1 / 52
第1章
00話 路有【みちあり】と椿
しおりを挟む
西暦1281年 弘安四年
まだ薄暗い早朝。
神社の境内で少年は木刀を振っていた。愚直に無心に同じ型を何度も何度も。
歳は10代前半、ぼさぼさの髪を無造作に縛り、質素な直垂は肌寒い早春であっても汗に濡れている。
少年は毎日ここで剣術の修練をし、日が昇るとどこかへ帰っていく。
そんな日々を毎日飽きる事無く眺めている女がいた。
女は境内にある『船岩』とよばれる岩山の上に立つ椿の古木の精霊。
この神社に祀られる二柱の神が船からこの地に降り立った時も今と変わらず古木の傍らにたたずみ精霊は眺めていた。(その当時、この神社のあった場所は海辺だった)
いつしか、この地に神を祀る神社が建立される。
椿の木は何百年もその寿命が続かない。記憶を思い出を一つの木の実に刻み次代の神木へつないできた。
月日が流れ精霊は八代目。
千六百年の記憶を刻んだ木の実を掌に握り、少年が放つ美しい魂の輝きを熱心に眺めていた。
ある暑い夏の朝、精霊は青年になった男の前に思い切って姿を現した。
精霊は神社に参拝に訪れる娘の身なりをまねた着物を身に着け恐る恐る椀に入った水を差しだした。
青年は突然現れた美しい娘に笑顔で礼を言うと椀を受け取った。
男は通有と名乗る。髪を整え、身なりを整えれば都でも女達の熱い視線に晒されるだろう。
精霊は人間のふりをして「椿」とだけ名乗った。
その日から、通有が稽古を終えるとどこからともなく椿が現れ、たわいのない話をした。
そのひと時が精霊にとって百年の記憶にも匹敵する想いを木の実に刻む出来事だった。
ある朝、通有が戦に行くと思い詰めた表情で椿に語った。
強大な異国の兵がこの国に攻めてきている。何時帰ってこられるか、生きて帰ってこられるかも分からないと。
通有は椿に、戦から帰ってきた時、一緒になってほしいと告げる。
椿は心配しながらも了承する。
出立の日、椿は神木の一枝を手折り、自身の加護と魔力を精一杯込め、通有に手渡す。
受け取った通有は帯にその枝を差し、笑顔で手を振り出陣した。
数か月後、怪我を負いながらも伊予の国に戻ってきた通有は、約束通り椿と夫婦となった。
しかし、それから3年後には、命を削り通有の守護の術に力を使い果たした椿の精霊は本来生きながらえることが出来た時間より50年以上早くこの世から消滅し、次代の精霊に立場を譲ることとなった。
通有との間に生まれた男の子を残して。
まだ薄暗い早朝。
神社の境内で少年は木刀を振っていた。愚直に無心に同じ型を何度も何度も。
歳は10代前半、ぼさぼさの髪を無造作に縛り、質素な直垂は肌寒い早春であっても汗に濡れている。
少年は毎日ここで剣術の修練をし、日が昇るとどこかへ帰っていく。
そんな日々を毎日飽きる事無く眺めている女がいた。
女は境内にある『船岩』とよばれる岩山の上に立つ椿の古木の精霊。
この神社に祀られる二柱の神が船からこの地に降り立った時も今と変わらず古木の傍らにたたずみ精霊は眺めていた。(その当時、この神社のあった場所は海辺だった)
いつしか、この地に神を祀る神社が建立される。
椿の木は何百年もその寿命が続かない。記憶を思い出を一つの木の実に刻み次代の神木へつないできた。
月日が流れ精霊は八代目。
千六百年の記憶を刻んだ木の実を掌に握り、少年が放つ美しい魂の輝きを熱心に眺めていた。
ある暑い夏の朝、精霊は青年になった男の前に思い切って姿を現した。
精霊は神社に参拝に訪れる娘の身なりをまねた着物を身に着け恐る恐る椀に入った水を差しだした。
青年は突然現れた美しい娘に笑顔で礼を言うと椀を受け取った。
男は通有と名乗る。髪を整え、身なりを整えれば都でも女達の熱い視線に晒されるだろう。
精霊は人間のふりをして「椿」とだけ名乗った。
その日から、通有が稽古を終えるとどこからともなく椿が現れ、たわいのない話をした。
そのひと時が精霊にとって百年の記憶にも匹敵する想いを木の実に刻む出来事だった。
ある朝、通有が戦に行くと思い詰めた表情で椿に語った。
強大な異国の兵がこの国に攻めてきている。何時帰ってこられるか、生きて帰ってこられるかも分からないと。
通有は椿に、戦から帰ってきた時、一緒になってほしいと告げる。
椿は心配しながらも了承する。
出立の日、椿は神木の一枝を手折り、自身の加護と魔力を精一杯込め、通有に手渡す。
受け取った通有は帯にその枝を差し、笑顔で手を振り出陣した。
数か月後、怪我を負いながらも伊予の国に戻ってきた通有は、約束通り椿と夫婦となった。
しかし、それから3年後には、命を削り通有の守護の術に力を使い果たした椿の精霊は本来生きながらえることが出来た時間より50年以上早くこの世から消滅し、次代の精霊に立場を譲ることとなった。
通有との間に生まれた男の子を残して。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
美枝子とゆうすけ~かあさんに恋したら
佐伯達男
恋愛
お見合いを断られた青年が好きになった人は…
お見合い相手のバツイチママであった。
バツイチで4人の孫ちゃんのおばあちゃんとうんと年下の青年の恋に、ますます複雑になって行く30娘の恋模様。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる