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20話 初デート
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凛に指定された待ち合わせ場所へ。
生まれて初めてのデート。どんな格好をしていけばいいのか分からないので、先月、タマに選んでもらった服を選ぶ。
普段はジャージにパーカーとかジーンズにシャツとかが定番。
ポロシャツにデニムジャケットを羽織って髪も久しぶりにセットする。もともと短いのでワックスでツンツン立てるだけなんだが。
今日は買い物って言ってたんで多分、荷物持ちだな。
「感心ね。時間通りに来てるじゃない」
後ろから凛の声。
「今まで時間に遅れたことはなかったんだけどな」
振り返ると凛の姿。黒のノースリーブのワンピースに白いカーデガン。肩のところがレースみたいになっていて白い肌が見える。足元もいつものスニーカーではなくて少し高いヒールのパンプスを履いている。
「……袖が無いが、寒くないのか?」
「寒くないけど?」
俺、なにか気に障る事を言ったのか? ムッとしている…
「背が伸びたな?」
「ヒールのある靴はいてるんだから当たり前でしょ…初デートなんだからもっと気の利いたセリフ言えないのかしら?」
(初デートなんだからいきなり怒るなよ……)
「あ~その服、似合ってる。凛のイメージはジャージだったからびっくりした」
しかも、メイクまでしてる。可愛いじゃないか。
「可愛い、綺麗だって言ってほしかったんだけれど?」
あきらめた様に笑って手を差し出す凛。
「で、今日は何を買うんだ?」
手を繋いでショッピングセンターを歩き始める。
「服を翔吾に選んでほしいの。私はファッションには詳しくなくって。まあ、結局は何着ても似合うんだけれど」
「じゃあ、2階フロアのスポーツ用品店でジャージでも……イテェ!」
俺の太ももに凛の膝が刺さる。
「ジャージはもういいから! 翔吾が女の子に着てほしい服はどんなのか教えなさい!」
凛のトレーニングウェアー姿は嫌いではないんだが?
「女子の服なんてわかんねーし、何着ても似合うんなら店員に選んでもらって適当に買えよっ」
「買うなら翔吾の好みの服を着てあげるっていってるんだけれど。白状しなさい可愛い感じ? 綺麗なお姉さんみたいな感じ? あんまり露出の多いのはちょっと嫌なのだけれど」
変な汗をかきながらモールの中をうろうろしていると、何件目かの店のショーウィンドーのポスターが目に留まった。
「あれなんかどうかな? あの女優が来てる服。似合いそうだ」
ライカとか言うドラマでよく見る女優が微笑みながら、淡いブルーのロングスカートとふわっとした白いシャツをきている。なんとなく笑った凛に似ている気がする。
「ふ~ん、あんなの感じの服は持ってないわ」
どうやらお気に召さないらしい。
「いいと思ったんだけどな。今日みたいなモノトーンの服も凛のイメージだけど」
黒い服のイメージは俺にトマト食わせて喜んでいる凛だ。
「意外と可愛い感じが好きなのね」
手を引かれて店内に入っていくと店員に声を掛けられる。凛はポスターを指さしながら試着したいと言っている。
「彼女、スタイルいいし、綺麗だから何着ても似合うでしょうから彼氏さんは困りますね~」
かなりの居心地の悪さからきょろきょろしている俺に店員さんが声を掛けてくる。お洒落なお姉さん店員。
「はぁ……服を選んでくれって言われても俺はそういうのが苦手で……」
お姉さんはなかなかのやり手だった。凛が着替えている間に俺に質問を浴びせ続けて、コミュ障が話す単語の羅列のような返答から凛に似合いそうな数着の服を準備している。
「翔吾、どうかな?」
何故か少し不安そうな凛がシャツの襟の辺りを弄りながら試着室から出てくる。ポスターと同じ服。クールと言うか少しキツイ印象のある凛が、お洒落で可愛い女子になっている。女って怖ぇ……
「お…おう、似合ってる」
「もう少し感想ないの?」
「凛は綺麗だから何着ても似合うんだろうけど、その服はかわいく見える……かな?」
「かな?」
すぅっと凛の眼が鋭くなる。
「あっ、可愛く見える。すごく可愛い」
「そ、じゃあ買う」
恥ずかしいのを我慢して可愛いって言ったのに、『そ』しか反応がないし。凛は試着室の鏡の前で少しにやけた顔でポーズをとっている。自分が思ったより似合ってたのか嬉しそうだ。
「わぁ~よく似合ってますよ! ありがとうございます。 ちょっとこっちのも着てみませんか? 彼氏さんがこういうのも着てもらいたいって言ってます」
(俺は言ってねぇよ!)
肩が見える白いレースのトップスとアンクル丈のブラックスキニー。お姉さんのいうオフショルダーとかデコルテが綺麗にみえるっていう説明は意味が分からないが、大きめに開いた胸元と綺麗な足のラインに視線をどこに持っていこうか困る。それと衝撃の発見が一つ。女子の鎖骨って美しかったんだ、今まで気づかなかった。ごめん、鎖骨。鎖骨って折れると痛いっていう情報しか俺には流出してこなかったんだもん。
「どおですか、惚れ直しちゃいました?」
俺の反応を見たお姉さんがドヤァ~!って感じで嬉しそうに笑う。俺は鎖骨に謝罪していたいんだ。
「そうですね……」
見蕩れて適当な返事をしてしまう。
「……これ買います」
ビックリした顔の凛が呟く様にご購入を宣言する。
(おいおい、値札見てんのかよ?)
「ありがとうございます! 彼氏さんがこっちのミニスカート着てるのも見たいって言ってますよ? 次はこれ着てみてください」
(誰もそんな事いってねぇよ!)
「どうかしら?」
ゆったりしたオフホワイトにネイビーのボーダーニット。凛の華奢な体が強調される。もちろんスカートは黒のタイトなミニ。キックボクシングやってるのにあざの一つもない真っ白な足。生足やべぇ……。
恐ろしいのは凛よりお姉さんの不意打ちだった。
凛が腰に手を当ててポーズをとるのを見つめている俺の耳元でお姉さんが囁く。
「男の子ってこういうコーデの女の子、大好きですよね?」(ヒソヒソ…)
「大好きです」
無意識のうちに魂の声が口から飛び出す。嫌いな男なんていないだろ!? スカートの裾から足首までは戦場だ。生足かニーハイかストッキングの覇権をかける三国志。ストッキングから生足の国へ赤兎馬を駆って寝返ってしまいそうだ。
「ちょっ! 翔吾いきなり好きとか恥ずかしいじゃない…… あっあとでちゃんと聞いてあげるから」
「すまん、つい思ったこと喋ってしまった」
「えっ…ええっ!?」
真っ赤になった凛が『あわわわ』とか言いながら、『これもください』とお姉さんに告げる。
凛の財布を心配したが、母親に彼が出来たんなら可愛い格好をしなさいと小遣いをもらったそうな。
「あと、この花柄のワンピはマストバイですね。今日着ているカーデガンと合わせて鉄板デートコーデ。甘めで可愛いですよ~」
ヤバイ、このお姉さん。あと30分で店の服を全部凛が買ってしまいそうだ。
「おい、これだけ買ったらもういいだろ? 次行こう」
名残惜しそうにワンピースを眺める凛を引きずるようにレジで精算してもらう。
予定通り荷物持ちの役目を任命されて両手に紙袋を下げて凛について行く。
よほど気に入ったのか買ったニットとミニスカートをそのまま着ている。しかし周りの男どもの視線が凄いな。
「買い物はもういいのか?」
ニマニマ笑みを浮かべて隣を歩く凛に声を掛ける。まだ、待ち合わせてから1時間も経っていない。
「ん? 私はもう十分よ。翔吾はどこか行きたいお店はあるの?」
女子は買い物が長いという先入観があったが凛はあっさりしている。タマはユニクロでもウンウンうなって服を1枚買うのも1時間コースだ。
タマの場合はサイズの問題もあるんだろうが……
「俺は特にはないな。どうする? お茶でも飲むか、映画とかゲームセンターとか?」
「定番だけど映画に行きたいかな? いまやってる映画で見たいのがあるの」
シネコンに移動してチケットを買う。あと10分で上映が始まる。タイミングが良かった。
「意外だな。恋愛ものなんて見るのか? キックしか興味がないのかと思ってた。で、どんなストーリーなんだ?」
凛が見たいといった映画はベストセラーの実写化で俺でも題名くらい聞いたことがあるものだった。
「本当はアクションとかサスペンスが好きなのだけれどデートだし? 見たいって言ってもストーリーも知らないのだけれど」
「そんならチケット買う前に言えよ」
キャラメル味のポップコーンをもそもそ食べながら映画が始まるのを待つ。
しかし、映画は俺の予想に反して
なかなか面白かった。2人のピアニストが出会う。病気で耳が聞こえなくなっていくヒロインを優しく支える彼を好きになっていくというストーリー。さっき服を買ったショップのイメージモデルのライカがヒロイン役。
映画にのめり込んでいると凛が肩に頭を預けてくる。肩に触れる柔らかい髪とサムライの香り。映画に集中できないじゃないか!
スクリーンでは二人が連弾というのか並んでピアノを弾いている。耳の聞こえないヒロインが弾く曲に合わせて男が曲を紡いでお互いの気持ちを確認する場面。
ちょっと涙腺が緩んできた。隣の凛はどんな表情で映画を見てるんだろう?
マジか、コイツ! …凛は安らかな微笑みを浮かべて熟睡している。すうすうと寝息まで聞こえる。
鼻をつまんで起こしてやろうとして手を伸ばして思いとどまる。疲れてるんだろうな。
(黙ってりゃ文句ないんだけどな)
寝ていることに安心して凛の顔を見つめる。口を開けばろくなことを言わない。このままずっと寝ていればいいのに、3ヶ月。
長い睫、スクリーンの光に照らされる白い肌と艶やかな唇。頬にかかる一房の髪。俺は無意識にその髪をそっと細い肩に流す。
「あ……」
ぱちっと目を開けた凛が見たことが無いくらい動揺している。
シートに座りなおしてコホンと咳払いしているのが可愛かった。
生まれて初めてのデート。どんな格好をしていけばいいのか分からないので、先月、タマに選んでもらった服を選ぶ。
普段はジャージにパーカーとかジーンズにシャツとかが定番。
ポロシャツにデニムジャケットを羽織って髪も久しぶりにセットする。もともと短いのでワックスでツンツン立てるだけなんだが。
今日は買い物って言ってたんで多分、荷物持ちだな。
「感心ね。時間通りに来てるじゃない」
後ろから凛の声。
「今まで時間に遅れたことはなかったんだけどな」
振り返ると凛の姿。黒のノースリーブのワンピースに白いカーデガン。肩のところがレースみたいになっていて白い肌が見える。足元もいつものスニーカーではなくて少し高いヒールのパンプスを履いている。
「……袖が無いが、寒くないのか?」
「寒くないけど?」
俺、なにか気に障る事を言ったのか? ムッとしている…
「背が伸びたな?」
「ヒールのある靴はいてるんだから当たり前でしょ…初デートなんだからもっと気の利いたセリフ言えないのかしら?」
(初デートなんだからいきなり怒るなよ……)
「あ~その服、似合ってる。凛のイメージはジャージだったからびっくりした」
しかも、メイクまでしてる。可愛いじゃないか。
「可愛い、綺麗だって言ってほしかったんだけれど?」
あきらめた様に笑って手を差し出す凛。
「で、今日は何を買うんだ?」
手を繋いでショッピングセンターを歩き始める。
「服を翔吾に選んでほしいの。私はファッションには詳しくなくって。まあ、結局は何着ても似合うんだけれど」
「じゃあ、2階フロアのスポーツ用品店でジャージでも……イテェ!」
俺の太ももに凛の膝が刺さる。
「ジャージはもういいから! 翔吾が女の子に着てほしい服はどんなのか教えなさい!」
凛のトレーニングウェアー姿は嫌いではないんだが?
「女子の服なんてわかんねーし、何着ても似合うんなら店員に選んでもらって適当に買えよっ」
「買うなら翔吾の好みの服を着てあげるっていってるんだけれど。白状しなさい可愛い感じ? 綺麗なお姉さんみたいな感じ? あんまり露出の多いのはちょっと嫌なのだけれど」
変な汗をかきながらモールの中をうろうろしていると、何件目かの店のショーウィンドーのポスターが目に留まった。
「あれなんかどうかな? あの女優が来てる服。似合いそうだ」
ライカとか言うドラマでよく見る女優が微笑みながら、淡いブルーのロングスカートとふわっとした白いシャツをきている。なんとなく笑った凛に似ている気がする。
「ふ~ん、あんなの感じの服は持ってないわ」
どうやらお気に召さないらしい。
「いいと思ったんだけどな。今日みたいなモノトーンの服も凛のイメージだけど」
黒い服のイメージは俺にトマト食わせて喜んでいる凛だ。
「意外と可愛い感じが好きなのね」
手を引かれて店内に入っていくと店員に声を掛けられる。凛はポスターを指さしながら試着したいと言っている。
「彼女、スタイルいいし、綺麗だから何着ても似合うでしょうから彼氏さんは困りますね~」
かなりの居心地の悪さからきょろきょろしている俺に店員さんが声を掛けてくる。お洒落なお姉さん店員。
「はぁ……服を選んでくれって言われても俺はそういうのが苦手で……」
お姉さんはなかなかのやり手だった。凛が着替えている間に俺に質問を浴びせ続けて、コミュ障が話す単語の羅列のような返答から凛に似合いそうな数着の服を準備している。
「翔吾、どうかな?」
何故か少し不安そうな凛がシャツの襟の辺りを弄りながら試着室から出てくる。ポスターと同じ服。クールと言うか少しキツイ印象のある凛が、お洒落で可愛い女子になっている。女って怖ぇ……
「お…おう、似合ってる」
「もう少し感想ないの?」
「凛は綺麗だから何着ても似合うんだろうけど、その服はかわいく見える……かな?」
「かな?」
すぅっと凛の眼が鋭くなる。
「あっ、可愛く見える。すごく可愛い」
「そ、じゃあ買う」
恥ずかしいのを我慢して可愛いって言ったのに、『そ』しか反応がないし。凛は試着室の鏡の前で少しにやけた顔でポーズをとっている。自分が思ったより似合ってたのか嬉しそうだ。
「わぁ~よく似合ってますよ! ありがとうございます。 ちょっとこっちのも着てみませんか? 彼氏さんがこういうのも着てもらいたいって言ってます」
(俺は言ってねぇよ!)
肩が見える白いレースのトップスとアンクル丈のブラックスキニー。お姉さんのいうオフショルダーとかデコルテが綺麗にみえるっていう説明は意味が分からないが、大きめに開いた胸元と綺麗な足のラインに視線をどこに持っていこうか困る。それと衝撃の発見が一つ。女子の鎖骨って美しかったんだ、今まで気づかなかった。ごめん、鎖骨。鎖骨って折れると痛いっていう情報しか俺には流出してこなかったんだもん。
「どおですか、惚れ直しちゃいました?」
俺の反応を見たお姉さんがドヤァ~!って感じで嬉しそうに笑う。俺は鎖骨に謝罪していたいんだ。
「そうですね……」
見蕩れて適当な返事をしてしまう。
「……これ買います」
ビックリした顔の凛が呟く様にご購入を宣言する。
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「どうかしら?」
ゆったりしたオフホワイトにネイビーのボーダーニット。凛の華奢な体が強調される。もちろんスカートは黒のタイトなミニ。キックボクシングやってるのにあざの一つもない真っ白な足。生足やべぇ……。
恐ろしいのは凛よりお姉さんの不意打ちだった。
凛が腰に手を当ててポーズをとるのを見つめている俺の耳元でお姉さんが囁く。
「男の子ってこういうコーデの女の子、大好きですよね?」(ヒソヒソ…)
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「ちょっ! 翔吾いきなり好きとか恥ずかしいじゃない…… あっあとでちゃんと聞いてあげるから」
「すまん、つい思ったこと喋ってしまった」
「えっ…ええっ!?」
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凛の財布を心配したが、母親に彼が出来たんなら可愛い格好をしなさいと小遣いをもらったそうな。
「あと、この花柄のワンピはマストバイですね。今日着ているカーデガンと合わせて鉄板デートコーデ。甘めで可愛いですよ~」
ヤバイ、このお姉さん。あと30分で店の服を全部凛が買ってしまいそうだ。
「おい、これだけ買ったらもういいだろ? 次行こう」
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予定通り荷物持ちの役目を任命されて両手に紙袋を下げて凛について行く。
よほど気に入ったのか買ったニットとミニスカートをそのまま着ている。しかし周りの男どもの視線が凄いな。
「買い物はもういいのか?」
ニマニマ笑みを浮かべて隣を歩く凛に声を掛ける。まだ、待ち合わせてから1時間も経っていない。
「ん? 私はもう十分よ。翔吾はどこか行きたいお店はあるの?」
女子は買い物が長いという先入観があったが凛はあっさりしている。タマはユニクロでもウンウンうなって服を1枚買うのも1時間コースだ。
タマの場合はサイズの問題もあるんだろうが……
「俺は特にはないな。どうする? お茶でも飲むか、映画とかゲームセンターとか?」
「定番だけど映画に行きたいかな? いまやってる映画で見たいのがあるの」
シネコンに移動してチケットを買う。あと10分で上映が始まる。タイミングが良かった。
「意外だな。恋愛ものなんて見るのか? キックしか興味がないのかと思ってた。で、どんなストーリーなんだ?」
凛が見たいといった映画はベストセラーの実写化で俺でも題名くらい聞いたことがあるものだった。
「本当はアクションとかサスペンスが好きなのだけれどデートだし? 見たいって言ってもストーリーも知らないのだけれど」
「そんならチケット買う前に言えよ」
キャラメル味のポップコーンをもそもそ食べながら映画が始まるのを待つ。
しかし、映画は俺の予想に反して
なかなか面白かった。2人のピアニストが出会う。病気で耳が聞こえなくなっていくヒロインを優しく支える彼を好きになっていくというストーリー。さっき服を買ったショップのイメージモデルのライカがヒロイン役。
映画にのめり込んでいると凛が肩に頭を預けてくる。肩に触れる柔らかい髪とサムライの香り。映画に集中できないじゃないか!
スクリーンでは二人が連弾というのか並んでピアノを弾いている。耳の聞こえないヒロインが弾く曲に合わせて男が曲を紡いでお互いの気持ちを確認する場面。
ちょっと涙腺が緩んできた。隣の凛はどんな表情で映画を見てるんだろう?
マジか、コイツ! …凛は安らかな微笑みを浮かべて熟睡している。すうすうと寝息まで聞こえる。
鼻をつまんで起こしてやろうとして手を伸ばして思いとどまる。疲れてるんだろうな。
(黙ってりゃ文句ないんだけどな)
寝ていることに安心して凛の顔を見つめる。口を開けばろくなことを言わない。このままずっと寝ていればいいのに、3ヶ月。
長い睫、スクリーンの光に照らされる白い肌と艶やかな唇。頬にかかる一房の髪。俺は無意識にその髪をそっと細い肩に流す。
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