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御殿編
最期の願い
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主様がナジュの部屋を訪れると、ナジュは股右衛門に取り敢えず身なりを整えられ、主様を迎える為、下座に座らされていた。手には変わらず鏡を持ち、俯いている。
「……」
「息災であったか…?」
「……」
「お、おい…返事…!」
ナジュの後ろに控えていた股右衛門が、心ここに在らずなナジュの肩を揺らし返事を促した。股右衛門の手がナジュに触れると、主様はそれが少し気になったようで、神通力を使って御蔭に股右衛門のことを聞いた。
ー股右衛門は、ナジュの側近となってから…どの様に接している…?
「……友とはいきませぬが…軽口を叩く程、かと」
ーむぅ…
主様は股右衛門が羨ましくなった。股右衛門が時折ナジュの名前を呼ぶのを聞き、気分は良くない。
「………変わりない」
ようやくナジュが返事を返すと、股右衛門はふうと息を吐いてまた平伏した。
「……」
「ずっと鏡を手放さぬと聞いたが、後悔しているのか?呪殺した事を…」
主様は、そのせいでナジュが意気消沈しているのかもしれないと思っていた。
「……後悔はしていない、胸がすく思いだった」
「……」
「ならば、何故ずっと鏡を見ている?」
ナジュは漸く顔を上げた。ここ、天界では腹も減らず、眠りも必要としない。連日連夜眠りを遠ざけても死に至る事はない。しかし、呪殺する前のナジュと、その顔つきは違っていた。
「……まだ恨みは尽きない。1人2人では足らない」
「……」
「…駄目だ、それだけは。お前が壊れてしまう」
主様は座布団から腰を上げると、ナジュの側に近寄り、鏡を持つその手を自らの手で包んだ。
「……!」
ー私と共に暮らそう…!下界で抱いた恨み辛みは下界に置いて…私と、心安らかに時を過ごしてくれ…!お前の傷付いた魂は、これから私が癒すよう大事にする…。縛られてはだめだ…!
「共に暮らそう。下界での想いは捨て、私と心穏やかに悠久の時を過ごそう。恨みなど持っていても、それに縛られるだけだ」
主様の暖かな手は、ナジュの手を温める。しかしナジュはその手を握り返さない。白布を見て、主様の想いとは反する望みを口にした。
「……もう、俺に望みを叶える力が無いなら、もう…終わらせてくれ」
「……?」
「終わりとは」
「……俺の命は既に尽きた。後は地に潜り眠るだけ…他の屍と同じように」
主様は強く手を握りしめた。
「……!」
ー元の亡骸に戻ると言うのか…!?それは、嫌だ…!私はお前と、愛を育みたくて…!
「だめだ、それだけは」
主様の言葉の途中で、御蔭が言葉を伝える。その先を伝えたくなかったからだ。
「…なあ、元に戻してくれ。悲願を成就できないなら、これが最後の望みだ」
ナジュの手が初めて主様の手を握り返す。瞳は悲しく濡れ、主様を激しく動揺させる。悠久を仲睦まじく過ごす伴侶になって欲しいと、眠るナジュに溢した望みは、今途絶えようとしていた。
「…!」
ー嫌だ!
「許可できない」
御蔭は主様の嘆きを、勤めて冷静に形式張ってナジュに伝える。もし、主様が自らの言葉の熱でナジュに伝えられていたならば、この先は安らかな未来に繋がっていただろう。
「…頼む」
頭を下げるナジュに狼狽える主様。御蔭は頃合いを見て、ある提案を伝える用意があった。
「……」
「息災であったか…?」
「……」
「お、おい…返事…!」
ナジュの後ろに控えていた股右衛門が、心ここに在らずなナジュの肩を揺らし返事を促した。股右衛門の手がナジュに触れると、主様はそれが少し気になったようで、神通力を使って御蔭に股右衛門のことを聞いた。
ー股右衛門は、ナジュの側近となってから…どの様に接している…?
「……友とはいきませぬが…軽口を叩く程、かと」
ーむぅ…
主様は股右衛門が羨ましくなった。股右衛門が時折ナジュの名前を呼ぶのを聞き、気分は良くない。
「………変わりない」
ようやくナジュが返事を返すと、股右衛門はふうと息を吐いてまた平伏した。
「……」
「ずっと鏡を手放さぬと聞いたが、後悔しているのか?呪殺した事を…」
主様は、そのせいでナジュが意気消沈しているのかもしれないと思っていた。
「……後悔はしていない、胸がすく思いだった」
「……」
「ならば、何故ずっと鏡を見ている?」
ナジュは漸く顔を上げた。ここ、天界では腹も減らず、眠りも必要としない。連日連夜眠りを遠ざけても死に至る事はない。しかし、呪殺する前のナジュと、その顔つきは違っていた。
「……まだ恨みは尽きない。1人2人では足らない」
「……」
「…駄目だ、それだけは。お前が壊れてしまう」
主様は座布団から腰を上げると、ナジュの側に近寄り、鏡を持つその手を自らの手で包んだ。
「……!」
ー私と共に暮らそう…!下界で抱いた恨み辛みは下界に置いて…私と、心安らかに時を過ごしてくれ…!お前の傷付いた魂は、これから私が癒すよう大事にする…。縛られてはだめだ…!
「共に暮らそう。下界での想いは捨て、私と心穏やかに悠久の時を過ごそう。恨みなど持っていても、それに縛られるだけだ」
主様の暖かな手は、ナジュの手を温める。しかしナジュはその手を握り返さない。白布を見て、主様の想いとは反する望みを口にした。
「……もう、俺に望みを叶える力が無いなら、もう…終わらせてくれ」
「……?」
「終わりとは」
「……俺の命は既に尽きた。後は地に潜り眠るだけ…他の屍と同じように」
主様は強く手を握りしめた。
「……!」
ー元の亡骸に戻ると言うのか…!?それは、嫌だ…!私はお前と、愛を育みたくて…!
「だめだ、それだけは」
主様の言葉の途中で、御蔭が言葉を伝える。その先を伝えたくなかったからだ。
「…なあ、元に戻してくれ。悲願を成就できないなら、これが最後の望みだ」
ナジュの手が初めて主様の手を握り返す。瞳は悲しく濡れ、主様を激しく動揺させる。悠久を仲睦まじく過ごす伴侶になって欲しいと、眠るナジュに溢した望みは、今途絶えようとしていた。
「…!」
ー嫌だ!
「許可できない」
御蔭は主様の嘆きを、勤めて冷静に形式張ってナジュに伝える。もし、主様が自らの言葉の熱でナジュに伝えられていたならば、この先は安らかな未来に繋がっていただろう。
「…頼む」
頭を下げるナジュに狼狽える主様。御蔭は頃合いを見て、ある提案を伝える用意があった。
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