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屋敷編
瓜絵のお届け
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「よし…できました!」
皆で決めたひらがなカタカナを瓜絵が慎重かつ丁寧に清書して、表が完成した。大いに揉めた”かな”問題は、天界で見かける機会が多い、書物によく採用されている”かな”を考えて、全員の納得を得ることが出来た。瓜絵は書き終わった表を広げて広間に居る使用人仲間達に見せる。
「うん、いい出来じゃないか瓜絵」
「早速本匠殿にお見せして了解を得てお届けしよう!股右衛門も御手付き様も待っているだろうからな」
「瓜絵、ずっと集中して疲れただろう?こっちきて握り飯を食べな」
「あっはい!」
ひらがなカタカナ班は1人が本匠を捜しに行き、漢字班も手を止めて皆で夕餉を食べていた。漢字班は膨大な量の漢字と意味を書いてかなり疲労しているようだ。
「僕、後でそちらを手伝いますね」
「ああ頼む。他にも2、3人手伝いが欲しい。誰か知見のある奴いないか?」
「それなら針子の中に達筆で中々物知りがいた。それと厨房にも…」
「皆、本匠殿を連れて来たぞ!」
使用人達は急いで佇まいを直そうとするが、顔を出した本匠がそのままでいいと言った。使用人が巻いた表を広げて本匠に渡す。
「どうでしょうか」
「うむ……いいと思うぞ。文字も丁寧で見易い」
字を褒められた瓜絵は、ほっと胸を撫で下ろしつつ、じわじわと嬉しさを噛みしめていた。握り飯を食べている間、不備はないか気になってちらちらと表の方を見ては落ち着かなかった。やっと安心して握り飯を味わえると、瓜絵は大きな口で握り飯を頬張った。
「では御手付き様にお届けせよ。……これを書いた者は?」
「瓜絵です」
「ならば瓜絵、お前が責任もって御手付き様にお届けするように」
「ふぇっ!?ふぁ、ふぁいっ」
瓜絵は米粒を吹き出しそうになりながら返事をする。周りの使用人達は茶を注いだ茶碗を瓜絵に渡し、折角完成した表に米粒が掛からないように瓜絵の口を抑えた。
「うう~緊張するなぁ」
瓜絵はナジュの部屋の前に来ると、その場で正座をして声を掛ける。瓜絵でございます、と言うと、鳥羽が襖を開けて何用かと聞く。
「ひらがなとカタカナを記した表が完成いたしましたので、お持ちしました」
「よくやったな、暫し待て」
鳥羽は一度ナジュと何やら話をした後、「入ってお見せしなさい」と瓜絵を呼んだ。
「し、失礼します」
「おおご苦労だったな瓜絵」
股右衛門が此処に座れと座布団を叩く。見ると部屋に居る全員分の座布団が用意され、円を描く様に座っていたようだ。瓜絵は畏れ多いと思いながら、先輩である股右衛門の言うとおりにちょこんと座布団に座った。
「すまないな、手間かけさせて」
「い、いえ!お安い御用で御座います、御手付き様」
瓜絵は頭を床に擦りつけて恐縮する。そしてそのままの状態で巻いた表をナジュに差し出した。ナジュが表を広げると、股右衛門と鳥羽も一緒になって覗きこむ。
「うん…天界でも知る者の多い字を選んだようだな」
「手本のような筆だぜ」
「…ありがとうな、えっと…瓜絵」
「は、はいっ…勿体ないお言葉に御座います…!」
瓜絵は一度頭を上げてナジュを見ると、また素早く額を畳みにつけた。ナジュがそこまでしなくていいと言うと、そろそろと頭を上げて、額に着いた畳の跡を三人に見せた。それに大きく笑うのは股右衛門、くすくすと抑えた笑いをするのが鳥羽、呆れたように笑うのがナジュ。瓜絵は恥ずかしくなって額を隠して真っ赤になったのだった。
皆で決めたひらがなカタカナを瓜絵が慎重かつ丁寧に清書して、表が完成した。大いに揉めた”かな”問題は、天界で見かける機会が多い、書物によく採用されている”かな”を考えて、全員の納得を得ることが出来た。瓜絵は書き終わった表を広げて広間に居る使用人仲間達に見せる。
「うん、いい出来じゃないか瓜絵」
「早速本匠殿にお見せして了解を得てお届けしよう!股右衛門も御手付き様も待っているだろうからな」
「瓜絵、ずっと集中して疲れただろう?こっちきて握り飯を食べな」
「あっはい!」
ひらがなカタカナ班は1人が本匠を捜しに行き、漢字班も手を止めて皆で夕餉を食べていた。漢字班は膨大な量の漢字と意味を書いてかなり疲労しているようだ。
「僕、後でそちらを手伝いますね」
「ああ頼む。他にも2、3人手伝いが欲しい。誰か知見のある奴いないか?」
「それなら針子の中に達筆で中々物知りがいた。それと厨房にも…」
「皆、本匠殿を連れて来たぞ!」
使用人達は急いで佇まいを直そうとするが、顔を出した本匠がそのままでいいと言った。使用人が巻いた表を広げて本匠に渡す。
「どうでしょうか」
「うむ……いいと思うぞ。文字も丁寧で見易い」
字を褒められた瓜絵は、ほっと胸を撫で下ろしつつ、じわじわと嬉しさを噛みしめていた。握り飯を食べている間、不備はないか気になってちらちらと表の方を見ては落ち着かなかった。やっと安心して握り飯を味わえると、瓜絵は大きな口で握り飯を頬張った。
「では御手付き様にお届けせよ。……これを書いた者は?」
「瓜絵です」
「ならば瓜絵、お前が責任もって御手付き様にお届けするように」
「ふぇっ!?ふぁ、ふぁいっ」
瓜絵は米粒を吹き出しそうになりながら返事をする。周りの使用人達は茶を注いだ茶碗を瓜絵に渡し、折角完成した表に米粒が掛からないように瓜絵の口を抑えた。
「うう~緊張するなぁ」
瓜絵はナジュの部屋の前に来ると、その場で正座をして声を掛ける。瓜絵でございます、と言うと、鳥羽が襖を開けて何用かと聞く。
「ひらがなとカタカナを記した表が完成いたしましたので、お持ちしました」
「よくやったな、暫し待て」
鳥羽は一度ナジュと何やら話をした後、「入ってお見せしなさい」と瓜絵を呼んだ。
「し、失礼します」
「おおご苦労だったな瓜絵」
股右衛門が此処に座れと座布団を叩く。見ると部屋に居る全員分の座布団が用意され、円を描く様に座っていたようだ。瓜絵は畏れ多いと思いながら、先輩である股右衛門の言うとおりにちょこんと座布団に座った。
「すまないな、手間かけさせて」
「い、いえ!お安い御用で御座います、御手付き様」
瓜絵は頭を床に擦りつけて恐縮する。そしてそのままの状態で巻いた表をナジュに差し出した。ナジュが表を広げると、股右衛門と鳥羽も一緒になって覗きこむ。
「うん…天界でも知る者の多い字を選んだようだな」
「手本のような筆だぜ」
「…ありがとうな、えっと…瓜絵」
「は、はいっ…勿体ないお言葉に御座います…!」
瓜絵は一度頭を上げてナジュを見ると、また素早く額を畳みにつけた。ナジュがそこまでしなくていいと言うと、そろそろと頭を上げて、額に着いた畳の跡を三人に見せた。それに大きく笑うのは股右衛門、くすくすと抑えた笑いをするのが鳥羽、呆れたように笑うのがナジュ。瓜絵は恥ずかしくなって額を隠して真っ赤になったのだった。
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