虚口の犬。alternative

23.知らないままでいたい

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言われて拳を握りしめる。

落ち着こうと吐息した。

「…分かりました。よろしくお願いいたします」

ため息を吐いた神木に頭を下げる。

「最近の君は冷静さを欠いているように思うよ。少し頭を冷やしたまえ。それから明日は九時三十分に車を出すのでそのつもりで」

「理央様が求めておられるアルファを教えていただくことは出来ませんか。俺は…焦っているのだと思います」

冷やかな神木の視線に耐えきれずに目を伏せた。

「君がすべきことは剱として理央の側に居ることだ。…余計なことはするな」

「ですが、」

「自分の愚鈍さを呪っているのなら――」

遮られて思わず神木を見る。



「これ以上愚かなことはするな、と言っているんだよ、僕は」



そう続けた神木に、俺は何も言えなかった。

俺を愚かだと断じることが出来る神木を羨ましいと思う。

自分がどうしたらいいのか、どうしたら理央の為になるのか分からない俺よりも、神木は余程理央の役に立っているといえた。

「自分は愚かなことをしているのですね。…かしこまりました、九時三十分に」



俺にはもう、何が正しいのか分からなかった。



※



翌日、邸を出た理央はホテルに向かった。

それを車で追ったが、結局俺は神木に車中に拘束され、理央が会った相手を知ることは出来なかった。

「っ、ロックを解除して下さい、」

「その必要は無い」

「っ何故、もしも理央様に何かあったら――」

「予めこちらで人員を配置している。問題は無い」

「…ッ、」

何も出来ない自身に苛立つ。

携帯デバイスで何かしらを話している神木の言葉や漏れ聞こえてくる音声に集中したが結局事情は何も解らなかった。

俺はただ、理央が会った相手がアルファかどうかを知りたくて仕方がなく。

もしも、現在理央が会っている相手がアルファであれば、それが理央の愛しているアルファで相違ない。



それがわかればおれでもりおにあいされることができる。



瞬間、息を飲んだ。



（俺は今、何を考えた――？）



思わず口もとを手のひらで覆った。

吐き気がする。

「どうした、大和」

「…邸へ帰ります」

「…気が済んだのか」

「…はい」

俺は今、理央の側に居るべき人間ではない。



（このままでは俺が理央を傷付ける）



理央が折角相手と会えたのだ。俺はそれを素直に喜べばいい。



（それを、自分が相手になり変わろうなどと、…）



理央の為と言いながら、結局は自分の為だったのだ。