127柱目の人柱

ど三一

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屋敷編

神様候補

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主様に答えを告げた次の日、御蔭の使者がナジュの部屋を訪れた。

「お初にお目にかかります、御手付き様。水上に御座います」

水上と名乗る使者は深々と礼をしながら、ちらと股右衛門を見た。股右衛門はナジュの隣に胡坐をかいて座っており、立場が上の御手付き様に対して礼を欠いている、そう見えた。

「股右衛門、御手付き様の前で…その態度は何だ」
「楽にしていいって言われてんだよ!なあ?ナジュ」
「ああ、畏まった扱いをされるのは居心地が悪くなる」

股右衛門はナジュの肩に腕を乗せ、気安い態度で談笑している。水上は納得していなかったが、ナジュの手前大人しく引き下がった。そして座り直すと、今回尋ねた用件を伝える。

「御蔭様から御手付き様に神様になる迄の過程をご説明するよう申し付けられて、ここに参上いたしました」
「!そうか…」
「……なら俺は一旦下がるぞ。誰か手の空いてる奴にお茶と菓子でも持って来させるからよ」
「結構だ」
「遠慮すんな、稲葉が態々御殿からたかりに来る時は、茶菓子に飽き足らず、晩飯の残りまで平らげてるからよ」

その言葉を聞いて複雑そうに顔を歪める水上。上下関係を重んずる彼は、「稲葉様だ…」と弱々しく去る背中に向かって言った。

「なあ、早速教えてくれ。どうやったら神様に成れるんだ?」
「ええ、まず神様になる前段階から順を追ってお話ししましょう」

水上は半紙を懐から取り出すと、筆に墨をつけて何かを書き出す。半紙の一番下に簡単にナジュの似顔絵を描いていた。

「……これ、俺か?」
「ええ、御手付き様です。ここから、こう段階的に…」

一番下のナジュの上に矢印を書き、その上に服装の変わったナジュを描く、というのを繰り返す。半紙には、現在の着物を着るむくれた顔をしたナジュ、眼鏡を掛けて着物とは違う格好をして口端を上げるナジュ、そして主様のような格好で満面の笑みを浮かべているナジュが描き入れられた。本物のナジュは「上手いもんだな…」と素直に感心した。褒められた水上は満更でもない様子で、半紙の隅に水上、と自分の名前を書いた。

「先ずは、ここ。この御手付き様から眼鏡の御手付き様に成るまでをご説明いたします」
「頼む」
「眼鏡の御手付き様は神様候補として、学舎と呼ばれる建物で生活し、日々学んでいる状態です」
「学舎…」
「神様候補となり、学舎で学ぶ資格を得るには、座に就いておられる神様の推薦が必要です。専ら、座の神様の配下が神様候補となるようですね」

ナジュは御蔭から聞いた空座の話を思い出す。

「でも、おれが目指している座には、誰も居ないんだろ?」
「はい。座に神様がいらっしゃる場合は推薦状が必要ですが、空座で競合相手が居ない場合はどうだったか……曖昧な所なので、もしかしたら特に推薦は不要かも知れませんが、その辺りは御蔭様が学舎を管理する集団に確認中です。今期は来月より門戸を開く予定だそうですから、あまり時間はありませんね」
「わかった…済まないが頼むと伝えておいてくれ」
「畏まりました」
「しかし…座っていうのはこう…偉い…感じなんだろ?他の奴に譲りたいもんなのか?」
「固執される神様も居られますね。そういった方は、座に就くまでは抜きん出た力のない神様が多いです。逆にあっさりと手放して仕舞える神様は、単に興味を失ったのか、飽きられたのか……様々ですが、強者の余裕なのでしょうか、元々お強い力をお持ちの上で神様に成られた方の印象が強いです。座に就くには、神様候補となる必要もなく、力で奪い取る…という方法も御座いまして、我等が主様も元いた神様を伏して、座に就いた豪傑であると聞いております。私は御殿では若輩者で御座いますので、詳細は知らぬ所でございますが」
「…意外だな。穏やかな、感じがしたが」
「ええ、我々下々に心を砕いてくださる主様です」

知らぬ事実に成る程と頷いていると、使用人が茶菓子を持って来た。水上に茶を勧めると、一口飲んで「お気遣い感謝致します」と軽く頭を下げた。
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