127柱目の人柱

ど三一

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御殿編

黒い廊下

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ナジュが御殿を進んでゆくと、明らかに今までの景色と雰囲気が違う殊更綺麗な廊下に着いた。廊下には白布が敷かれ、天井から豪奢な飾りが下がっている。きっとこれが主様の居所に続く道だと、ナジュは迷いなく進んでいく。

「白い毛は…もう見えないな」

床に敷かれた布のせいもあるが、稲葉の落としていく毛は片っ端から使用人が掃除していく。その為、この主様の居所のすぐ近くの廊下は常に美しさを保っている。

埃一つない廊下をさらに進むと、道が二又に分かれていた。
右は白い布が敷かれ、白色の木材を使用した白い廊下。
左は黒い布が敷かれ、黒色の木材を使用した黒い廊下。

「どっちだ…?」

ナジュの中の神様のイメージは神聖で穢れなき清い存在で白の印象が強い。
白の方かと足を踏み入れると、どたどたと足音が近づき、白い廊下の先から御蔭の手の者が現れた。

「いたぞ!」
「侵入者だ、捕えて尋問するぞ!」
「見つかった…!」

ナジュは元来た道を振り返る。しかしそこにもナジュに向かって走ってくるものが居た。

「御手付き様~!」

鳥のようなものを追いかけるウサギの耳を持った少年が、盆を持ってすごい勢いで迫ってくる。
ナジュの生きていた時代は、人々を惑わす怨霊、妖怪の最盛期。ウサギの特徴を持つ稲葉をその類だと思った。

「ひっ…妖怪変化か!」
「ち、違います!稲葉は善良な子ウサギで!」

ナジュは逃げようと唯一敵のいない黒い廊下に足を踏み入れる。どこに繋がっているかわからないが兎に角距離を取ろうと走る。

「ま、待たれい!そちらは…!」
「お、御手付き様~!その黒い廊下は駄目でございます!」
「早く帰ってこい!」

ナジュは背後から足音がしないのと、先ほどとは打って変わって追いかけていた者達の口調が弱気になったのを不思議に思い足を止める。いつでも逃げられるように顔だけを廊下の分かれ目に向けた。追跡者達は、黒い廊下の始まりの手前で静止していた。

「そ、そちらは誰も足を踏み入れてはいけないのだ!」
「なんで!」
「お主何も感じぬのか!?」
「御手付き様は力無き人畜生でございますからー!何も感じぬのですー!疾くお帰りくださあーい!」
「このウサギ…!我等も元は人であるぞッ?!」
「……あっ!!も、申し訳ありませぬ!」

ウサギの少年が周りの追跡者達に詰られている。ナジュは追跡者達の目を盗み黒い廊下の先に進んだ。それに気付かず言い争いを続ける追跡者達。

「駄目ウサギ!」
「ドジウサギが…!」
「むっ!稲葉は御蔭様の次に偉うございます!駄目でもドジでもウサギでも地位はあるのです!皆様を稲葉の使用人にする事も思いのままなのですよ?」

ウサギの少年は小狡い笑みを浮かべて見せた。実際、主様付きの使用人は、その位の権力を持っていた。しかし他の追跡者は御蔭に取り立てられた者達で、御蔭は稲葉より地位が上。追跡者達を稲葉の意のままにする事は出来ない。

「ならば使用人修行がてら使用人頭に師事し、稲葉が御殿でやらかした数々を告げ口するとしよう」
「ああっ!?そ、それは勘弁して下され…!卑怯でございます!」
「なにを!?権力を振り翳そうとした奴がどの口で!?」
「おい、お前達…御手付き様がいないぞ!?」

1人冷静な者がナジュの姿が見えないことに気付いた。

「た、大変でございます!皆様、早く御手付き様を連れ帰ってきて下さい!」
「お主が行かんか!」
「無理です~稲葉がこんな邪気の強い場所に入ったら、自慢の白毛が抜け落ちて禿になってしまいます!」

主様に仕える者達が、足を踏み入れる事すら拒否する黒い廊下。ナジュは何も感じずどんどん奥まった場所に迷い込む。

「ここに…居るのか?」

廊下の突き当たりに一際黒が強い襖があった。引き手も縁も上貼りも黒一色。引き分けの襖には、龍の姿が描かれている。その眼は怒りと憎しみを宿し、前に立つナジュを射抜く。真っ黒な廊下と真っ黒な襖、その空間に1人白い衣を纏ったナジュは殊更異質。

ナジュは引き手に手を掛けた。





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