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御殿編
絢爛
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屋敷に入り履物を脱ぐと、正面で待機していた使いがナジュを一目見て、どなたかと主様に問い御蔭が代わりに「御手付き様」と答えた。すると使いは「おめでとうございます」と頭を下げた。そして使いの背後から小さな少年が現れ、使いの隣に立ち礼をした。
「宴には参加されますか?」
「そのつもりだ」
「ならば、童。お連れせよ」
「かしこまりました」
小さな少年は使いに礼をして、それからナジュの前に立った。口を面で隠しており、頭は剃り上げられ坊主となっている。童と呼ばれた少年は、「こちらです」と言いナジュと股右衛門を先導する。
「宴って何をするんだ?」
「さあ…俺は参加した事ねえからな。御手付き様が集まって飲み食い…じゃねえのか?」
2人が話し合っていると、前を歩く童が疑問に簡単に答える。
「御手付き様の宴では雅菓子や酒、勿論御膳に乗ったお料理等も振る舞われます。大体の方は会合が終わるまでそこでお過ごしになられますね。御手付き様のお連れの方にも、少々離れた別室で御持て成し致しますので、ごゆるりとなさって下さい」
「へえ…御手付き様は男女入り混じって宴会か?」
「いえ、男女別にございます。神様の嫉妬を招く恐れがございますので。…まあ、少々様相に違いはございますが」
「?」
「神様達のいい方…男女共にさぞ別嬪の集まりなんだろうなぁ~」
「ええ、大変見目麗しい方ばかりでございます」
股右衛門が夢見心地で美人勢揃いの屋敷を想像する。その中にはナジュも居て、着物を肌蹴て股右衛門を誘うように合わせ目を開いていた。股右衛門の助平な顔を怪訝そうに見たナジュも、美人の女が集まると聞いて、その麗しい光景を少し覗いてみたくはなった。
「というか、お前は男も女も見境ないのか」
「おう、ねえよ!どっちにもそれぞれの良さがあるからなあ~。どっちも楽しめた方が得だろう?」
「…まあ、そうなんだろうが。綺麗な女なら…ちょっと、見てみたい…かも」
「御手付き様にお連れ様、この道を右に曲がれば遠回り、左に曲がればすぐそこに男の御手付き様達の宴の部屋がございます。どちらを通られますか?」
「?…近いんだから、左じゃ」
「い、いいや!右だ!右に行ってくれ!」
ナジュの言葉を遮って、股右衛門が先に答えた。童は「かしこまりました」と言って右に曲がった。
「何で右なんだ?」
「馬鹿っ!お前、この坊主が気を効かせてくれたんだよ!」
「遠回りなのにか?」
「鈍い奴め…左が男なら、右は…」
「あ……」
ナジュと股右衛門がこそこそと話していると、先導する童が振り向いて目元だけで笑う。
「この童も…美人は好むところにございますから…」
「はっはっは!話が早くて助かるぜ!なあ、ナジュ様!」
「……まあ、どうせ同じ場所に着くなら」
3人は静かに右の廊下を通る。廊下に面した部屋からは和気藹々とした声が漏れ、3人縦に団子の様に並んで襖の隙間から中を見ると、それはそれは麗しい景色であった。ナジュが生前見た事も無い美女が勢揃い。この世の物では無い程の美しさであった。
「……あんな美人、存在してるんだな…天女みたいだった」
「天界は広いですから…童も満足です」
「いやあ~いいもん見たな~!隙間からいい匂いもしたし、覗いてるのに気付いた2人が、手を振ってくれたしよ~」
「あれは恐らく御手付き様に振ったのだと。視線が真ん中でしたから」
「そ、そうかな…」
ナジュはそう童に言われて、手を振った2人を思い出して、少し赤くなった。童の言葉を特に気にする様子の無い股右衛門は、もう一つの楽しみに心躍らせている。
「さて次は男の方を~」
「お連れ様でしたら襖を開けて拝見できますよ!この童もご一緒によろしいでしょうか」
「かまわねえよ、ほんの少し部屋に失礼して堂々と眺めようぜ!」
「兄貴…!」
童は股右衛門を尊敬の眼差しで見る。少年が同好の士であるとわかった股右衛門は、がっちりと握手をした。その様子を興味無さそうに見ているナジュ。
「こちらが、御手付き様達の宴会部屋です」
襖を開けると、そこには女部屋に引けを取らない光景が広がっていた。
「すっげえ……美男に、男前に、美丈夫に、愛らしいのに……古今東西、見目麗しいのを片っ端から集めてきたって感じだぜ…」
股右衛門はごくりと唾を飲み込み喉を上下させる。ナジュも部屋に入り見渡すと、美しい男達が綺麗な着物を身に纏い並ぶ姿は絢爛という言葉が似合いの光景であった。見た目の年齢は、ナジュと同世代か少し上が多い。中には中年程の年齢の色気ある男も居る。
「おや、新顔だね……」
ナジュに気付いた襖近くの男が振り返った。
「宴には参加されますか?」
「そのつもりだ」
「ならば、童。お連れせよ」
「かしこまりました」
小さな少年は使いに礼をして、それからナジュの前に立った。口を面で隠しており、頭は剃り上げられ坊主となっている。童と呼ばれた少年は、「こちらです」と言いナジュと股右衛門を先導する。
「宴って何をするんだ?」
「さあ…俺は参加した事ねえからな。御手付き様が集まって飲み食い…じゃねえのか?」
2人が話し合っていると、前を歩く童が疑問に簡単に答える。
「御手付き様の宴では雅菓子や酒、勿論御膳に乗ったお料理等も振る舞われます。大体の方は会合が終わるまでそこでお過ごしになられますね。御手付き様のお連れの方にも、少々離れた別室で御持て成し致しますので、ごゆるりとなさって下さい」
「へえ…御手付き様は男女入り混じって宴会か?」
「いえ、男女別にございます。神様の嫉妬を招く恐れがございますので。…まあ、少々様相に違いはございますが」
「?」
「神様達のいい方…男女共にさぞ別嬪の集まりなんだろうなぁ~」
「ええ、大変見目麗しい方ばかりでございます」
股右衛門が夢見心地で美人勢揃いの屋敷を想像する。その中にはナジュも居て、着物を肌蹴て股右衛門を誘うように合わせ目を開いていた。股右衛門の助平な顔を怪訝そうに見たナジュも、美人の女が集まると聞いて、その麗しい光景を少し覗いてみたくはなった。
「というか、お前は男も女も見境ないのか」
「おう、ねえよ!どっちにもそれぞれの良さがあるからなあ~。どっちも楽しめた方が得だろう?」
「…まあ、そうなんだろうが。綺麗な女なら…ちょっと、見てみたい…かも」
「御手付き様にお連れ様、この道を右に曲がれば遠回り、左に曲がればすぐそこに男の御手付き様達の宴の部屋がございます。どちらを通られますか?」
「?…近いんだから、左じゃ」
「い、いいや!右だ!右に行ってくれ!」
ナジュの言葉を遮って、股右衛門が先に答えた。童は「かしこまりました」と言って右に曲がった。
「何で右なんだ?」
「馬鹿っ!お前、この坊主が気を効かせてくれたんだよ!」
「遠回りなのにか?」
「鈍い奴め…左が男なら、右は…」
「あ……」
ナジュと股右衛門がこそこそと話していると、先導する童が振り向いて目元だけで笑う。
「この童も…美人は好むところにございますから…」
「はっはっは!話が早くて助かるぜ!なあ、ナジュ様!」
「……まあ、どうせ同じ場所に着くなら」
3人は静かに右の廊下を通る。廊下に面した部屋からは和気藹々とした声が漏れ、3人縦に団子の様に並んで襖の隙間から中を見ると、それはそれは麗しい景色であった。ナジュが生前見た事も無い美女が勢揃い。この世の物では無い程の美しさであった。
「……あんな美人、存在してるんだな…天女みたいだった」
「天界は広いですから…童も満足です」
「いやあ~いいもん見たな~!隙間からいい匂いもしたし、覗いてるのに気付いた2人が、手を振ってくれたしよ~」
「あれは恐らく御手付き様に振ったのだと。視線が真ん中でしたから」
「そ、そうかな…」
ナジュはそう童に言われて、手を振った2人を思い出して、少し赤くなった。童の言葉を特に気にする様子の無い股右衛門は、もう一つの楽しみに心躍らせている。
「さて次は男の方を~」
「お連れ様でしたら襖を開けて拝見できますよ!この童もご一緒によろしいでしょうか」
「かまわねえよ、ほんの少し部屋に失礼して堂々と眺めようぜ!」
「兄貴…!」
童は股右衛門を尊敬の眼差しで見る。少年が同好の士であるとわかった股右衛門は、がっちりと握手をした。その様子を興味無さそうに見ているナジュ。
「こちらが、御手付き様達の宴会部屋です」
襖を開けると、そこには女部屋に引けを取らない光景が広がっていた。
「すっげえ……美男に、男前に、美丈夫に、愛らしいのに……古今東西、見目麗しいのを片っ端から集めてきたって感じだぜ…」
股右衛門はごくりと唾を飲み込み喉を上下させる。ナジュも部屋に入り見渡すと、美しい男達が綺麗な着物を身に纏い並ぶ姿は絢爛という言葉が似合いの光景であった。見た目の年齢は、ナジュと同世代か少し上が多い。中には中年程の年齢の色気ある男も居る。
「おや、新顔だね……」
ナジュに気付いた襖近くの男が振り返った。
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