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12.『何でもない』
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しおりを挟む五日後、仕上がったと連絡があり、理央を吉良に任せて再びシルバーコードを訪れた。
「早かったですね」
「認証キーの発行が思いのほか早く済みましたので」
「…そうですか」
「こちらになります。御確認ください」
前回と同じ店員が、宝石のように飾りたてたネイルが輝く細い指でリングをディスプレイプレートに置く。
「…はい」
「贈り物ですか?」
明らかに違うとわかっていながらのマニュアル通りの質問に互いに苦笑しつつ、俺もマニュアル通りに回答する。
「いえ。過度な包装は不要です」
答えながら店内を見回した。
店員が何かに気付いたように、控えめの笑顔を浮かべ、最低限の包装をしていた手を止める。
「何かお探しですか?」
「…ネックレスを。凝ったものではなく、シンプルで目立ちにくいものを」
「かしこまりました」
ショーケースからいくつか選び、ディスプレイプレートに置かれたもののうち、一つを指差して「これを」と告げた。
「こちらは付けて行くので包装は不要です。タグを取っていただければ」
「…かしこまりました」
現金で精算し、リングのジュエリーケースを受け取る。
薬指からリングをはずし、差し出されたチェーンに通して手ずから首にかけ、店を出た。
愚かな自分に思わず笑う。
戯れに与えられた主人の物に、自らの拠り所を見出だそうとするなど。
父に知られれば叱責を免れぬ愚行だ。
神木が待つ車に乗り込み、一つ息を吐く。
「理央とはどうだね」
「準備をしています。…吉良と番えるように」
「違うよ。君と、理央のことだ」
「どうも、なにもありません、理央様と俺の間には。どうも、…ありようがないでしょう」
「…君は、理央に望まれれば、番になることに躊躇いはないのか」
「ありません」
迷うことなく答えた俺に、神木は眉を寄せた。
「恐ろしいね。剱の人間は本当に。聞かされてはいたが、目の前にすると恐ろしい」
「…剱の何が」
「自己というものは存在しているのに、君のそれは全てが理央から始まっている。自己犠牲といえば聞こえはいいが、そうじゃない。君は犠牲などと思ってはいないからだ」
「…理央様は俺の全てです。理央様にお会いして、俺は『俺』になった。それまでの自分は、酷く曖昧な存在でした。それだけのことです」
真実を告げたが、神木は口を歪めて笑った。
「人は、七歳までは神に近いというが。それが無垢や純粋であるならば、君たちはそのまま成長したようなものだ。だから恐ろしい」
「俺から見れば理央様のほうが純粋で無垢で美しいと思いますが」
バックミラー越しに交わした神木の視線には、憐憫が滲んでいた。
「…逆だよ。純粋や無垢という言葉は、情報を扱い、真偽を見、世界を視る暁には最も縁が無い。それに比べて君たち剱はどうだ。無差別ゆえに純粋。無知ゆえに無垢。実に恐ろしい」
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