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21.あるいはその全て
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翌朝。
謹慎が解除されると同時に車を手配し、エントランスに向かいながら理央に連絡した。
『…どうした』
「お早うございます。起こしてしまいましたか」
『いや…、』
歯切れの悪い様子の理央の声と衣擦れの音に微かな焦燥を感じ、奥歯を噛み締める。
「…謹慎が解除されましたので…これから戻ります。よろしいでしょうか」
『っ、あぁ、…早く戻れ』
微かに聞こえた司の声に唾液を飲み込んだ。
「…ご都合が悪ければ、…時間を調整します」
司に抱かれて眠る理央など絶対に見たくないと思った。
『早く戻れと言った』
「はい」
『初日にも最短で戻れと言っただろ、』
携帯デバイスのイヤホン越しに聞こえた理央の名前を呼ぶ司のかすれた声に苛立つ。
「…かしこまりました」
『早く帰ってこい、大和、』
「…はい」
これ以上なく歓喜すべき言葉だったが、背後に感じる司の気配に苛立ちを隠しきれる自信がなくなり、通話を切った。
(やはり俺の代わりに司と眠っているのだ)
暗くなったディスプレイから顔を上げた瞬間目の前に車が滑り込み、後部座席に乗り込む。
理央の邸へ向かう車の中、ぼんやりと、瑞穂の言葉を思い出した。
『綺麗です、その目の色。幼い頃から、そう思っておりました』
手のひらで左目を覆い隠す。
初めて会ったとき、理央には気持ち悪いと言われた。
今、理央はこの目を美しいと言ってくれる。
「理央だけでいい…」
この目を嫌うのも気に入るのも、俺には理央だけでよかった。
「謹慎中、どんな気持ちだった」
唐突に耳に入った声に顔を上げる。
そういえば運転手は神木だったことを思い出し、苦く笑った。
「…理央様が俺を嫌っていようと吉良に笑いかけていようと、そのお姿を目にしていられるだけで幸せなのだと気付かされました。自分は随分と…夢をみていたようです。戻ったら理央様が想っておられるアルファを探すことに専念します」
「…何故そうなる」
「番の契約申請を出したかたから、回答すら貰えないアルファなんですよ、俺は」
「暁付の剱であるきみが?」
「ええ。理央様に求められるようなアルファは、どれだけ上等なアルファなのでしょうか。自分にもトレース出来る方であればいいのですが…それくらい出来なければ、本当に…俺など何の役にも…」
「きみは剱だ。側に居て、暁を癒やすのが仕事だ」
「俺よりも吉良のほうが…現状、理央様を癒やしてます」
「…」
「本当は、…戻らないほうが理央様のためにいいのではないかと思いました。…戻っていいのかと理央様にお訊きしたら、好きにしろと。…まだ許されているのなら、許される限りお側にと、俺は自分のエゴで戻ってきたんです」
「理央は…きみを好いているよ。僕が保証する」
バックミラー越しの神木の目を見る。
責めるような鋭い視線から目を逸らし、窓の外に目をやった。
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