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御殿編
江島の部屋
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「ここで良いですか?」
「ああ、大丈夫。ありがとう萩尾君」
「いえ、ではごゆっくり!」
萩尾は爽やかな笑みで襖を閉めて宴会部屋に戻った。ここは乱痴気騒ぎをしていた部屋の隣室で、行灯のぼんやりとした明かりが襖に囲まれた部屋と、布団に横たわるナジュを照らしている。
「う……」
「ほらほら、楽にして。それと、もう少しそっちに寄って貰うね」
起き上がり、部屋から逃げようとするナジュを抱えて、布団の少し奥に移動させる。中年であっても腕は逞しく、濃い毛に覆われていた。嫋やかな他の御手付き様とは違う雰囲気を持つ男だと、ナジュは一目見てそう思っていた。
「よいしょっと」
江島はナジュの隣に身体を横たえた。ふんわりとした布団が、ナジュの身体を包んでいた時よりも重そうに沈む。二人は布団の上で向き合った。
「ナジュ君」
「……」
「僕は君を抱かないけれど、ちょっとした慰めには協力して欲しい」
「…ッ」
ナジュは警戒した。慰めとは癒すという意味の他に下世話な意味も有している。宴会部屋で行われた事の、類似の行為をさせられようとしている、とナジュは思った。しかし江島はナジュの警戒は想定の内であり、宥める為にゆったりした涅槃の姿で語り掛けた。
「僕が言う慰めはね…僕達が快楽を得たり、交情をする事じゃない。もっと軽やかで思いやりのあるものさ」
「……」
「信じられない、という顔だね。無理もない。僕はあの部屋で時間が過ぎるのを待っていただけだから。この襖の先のお嬢さん方が望まなければ、君をここに呼ぶ事はしなかっただろう」
襖の先という言葉に、先程の行為を覗いていた女の御手付き様達を思い出す。
「……また、弄ばれる様を…見せろと言ってんのか…?」
「君にとっては、そうなのかな……?望まぬ触れ合いは弄ばれる事と同じだものね」
江島はナジュの頭を撫でた。伸ばされた手に身構えたナジュだったが、咄嗟に庇ったのは首から下の肉体。頭は無警戒だった。
「お嬢さん方が望んでいるのはね、こういう触れ合いさ」
「……」
「アチラの宴は刺激が強過ぎるという方々の中にも、触れ合いを見たいと望む方がいる。派手な性行為を見たいんじゃないんだ。優しい触れ合いを見て慰めとしているんだ」
「優しい…?慰め…?」
ナジュは江島の言っている意味がよくわからなかった。
「良かったら…少し御手付き様について話しながら、優しい触れ合いをしようじゃないか」
江島は身体を起こして、枕元に置いてある箱の中から線香を取ると、行灯の火で先を燃やし息を吹きかけた。すると先端が赤くなり、煙を吐き始める。江島は香炉の中にその線香を入れ、蓋をした。隙間から漂う良い香りの煙がナジュの元にも漂ってくる。汗と男と白濁の匂い、女香の匂いを上書きしていく。目の前の男のような、落ち着いた香りだった。
ナジュは江島に身体を触られていた。しかしそれは性的でなく、頭を優しく撫でたり、手を繋いだりといった、ささやかな戯れであった。
「……こんなのが、何の慰めになる」
「優しさを感じたい時があるのさ。自分に与えられずとも、誰かに自分を投影して、優しく労られたい……いじらしいじゃないか」
江島はナジュの髪を指に絡めて遊んでいる。取り敢えず危険は無さそうだと判断したナジュは、ふかふかした枕に頰を預けてむすっとしている。
「……それで、御手付き様がどうのって話は?」
「君が僕に触れてくれなきゃ始められないよ」
「……いいだろ、俺が触られてんだから」
「お嬢さん方は触れ合いを見たいんだ。双方のね。ナジュ君も触れる所に触ると良い」
ナジュは少し嫌そうな顔をしながらも、横たわる江島の頭から足の先までを順々に見て行って、気兼ねなく触れられる部分を探した。
「……ここ」
ナジュが渋々触れたのは、江島の顎鬚であった。
「擽ったいなぁ……何故ここ?」
「……俺、あんまり体毛が濃くないから……髭、生えなかった…。おっさんの髭位濃ければなって」
江島はナジュの着物から出る手足と顔を見た。薄くは体毛があるようだが、産毛程度である。
「剃るのが面倒だけどね」
「せめて、この半分…いや、少しでもあれば、男らしい顔になったのに」
「可愛いとか、綺麗な顔と言われるのは嫌かい?」
「俺は男だぞ…」
「男でも、彼等はそう思ったんだろう。髭があったって、君は綺麗な顔をしてるから」
「俺の話はいい。さっさと御手付き様の話をしてくれ」
江島はナジュの頰を撫で頷いた。
「ああ、大丈夫。ありがとう萩尾君」
「いえ、ではごゆっくり!」
萩尾は爽やかな笑みで襖を閉めて宴会部屋に戻った。ここは乱痴気騒ぎをしていた部屋の隣室で、行灯のぼんやりとした明かりが襖に囲まれた部屋と、布団に横たわるナジュを照らしている。
「う……」
「ほらほら、楽にして。それと、もう少しそっちに寄って貰うね」
起き上がり、部屋から逃げようとするナジュを抱えて、布団の少し奥に移動させる。中年であっても腕は逞しく、濃い毛に覆われていた。嫋やかな他の御手付き様とは違う雰囲気を持つ男だと、ナジュは一目見てそう思っていた。
「よいしょっと」
江島はナジュの隣に身体を横たえた。ふんわりとした布団が、ナジュの身体を包んでいた時よりも重そうに沈む。二人は布団の上で向き合った。
「ナジュ君」
「……」
「僕は君を抱かないけれど、ちょっとした慰めには協力して欲しい」
「…ッ」
ナジュは警戒した。慰めとは癒すという意味の他に下世話な意味も有している。宴会部屋で行われた事の、類似の行為をさせられようとしている、とナジュは思った。しかし江島はナジュの警戒は想定の内であり、宥める為にゆったりした涅槃の姿で語り掛けた。
「僕が言う慰めはね…僕達が快楽を得たり、交情をする事じゃない。もっと軽やかで思いやりのあるものさ」
「……」
「信じられない、という顔だね。無理もない。僕はあの部屋で時間が過ぎるのを待っていただけだから。この襖の先のお嬢さん方が望まなければ、君をここに呼ぶ事はしなかっただろう」
襖の先という言葉に、先程の行為を覗いていた女の御手付き様達を思い出す。
「……また、弄ばれる様を…見せろと言ってんのか…?」
「君にとっては、そうなのかな……?望まぬ触れ合いは弄ばれる事と同じだものね」
江島はナジュの頭を撫でた。伸ばされた手に身構えたナジュだったが、咄嗟に庇ったのは首から下の肉体。頭は無警戒だった。
「お嬢さん方が望んでいるのはね、こういう触れ合いさ」
「……」
「アチラの宴は刺激が強過ぎるという方々の中にも、触れ合いを見たいと望む方がいる。派手な性行為を見たいんじゃないんだ。優しい触れ合いを見て慰めとしているんだ」
「優しい…?慰め…?」
ナジュは江島の言っている意味がよくわからなかった。
「良かったら…少し御手付き様について話しながら、優しい触れ合いをしようじゃないか」
江島は身体を起こして、枕元に置いてある箱の中から線香を取ると、行灯の火で先を燃やし息を吹きかけた。すると先端が赤くなり、煙を吐き始める。江島は香炉の中にその線香を入れ、蓋をした。隙間から漂う良い香りの煙がナジュの元にも漂ってくる。汗と男と白濁の匂い、女香の匂いを上書きしていく。目の前の男のような、落ち着いた香りだった。
ナジュは江島に身体を触られていた。しかしそれは性的でなく、頭を優しく撫でたり、手を繋いだりといった、ささやかな戯れであった。
「……こんなのが、何の慰めになる」
「優しさを感じたい時があるのさ。自分に与えられずとも、誰かに自分を投影して、優しく労られたい……いじらしいじゃないか」
江島はナジュの髪を指に絡めて遊んでいる。取り敢えず危険は無さそうだと判断したナジュは、ふかふかした枕に頰を預けてむすっとしている。
「……それで、御手付き様がどうのって話は?」
「君が僕に触れてくれなきゃ始められないよ」
「……いいだろ、俺が触られてんだから」
「お嬢さん方は触れ合いを見たいんだ。双方のね。ナジュ君も触れる所に触ると良い」
ナジュは少し嫌そうな顔をしながらも、横たわる江島の頭から足の先までを順々に見て行って、気兼ねなく触れられる部分を探した。
「……ここ」
ナジュが渋々触れたのは、江島の顎鬚であった。
「擽ったいなぁ……何故ここ?」
「……俺、あんまり体毛が濃くないから……髭、生えなかった…。おっさんの髭位濃ければなって」
江島はナジュの着物から出る手足と顔を見た。薄くは体毛があるようだが、産毛程度である。
「剃るのが面倒だけどね」
「せめて、この半分…いや、少しでもあれば、男らしい顔になったのに」
「可愛いとか、綺麗な顔と言われるのは嫌かい?」
「俺は男だぞ…」
「男でも、彼等はそう思ったんだろう。髭があったって、君は綺麗な顔をしてるから」
「俺の話はいい。さっさと御手付き様の話をしてくれ」
江島はナジュの頰を撫で頷いた。
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