を振った。稲葉はぼんやりと梅を眺めている主様を、悩みがあるのでは?等一寸も思わず、先程まで何を話していたかを忘れ、稲葉の話題は屋敷についてに変わった。
「最近御手付き様は御勉強熱心でいらっしゃいまして、この稲葉も感心するほどで御座います!」
(……)
「まだ学び始めてそれ程経過しておりませぬが、ひらがなとカタカナをぼんやりと覚えたらしいのです!稲葉も菓子を頂戴しに参上した際に幾つか問題を出して、勉強の御助力をしたのですよ!」
(お前はいいな……気軽にナジュに会えて…)
「その問題が、”稲葉の良い所をひらがなで7つ書く事”で御座いまして、御手付き様ったら中々筆が進まず、稲葉が表を見ながらでもいいですよと言った所、「いや、表はいい…表は…」とおっしゃって、御自分の力で拙い字ながらも頑張って書いておりました。稲葉は感心して、親心が芽生えそうで御座いました」
(楽しそうだな…)
「股右衛門先輩も他の使用人達も御手付き様を甘やかして、「7つは多過ぎる、3つにしろ!」だの、「もっと簡単な問題を出せ!」だのと五月蠅く申しておりましたから、稲葉が厳しくしないと御手付き様の為になりませぬ!ひらがな、カタカナ、漢字、何を使ってもいいという条件で、稲葉へのお褒めの言葉を書いた文を宿題にしております。いつ届くか楽しみに御座います!」
(文……)
主様は稲葉の言葉に何か思いついた様子だった。稲葉は袴に菓子屑をぼろぼろと零したのを地面に払落し、また一つ主様の菓子を頂戴した。
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