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8.神木隼斗
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無礼を承知で俺の唇の傷を眺める夜色の瞳を見上げる。
「…言ってください、理央。あなたに使ってもらえなければ、俺は、」
吉良にすら劣る、剱など。
役立たず以外の何者でもない。
「お前のせいじゃない」と、俺の髪を撫でる理央の手に擦り寄った。
「何でも、します。理央が望むことならば、俺に出来ることならば、何でも、」
「…それを命令することほど、虚しいことはねーんだ」
「…申しわけ、ありません」
察しの悪い自分に唇を噛む。
主人の望みの一つすら、思い当たらない。
十年、側で仕えてきたはずなのに。
「気にするな。お前にわかるはずもないことだ」
優しい理央の手を掴んで手首に口付ける。
「好きです、理央」
目を伏せ、「そうか」と呟いた理央が酷く儚く見えて思わず抱き締めた。
理央の胸に額を押し付け、息を殺した。
「あなたの剱でいたい、」
「…俺の剱はお前だろう」
吉良にも劣るような剱で、番になることが許されないアルファである俺は、それでも理央の剱でいなければ、理央の側にいる手段が無い。
「理央…、」
「…綺麗な蒼だ」と呟いた薄い唇にキスしたが、理央は俺の好きにさせてくれた。
「俺は理央の夜色を美しいと思います」
吐息するように笑った理央は途方に暮れているようにも見えた。
「…どうせなら、色よりも見た目がマシなほうがよかった」
「理央は全て綺麗です」
そう告げたら理央は眉を下げ、目を伏せる。
「…綺麗でも、俺じゃ駄目なんだろう」
「…どういう意味ですか」
「…、…何でもない」
「理央、?」
「何でもないんだ」と繰り返し、理央は俺の髪を撫でた。
「言って下さい、あなたが望むものなら何としても用意します。ですからそんな、…悲しい顔をしないで下さい」
「…俺の望むものなんて、本当は何もねーんだ」
「理央、…」
「…もう、他のメスを相手にしてもいい」
「…ご不快なのでは、」
「もういい。お前にそんなことをさせても、意味が無いとわかった」
「どんな意味があったのですか、」
「無かった。…俺のようなメスらしくねぇオメガなんて好奇の対象にしかならない。…それがわかっただけだ、」
「理央は綺麗です。誰も何も、あなたに優るものなどありません」
俺が言葉を重ねれば重ねるほど、理央は下を向く。
「…そうか」
「理央、?」
「…お前に手をあげないよう気を付ける」
「…番う相手を決められたのですか」
「まさか。…でも多分令明に決まるだろう。俺みてーなオスにしか見えねーオメガ、身内のアルファくらいしか貰い手はねーしな」
「理央を欲しがるアルファはいくらでもいます」
「…そうだな」
「理央、」
「外部のアルファが俺を欲しがるのはな、『暁』の血が欲しいからだ。俺が欲しいわけじゃない」
諦めた表情で続けた理央の唇を自分のそれで塞いだが、理央は拒まなかった。
「…好きです、理央、」
シャツの上から指で鎖骨を辿り、胸に触れる。
ヒートが去ったばかりだからか、直ぐに膨れて尖った乳首をシャツ越しに噛んだ。
「…ッ、」
びく、と震えた身体を抱き締め、椅子から抱き上げる。
そのまま腕に抱え、寝室に足を向けた。
片腕で抱えられるほど軽い。
「朝食は?理央」
「…食べてない」
下を向いたまま、静かな声で答えた理央の顎を持ち上げ、口付ける。
「軽すぎますよ。ただでさえ少食なのですからせめて三食食べて下さい」
「…」
「…理央、」
「努力はしてる」
寝室のベッドに理央を降ろし、組み敷いてもう一度口付けた。
沈黙したまま俺から目を逸らした理央のシャツの裾から手を滑らせ、薄い腹を手のひらで撫でる。
微かに吐息した理央の耳を食んだ。
「…言ってください、理央。あなたに使ってもらえなければ、俺は、」
吉良にすら劣る、剱など。
役立たず以外の何者でもない。
「お前のせいじゃない」と、俺の髪を撫でる理央の手に擦り寄った。
「何でも、します。理央が望むことならば、俺に出来ることならば、何でも、」
「…それを命令することほど、虚しいことはねーんだ」
「…申しわけ、ありません」
察しの悪い自分に唇を噛む。
主人の望みの一つすら、思い当たらない。
十年、側で仕えてきたはずなのに。
「気にするな。お前にわかるはずもないことだ」
優しい理央の手を掴んで手首に口付ける。
「好きです、理央」
目を伏せ、「そうか」と呟いた理央が酷く儚く見えて思わず抱き締めた。
理央の胸に額を押し付け、息を殺した。
「あなたの剱でいたい、」
「…俺の剱はお前だろう」
吉良にも劣るような剱で、番になることが許されないアルファである俺は、それでも理央の剱でいなければ、理央の側にいる手段が無い。
「理央…、」
「…綺麗な蒼だ」と呟いた薄い唇にキスしたが、理央は俺の好きにさせてくれた。
「俺は理央の夜色を美しいと思います」
吐息するように笑った理央は途方に暮れているようにも見えた。
「…どうせなら、色よりも見た目がマシなほうがよかった」
「理央は全て綺麗です」
そう告げたら理央は眉を下げ、目を伏せる。
「…綺麗でも、俺じゃ駄目なんだろう」
「…どういう意味ですか」
「…、…何でもない」
「理央、?」
「何でもないんだ」と繰り返し、理央は俺の髪を撫でた。
「言って下さい、あなたが望むものなら何としても用意します。ですからそんな、…悲しい顔をしないで下さい」
「…俺の望むものなんて、本当は何もねーんだ」
「理央、…」
「…もう、他のメスを相手にしてもいい」
「…ご不快なのでは、」
「もういい。お前にそんなことをさせても、意味が無いとわかった」
「どんな意味があったのですか、」
「無かった。…俺のようなメスらしくねぇオメガなんて好奇の対象にしかならない。…それがわかっただけだ、」
「理央は綺麗です。誰も何も、あなたに優るものなどありません」
俺が言葉を重ねれば重ねるほど、理央は下を向く。
「…そうか」
「理央、?」
「…お前に手をあげないよう気を付ける」
「…番う相手を決められたのですか」
「まさか。…でも多分令明に決まるだろう。俺みてーなオスにしか見えねーオメガ、身内のアルファくらいしか貰い手はねーしな」
「理央を欲しがるアルファはいくらでもいます」
「…そうだな」
「理央、」
「外部のアルファが俺を欲しがるのはな、『暁』の血が欲しいからだ。俺が欲しいわけじゃない」
諦めた表情で続けた理央の唇を自分のそれで塞いだが、理央は拒まなかった。
「…好きです、理央、」
シャツの上から指で鎖骨を辿り、胸に触れる。
ヒートが去ったばかりだからか、直ぐに膨れて尖った乳首をシャツ越しに噛んだ。
「…ッ、」
びく、と震えた身体を抱き締め、椅子から抱き上げる。
そのまま腕に抱え、寝室に足を向けた。
片腕で抱えられるほど軽い。
「朝食は?理央」
「…食べてない」
下を向いたまま、静かな声で答えた理央の顎を持ち上げ、口付ける。
「軽すぎますよ。ただでさえ少食なのですからせめて三食食べて下さい」
「…」
「…理央、」
「努力はしてる」
寝室のベッドに理央を降ろし、組み敷いてもう一度口付けた。
沈黙したまま俺から目を逸らした理央のシャツの裾から手を滑らせ、薄い腹を手のひらで撫でる。
微かに吐息した理央の耳を食んだ。
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