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14話 あ~んよりトマト
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凛からの予告時間通りにモーニングコール。睡眠時間が絶望的に不足して身体が重い。
「ワンコールで出るように言ったでしょう? そんなに楽しみで寝つけなかったの?」
……着信拒否してなかった自分が許せない。
「遠足前日の小学生か?俺は」
「まだ、寝ぼけているのね。面白くないわ。集合に遅れないで」
(切れたよ……)
軽く水分補給をして着替えて集合場所の駐車場まで走り始める。
身体が重い。昨日の疲労が抜けきってない。
10分前に待ち合わせの駐車場に到着。凛はまだ来ていないようだ。
身体を動かしたことと、肌寒い気温で意識はすでに覚醒していたが待っている間に眠気の波がやってくる。
「おはよう、早いのね待った?」
もちろん、声の主は凛だ。
「10分ぐらい待ったかな? 待っている間に眠くなって……痛っ!」
大口を開けて欠伸をしている俺の上腕二頭筋に凛の龍頭拳によるショートフックが突き刺さる。
「お…おま…え、朝っぱらから…なにするんだ…」
俺はマジで少し泣いていたと思う。17歳になって初めて痛くて流す涙だった。
ちっくしょ、昨日のスパーで見せた俺の小技を真似てやがる。ここを何度も叩かれると腕が痺れてガードが下がるんだよな。
しかもとっても痛い。
「私は時間調度にここに来たし、デートだったら『俺も今来たところ』か『凛の顔が早く見たくて』か『凛を待つ時間も僕にとっては大切な時間なんだ』の3択で答えなさい」
感情のこもらない氷のような目で俺にデートのイロハを教えてくれる凛。勉強になります。
「はいはい、オレモイマキタトコロダー」
「ふん、いまいち感情がこもっていないけどまあいいわ、じゃあ軽く2キロ程走るわよ?」
「ワカッタヨ……」
俺たちは息が上がらない程度のペースで、1周約2キロのジョギングコースを走り始める。
「……昨日の省吾の話なんだけど?」
「なんだ?」
「幼馴染のタマって子の事。どんな子?」
「言っただろ? 料理がうまくって一緒に居て楽しい奴だ」
「その…好きなの?」
「ああ、好きだけど、どうかした…イダァ!」
俺の右わき腹に凛の中高一本拳が突き刺さる。
「サイテー」
「聞いたのはそっちだろうが!」
俺の眼には握り込んだ拳が正拳ではないことがはっきり写り込んでいた。
「ただの嫉妬だから」
「返答次第で殴るんなら聞かないで? マジで」
美羽のパンチより速かった。
「女の子はみんな、独占欲が強いの。『凛がいれば何もいらない』、いいから一回言ってみなさい!」
「言わされてる感、満載だし……」
何だよ! バイトのマニュアル通りに接客したらキレたくせに……
「いいから!」
「『リン』ガイレバ、ナンニモイラナイヨー」
「ハァ、もう少し感情を込められない?」
「ムリダロー」
2キロをジョギングする10分程度で散々、凛の色に染められたような気がする。チクショウ。
その後、インターバルトレーニング、坂道ダッシュ、最後に再度2キロのダウンジョグをして終了。凛は思ったよりハードな稽古をしている。
「私の家に来ない? なんなら朝食を作ってもいいのよ?」
「だから知ってて言ってんのかよ? でも、いいのかよ 悪いな」
今日は土曜日。今日は散々洗脳と虐待を受けてるんだから朝飯くらいご馳走になってもいいだろう。
自宅に帰っても今日の朝飯当番は美羽だから、メニューはシリアルにミルクだな。
凛の母親は看護師で今日は家にいるが夜勤明けで寝ているらしい。親父さんは体調を崩して入院中とのこと。
「少しは女の子らしいところを見せるわ」
凛は自信ありげに微笑むが、俺は味にはうるさいぜ? なんたってタマの飯で大きくなったからな。
凛の家でその後、朝食をご馳走になった。
メニューは平凡なトーストとサラダとベーコンエッグ。オレンジジュース。味付けもまっとうで旨い(このメニューではあまり料理の腕は関係ないかも)だけど飯を作ってもらえるって事は俺にとってすごくうれしい。
しかし……、凛の朝食の量が気になる。
「それだけでいいのか? 少食だな…」
「一応、プロ目指してるから食べる量には気を使ってるの。翔吾は気にしないで。足りないなら作るわよ?」
「減量がキツイのか? でも、それじゃあ、昼飯までもたないだろ? もっと食えよ、俺は飯を旨そうにガンガン食べる女の子が好きなんだ」
前から気になっていたが少し、顔色が悪い。
「……そう、分かった」
凛は立ち上がり同じメニューをもう1人前作り半分を俺の皿に盛り付ける。
「それと凛、トマトは苦手なんだ勘弁してくれないか?」
最初の一皿は無理して飲み込んだが気絶するかと思った。
村上家では食べ物を残すことは許されない。お皿の上は食べ切りが原則だ。
「私はトマトを美味しそうにガンガン食べる男の子が好きなんだけど?」
「そうか? 残念だな俺はガンガン、トマトを喰ったら死んでしまうんだ……」
俺の皿に凛のトマトが放り込まれる。
「何するんだ! トマトは絶対ダメなんだ……、中のぶよってしたところなんか、両生類の卵っぽくて、ミニトマトなんかか噛んだら、中から卵が『ぷしゃー』って飛び出してきて……フルーツトマトなんて果物じゃねぇよ……」
俺はトマトという野菜が人間にとって、いかに食用に適さないか俺のSAN値に致命的な影響を与えることを必死に訴える。
俺の必死の訴えも凛には通じない。クスクス笑っているだけだ。
赤い悪魔の実をフォークで突き刺して凛の皿に返品しようとするが皿は俺の射程外まで身体を捻ってすでに避難を完了している。
「こらっ、おとなしくトマトを受け取れ!」
「い・や・よ!」
「謝るから! 初めて彼女に作ってもらった朝飯だ、美味しかったって言いたいんだよ!」
俺のフォークから逃れるように身体を反らしていた凛の顔が赤くなる。
「……そうね、分かったわよ、ほら」
少し目をそらした凛が口を開ける。
(なんだ?)
「ほらって早く! 恥ずかしいんだから!」
「おお! あ~んって奴だな!」
俺の方は照れくささよりも悪魔の実を食べなくて済む事にホッとしながらトマトを凛の口に突っ込む。
「……おいひぃ」
やはり照れくさいのか顔をそむけているが耳まで気のせいか赤い。
しかし、赤い悪魔をマヨもなしで『おいひぃ』とは……信じられない。味覚を脳に伝える神経が切れているか運動神経に接続されているか、脳神経外科のえらい先生に診てもらうべき症例だ。
「おー凛、お前そんなキャラだったのか! もう一つどうだ?」
トマトを凛の口の中に返品できたことでテンションが上がってしまったが、本来はラブラブカップルだけが厳かに執り行う大イベントの一つだ。
だが俺の皿にはまだ一切れ赤い悪魔がいる。
「翔吾も、はい、あ~ん」
「おいっ、トマトはダメだって言ってんだろ!」
「いいじゃない、私もちょっとやってみたかったのよ」
「だから、トマトじゃなくてもいいだろうが!」
「わかったわよ、はい、あ~ん」
凛の溜息と共にトマトは皿にもどされ、半熟卵を絡めたベーコンが差し出される。
「……旨い」
「そう、よかった」
凛はまんざらではなさそうだ。
しかし、世の中の恋人同士ではこんなこっぱずかしいことを日常行っているのか?
「ワンコールで出るように言ったでしょう? そんなに楽しみで寝つけなかったの?」
……着信拒否してなかった自分が許せない。
「遠足前日の小学生か?俺は」
「まだ、寝ぼけているのね。面白くないわ。集合に遅れないで」
(切れたよ……)
軽く水分補給をして着替えて集合場所の駐車場まで走り始める。
身体が重い。昨日の疲労が抜けきってない。
10分前に待ち合わせの駐車場に到着。凛はまだ来ていないようだ。
身体を動かしたことと、肌寒い気温で意識はすでに覚醒していたが待っている間に眠気の波がやってくる。
「おはよう、早いのね待った?」
もちろん、声の主は凛だ。
「10分ぐらい待ったかな? 待っている間に眠くなって……痛っ!」
大口を開けて欠伸をしている俺の上腕二頭筋に凛の龍頭拳によるショートフックが突き刺さる。
「お…おま…え、朝っぱらから…なにするんだ…」
俺はマジで少し泣いていたと思う。17歳になって初めて痛くて流す涙だった。
ちっくしょ、昨日のスパーで見せた俺の小技を真似てやがる。ここを何度も叩かれると腕が痺れてガードが下がるんだよな。
しかもとっても痛い。
「私は時間調度にここに来たし、デートだったら『俺も今来たところ』か『凛の顔が早く見たくて』か『凛を待つ時間も僕にとっては大切な時間なんだ』の3択で答えなさい」
感情のこもらない氷のような目で俺にデートのイロハを教えてくれる凛。勉強になります。
「はいはい、オレモイマキタトコロダー」
「ふん、いまいち感情がこもっていないけどまあいいわ、じゃあ軽く2キロ程走るわよ?」
「ワカッタヨ……」
俺たちは息が上がらない程度のペースで、1周約2キロのジョギングコースを走り始める。
「……昨日の省吾の話なんだけど?」
「なんだ?」
「幼馴染のタマって子の事。どんな子?」
「言っただろ? 料理がうまくって一緒に居て楽しい奴だ」
「その…好きなの?」
「ああ、好きだけど、どうかした…イダァ!」
俺の右わき腹に凛の中高一本拳が突き刺さる。
「サイテー」
「聞いたのはそっちだろうが!」
俺の眼には握り込んだ拳が正拳ではないことがはっきり写り込んでいた。
「ただの嫉妬だから」
「返答次第で殴るんなら聞かないで? マジで」
美羽のパンチより速かった。
「女の子はみんな、独占欲が強いの。『凛がいれば何もいらない』、いいから一回言ってみなさい!」
「言わされてる感、満載だし……」
何だよ! バイトのマニュアル通りに接客したらキレたくせに……
「いいから!」
「『リン』ガイレバ、ナンニモイラナイヨー」
「ハァ、もう少し感情を込められない?」
「ムリダロー」
2キロをジョギングする10分程度で散々、凛の色に染められたような気がする。チクショウ。
その後、インターバルトレーニング、坂道ダッシュ、最後に再度2キロのダウンジョグをして終了。凛は思ったよりハードな稽古をしている。
「私の家に来ない? なんなら朝食を作ってもいいのよ?」
「だから知ってて言ってんのかよ? でも、いいのかよ 悪いな」
今日は土曜日。今日は散々洗脳と虐待を受けてるんだから朝飯くらいご馳走になってもいいだろう。
自宅に帰っても今日の朝飯当番は美羽だから、メニューはシリアルにミルクだな。
凛の母親は看護師で今日は家にいるが夜勤明けで寝ているらしい。親父さんは体調を崩して入院中とのこと。
「少しは女の子らしいところを見せるわ」
凛は自信ありげに微笑むが、俺は味にはうるさいぜ? なんたってタマの飯で大きくなったからな。
凛の家でその後、朝食をご馳走になった。
メニューは平凡なトーストとサラダとベーコンエッグ。オレンジジュース。味付けもまっとうで旨い(このメニューではあまり料理の腕は関係ないかも)だけど飯を作ってもらえるって事は俺にとってすごくうれしい。
しかし……、凛の朝食の量が気になる。
「それだけでいいのか? 少食だな…」
「一応、プロ目指してるから食べる量には気を使ってるの。翔吾は気にしないで。足りないなら作るわよ?」
「減量がキツイのか? でも、それじゃあ、昼飯までもたないだろ? もっと食えよ、俺は飯を旨そうにガンガン食べる女の子が好きなんだ」
前から気になっていたが少し、顔色が悪い。
「……そう、分かった」
凛は立ち上がり同じメニューをもう1人前作り半分を俺の皿に盛り付ける。
「それと凛、トマトは苦手なんだ勘弁してくれないか?」
最初の一皿は無理して飲み込んだが気絶するかと思った。
村上家では食べ物を残すことは許されない。お皿の上は食べ切りが原則だ。
「私はトマトを美味しそうにガンガン食べる男の子が好きなんだけど?」
「そうか? 残念だな俺はガンガン、トマトを喰ったら死んでしまうんだ……」
俺の皿に凛のトマトが放り込まれる。
「何するんだ! トマトは絶対ダメなんだ……、中のぶよってしたところなんか、両生類の卵っぽくて、ミニトマトなんかか噛んだら、中から卵が『ぷしゃー』って飛び出してきて……フルーツトマトなんて果物じゃねぇよ……」
俺はトマトという野菜が人間にとって、いかに食用に適さないか俺のSAN値に致命的な影響を与えることを必死に訴える。
俺の必死の訴えも凛には通じない。クスクス笑っているだけだ。
赤い悪魔の実をフォークで突き刺して凛の皿に返品しようとするが皿は俺の射程外まで身体を捻ってすでに避難を完了している。
「こらっ、おとなしくトマトを受け取れ!」
「い・や・よ!」
「謝るから! 初めて彼女に作ってもらった朝飯だ、美味しかったって言いたいんだよ!」
俺のフォークから逃れるように身体を反らしていた凛の顔が赤くなる。
「……そうね、分かったわよ、ほら」
少し目をそらした凛が口を開ける。
(なんだ?)
「ほらって早く! 恥ずかしいんだから!」
「おお! あ~んって奴だな!」
俺の方は照れくささよりも悪魔の実を食べなくて済む事にホッとしながらトマトを凛の口に突っ込む。
「……おいひぃ」
やはり照れくさいのか顔をそむけているが耳まで気のせいか赤い。
しかし、赤い悪魔をマヨもなしで『おいひぃ』とは……信じられない。味覚を脳に伝える神経が切れているか運動神経に接続されているか、脳神経外科のえらい先生に診てもらうべき症例だ。
「おー凛、お前そんなキャラだったのか! もう一つどうだ?」
トマトを凛の口の中に返品できたことでテンションが上がってしまったが、本来はラブラブカップルだけが厳かに執り行う大イベントの一つだ。
だが俺の皿にはまだ一切れ赤い悪魔がいる。
「翔吾も、はい、あ~ん」
「おいっ、トマトはダメだって言ってんだろ!」
「いいじゃない、私もちょっとやってみたかったのよ」
「だから、トマトじゃなくてもいいだろうが!」
「わかったわよ、はい、あ~ん」
凛の溜息と共にトマトは皿にもどされ、半熟卵を絡めたベーコンが差し出される。
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