127柱目の人柱

ど三一

文字の大きさ
上 下
74 / 260
屋敷編

瓜絵のお届け

しおりを挟む
「よし…できました!」

皆で決めたひらがなカタカナを瓜絵が慎重かつ丁寧に清書して、表が完成した。大いに揉めた”かな”問題は、天界で見かける機会が多い、書物によく採用されている”かな”を考えて、全員の納得を得ることが出来た。瓜絵は書き終わった表を広げて広間に居る使用人仲間達に見せる。

「うん、いい出来じゃないか瓜絵」
「早速本匠殿にお見せして了解を得てお届けしよう!股右衛門も御手付き様も待っているだろうからな」
「瓜絵、ずっと集中して疲れただろう?こっちきて握り飯を食べな」
「あっはい!」

ひらがなカタカナ班は1人が本匠を捜しに行き、漢字班も手を止めて皆で夕餉を食べていた。漢字班は膨大な量の漢字と意味を書いてかなり疲労しているようだ。

「僕、後でそちらを手伝いますね」
「ああ頼む。他にも2、3人手伝いが欲しい。誰か知見のある奴いないか?」
「それなら針子の中に達筆で中々物知りがいた。それと厨房にも…」
「皆、本匠殿を連れて来たぞ!」

使用人達は急いで佇まいを直そうとするが、顔を出した本匠がそのままでいいと言った。使用人が巻いた表を広げて本匠に渡す。

「どうでしょうか」
「うむ……いいと思うぞ。文字も丁寧で見易い」

字を褒められた瓜絵は、ほっと胸を撫で下ろしつつ、じわじわと嬉しさを噛みしめていた。握り飯を食べている間、不備はないか気になってちらちらと表の方を見ては落ち着かなかった。やっと安心して握り飯を味わえると、瓜絵は大きな口で握り飯を頬張った。

「では御手付き様にお届けせよ。……これを書いた者は?」
「瓜絵です」
「ならば瓜絵、お前が責任もって御手付き様にお届けするように」
「ふぇっ!?ふぁ、ふぁいっ」

瓜絵は米粒を吹き出しそうになりながら返事をする。周りの使用人達は茶を注いだ茶碗を瓜絵に渡し、折角完成した表に米粒が掛からないように瓜絵の口を抑えた。


「うう~緊張するなぁ」

瓜絵はナジュの部屋の前に来ると、その場で正座をして声を掛ける。瓜絵でございます、と言うと、鳥羽が襖を開けて何用かと聞く。

「ひらがなとカタカナを記した表が完成いたしましたので、お持ちしました」
「よくやったな、暫し待て」

鳥羽は一度ナジュと何やら話をした後、「入ってお見せしなさい」と瓜絵を呼んだ。

「し、失礼します」
「おおご苦労だったな瓜絵」

股右衛門が此処に座れと座布団を叩く。見ると部屋に居る全員分の座布団が用意され、円を描く様に座っていたようだ。瓜絵は畏れ多いと思いながら、先輩である股右衛門の言うとおりにちょこんと座布団に座った。

「すまないな、手間かけさせて」
「い、いえ!お安い御用で御座います、御手付き様」

瓜絵は頭を床に擦りつけて恐縮する。そしてそのままの状態で巻いた表をナジュに差し出した。ナジュが表を広げると、股右衛門と鳥羽も一緒になって覗きこむ。

「うん…天界でも知る者の多い字を選んだようだな」
「手本のような筆だぜ」
「…ありがとうな、えっと…瓜絵」
「は、はいっ…勿体ないお言葉に御座います…!」

瓜絵は一度頭を上げてナジュを見ると、また素早く額を畳みにつけた。ナジュがそこまでしなくていいと言うと、そろそろと頭を上げて、額に着いた畳の跡を三人に見せた。それに大きく笑うのは股右衛門、くすくすと抑えた笑いをするのが鳥羽、呆れたように笑うのがナジュ。瓜絵は恥ずかしくなって額を隠して真っ赤になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...