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屋敷編
ナジュの生きた時代
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「天界文字は兎も角、漢字…ひらがなは!?」
「読めない。…ひらがなって何だ?」
ひらがなの存在を知らない。それを知って股右衛門はそう言うことかと納得した。この天界に居る地上出身の者達は、生きて死に天に昇った時代にかなりのばらつきがある。時代によって話し言葉が違う為、本来なら意思疎通は困難である筈だが、こうして難なく話せているのは、口を司る座の神様の御技がこの天界に呪いを掛けているからだと、昔神様だった頃にそんな話を聞いた。話している分には問題が無いので気付かなかった。
「すると…お前は俺達より前の時代の人間なんだな…?」
「よく意味がわからないが…」
股右衛門は自分が感じている違和感についてナジュに説明した。股右衛門が地上に居た頃には、漢字、カタカナ、ひらがながという文字が存在しており、全員が操れた訳では無いが、他より階級の高い者達や商売をする者はほぼ文字を書いていたと伝えると、ナジュは大層驚いた様子であった。
「文字なんて読める奴は集落に居なかった…いや、古老は読めたのか…?集落外との遣り取りは、全て古老が取り仕切っていたから…でも集落に…う~ん」
「マジか~…えー…じゃあ俺が死んだ時代より前に生きてて…俺より後に天界に昇った?時間の流れどうなってんだ…?」
ナジュは頭を捻っている股右衛門の横で、菓子箱から菓子を一つ手に取った。包み紙の中には練りきりが入っており、季節の花を複数の鮮やかな色で表現している。このように色鮮やかな菓子はナジュの時代の貴族でも国の長でも見たことがないだろう。
(後の世にはこんなに綺麗な菓子があるのか、あいつに見せて…)
一瞬誰かの幸せを願いそうになったナジュは、ふるふると頭を振ってその考えを彼方へと追いやった。
「股右衛門、この菓子はお前の時代、簡単に手に入る物なのか?」
「おいおい、手に入るわけねえだろ?人間ならまだしも俺は猿だぞ?拝まれるようになるまで、木の実食べたり山菜食べたり…畑で野菜齧ったり」
「何だ、似たような暮らししてたのか。お前は字をどこで習った?」
「天界に来てからだよ。ま、地上でも文字があるってのは何となく知ってたから、結構見た事のある字が多かったし、覚えるのはそれほど苦にならなかった」
「お前…意外と知恵者なのか」
「意外とはなんだ。猿の浅知恵とか、狡賢い猿とか…そんな言葉聞いたことねえか?猿は賢い生き物って人間の間では思われてるんだぞ」
「単に畑を荒らしに来る獣、位にしか思ってなかった」
股右衛門は、生きる為だ、獣に生まれたら普通の事だと不服そうに抗議している。人の姿をした獣という認識だが、ナジュは股右衛門の事を、自分より知っている事が沢山ある知恵者と認めている。菓子を包む袋に書いてある字も難なく読める。ナジュは菓子を股右衛門の手に乗せて、一つ願いを口にする。
「何だ?悪かった、これで許せってか?」
「食べてくれ」
「くれるんなら貰うけどよ~……」
股右衛門は菓子を口にほおり、もぐもぐと噛んでその味を堪能した後、ぐいっと緑茶で甘みを流した。
「食ったな?」
「?そりゃ食うだろ」
「美味かったか?」
「死ぬほど美味い。こんな上等な菓子幾ら食っても足りねえよ」
股右衛門は菓子箱を見下ろして、これもこれも美味そうだと指を差す。ナジュはその菓子箱を股右衛門に持たせた。
「じゃあ、これ全部やるから俺に字を教えてくれよ」
ナジュの願いを聞いた股右衛門は目を丸くしていた。
「読めない。…ひらがなって何だ?」
ひらがなの存在を知らない。それを知って股右衛門はそう言うことかと納得した。この天界に居る地上出身の者達は、生きて死に天に昇った時代にかなりのばらつきがある。時代によって話し言葉が違う為、本来なら意思疎通は困難である筈だが、こうして難なく話せているのは、口を司る座の神様の御技がこの天界に呪いを掛けているからだと、昔神様だった頃にそんな話を聞いた。話している分には問題が無いので気付かなかった。
「すると…お前は俺達より前の時代の人間なんだな…?」
「よく意味がわからないが…」
股右衛門は自分が感じている違和感についてナジュに説明した。股右衛門が地上に居た頃には、漢字、カタカナ、ひらがながという文字が存在しており、全員が操れた訳では無いが、他より階級の高い者達や商売をする者はほぼ文字を書いていたと伝えると、ナジュは大層驚いた様子であった。
「文字なんて読める奴は集落に居なかった…いや、古老は読めたのか…?集落外との遣り取りは、全て古老が取り仕切っていたから…でも集落に…う~ん」
「マジか~…えー…じゃあ俺が死んだ時代より前に生きてて…俺より後に天界に昇った?時間の流れどうなってんだ…?」
ナジュは頭を捻っている股右衛門の横で、菓子箱から菓子を一つ手に取った。包み紙の中には練りきりが入っており、季節の花を複数の鮮やかな色で表現している。このように色鮮やかな菓子はナジュの時代の貴族でも国の長でも見たことがないだろう。
(後の世にはこんなに綺麗な菓子があるのか、あいつに見せて…)
一瞬誰かの幸せを願いそうになったナジュは、ふるふると頭を振ってその考えを彼方へと追いやった。
「股右衛門、この菓子はお前の時代、簡単に手に入る物なのか?」
「おいおい、手に入るわけねえだろ?人間ならまだしも俺は猿だぞ?拝まれるようになるまで、木の実食べたり山菜食べたり…畑で野菜齧ったり」
「何だ、似たような暮らししてたのか。お前は字をどこで習った?」
「天界に来てからだよ。ま、地上でも文字があるってのは何となく知ってたから、結構見た事のある字が多かったし、覚えるのはそれほど苦にならなかった」
「お前…意外と知恵者なのか」
「意外とはなんだ。猿の浅知恵とか、狡賢い猿とか…そんな言葉聞いたことねえか?猿は賢い生き物って人間の間では思われてるんだぞ」
「単に畑を荒らしに来る獣、位にしか思ってなかった」
股右衛門は、生きる為だ、獣に生まれたら普通の事だと不服そうに抗議している。人の姿をした獣という認識だが、ナジュは股右衛門の事を、自分より知っている事が沢山ある知恵者と認めている。菓子を包む袋に書いてある字も難なく読める。ナジュは菓子を股右衛門の手に乗せて、一つ願いを口にする。
「何だ?悪かった、これで許せってか?」
「食べてくれ」
「くれるんなら貰うけどよ~……」
股右衛門は菓子を口にほおり、もぐもぐと噛んでその味を堪能した後、ぐいっと緑茶で甘みを流した。
「食ったな?」
「?そりゃ食うだろ」
「美味かったか?」
「死ぬほど美味い。こんな上等な菓子幾ら食っても足りねえよ」
股右衛門は菓子箱を見下ろして、これもこれも美味そうだと指を差す。ナジュはその菓子箱を股右衛門に持たせた。
「じゃあ、これ全部やるから俺に字を教えてくれよ」
ナジュの願いを聞いた股右衛門は目を丸くしていた。
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