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19.もっともっと/暦
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しおりを挟む「怒ってたかと思ったら突然落ち込むの止めて」
「あー…、煙草行ってくる」
「いい加減止めりゃいいのに。嫌われるぜー、女に」
「女の前じゃ吸ってねーし。それでも嫌われんなら付き合わねーよ」
「…あっそ。あ、片しといてやるから行ってこい」
「うい」
「お土産にお茶買ってきて。あったかいやつ」
「…それが目的か」
「てへぺろ」
「あー可愛い可愛い」
中野の髪をかき混ぜて席を立つ。
「ぐしゃぐしゃにすんなし」
そう言うわりには大人しくかき混ぜられている中野は仔犬のように見えた。
※
外の喫煙所は相変わらず人気が無いらしく、いつ来ても無人だ。
この寒さなら仕方がないかとベンチに座る。
ライターの石の火花が散って、煙を吸い込んだ。
(おれに抱かれたのは気紛れか好奇心、てとこか。期待は捨てよう。…壱木はもともと高間を好きだったわけで)
背凭れに頭を乗せ、空を仰ぐ。
煙草の煙のような曇天だった。
(…返事くらいは、直接欲しかったが)
吐き出した煙と空の境目は見えない。
(それも面倒臭かったのかもしんねーし。抱けただけ、ラッキーだったのかもしれない)
そんなことを考えていたら、いつの間にか短くなっていた煙草を灰皿に捨てる。
視界が翳って、隣に目をやった。
「久しぶり」と笑った三浦花に落胆する自分に思わず苦笑する。
(壱木だと思った)
「あー、…悪ィけど昨日も言った通り。気持ちは嬉しいけどよりを戻す気はねーから。終わったことだし」
「…私の中では終わってない」
「終わらせたのはそっちだ。なのに終わってねーなんて妙な話だと思わねぇ?」
「本当にただの浮気で、本気じゃなかった」
「浮気するくらいつまんねー男だったんだろ。満足させてやれなくて悪かった」
「暦、」
ジャケットの袖を掴む三浦の白い手を掴んで離した。
「マジでさっさと忘れて。また付き合うとかおれには無理だし、…もう名前で呼ぶ関係でもない」
「待って、聞いてよ」
その手を握られてため息を吐く。
「前も言ったけど聞かないし、たとえ聞いたとしても許す気もねーから。…わかってくれいい加減」
「好きなの…!」
「他の男に目移りする時点で好きではねーだろ、もう。おれはおれだけじゃ足りねーのは無理だ」
「足りるから!もうしない、絶対しない、」
「そもそも足りねーから浮気したんだろ。絶対なんてねーから」
握られている手を離し、立ち上がった。
「あーあー、いくら人気ねー外の喫煙所だからって痴話喧嘩してんなよ、んなとこでさァ」
瞬間、聞こえた声に振り返る。
「…壱木」
口元はストールに隠れて見えない。
白い息だけが妙に視界で煙って見えた。
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