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 オレは仕事が終わると宿屋へと帰ってきていた。
 宿屋の代金は安い。
 一泊泊まるののに必要な代金は銅貨三枚。
 日本円にして三百円ほどの値段で、宿屋で一泊することができる。
 料理もつき、そしてお風呂にも入れるのにこのお値段とは、相当良心的なお店だろう。
 とはいえ、ここは異世界。
 異世界というのはモンスターが出現し、モンスターによって村が滅びる、なんてこともあるのがこの異世界である。
 モンスターに滅ぼされない未来だけを願って、今日も一日をこの宿屋で過ごすことにした。
 どんなに良心的なお値段なお店がそこにあったからといって、そのお店が次の日にはなくなっている。
 なんてことになったら、なんの意味もないからである。
「一泊銅貨三枚ですが、よろしいでしょうか」
「はい。お願いします」
 銅貨三枚を支払って店へと入る。
 家を購入するお金があれば、こうやって毎日宿屋で過ごす、なんてことをしなくてもいいのだが、あいにくオレは家なんてものを持ってはいない。
 家を持っているのは異世界に住んでいるものだけ。
 異世界に来たばかりのオレには、やどやでこうやって時間を過ごす、くらいのことしかやることがない。
 マイホームに妻と子どもがいる未来なんてものを見ながら、やはり家を購入したら、嫁に子供と一緒に生活をするという、そんな未来を想像しても悪いということはないだろう。
 オレは宿屋の一室に入ると、そこには椅子があり、そこでゆっくりと休憩することにした。
 椅子に座り、今日も夕食が来ないかを待つ。
 さらには肉料理が盛り付けられていて、そのおおもりに盛られた肉料理をオレはがっつりと食す。
 うまい。
 こんな料理を銅貨三枚で食うことができるのだから、本当にこの店は良心的である。
 ぜひとも、この店が明日も続いてほしいものである。
 明日にはこのお店が、この村がなくなるなんて言う未来がきたら困ったものである。
 それほどに安い宿屋はオレにとってはうれしく、オレは今日もそのお店でビールと肉を食うのであった。
 うまいうまい。
 完食完食。
「ふう。ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
 と、やどやの女の子がやってきて、笑顔でそういうのであった。
 本当にいい宿屋である。
 宿屋の女の子はかわいい子ばかりだしな。
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