四角い青。

17．何で別れたの？／彰久

2

「暦と、？」

何故かその一言に苛立つ。

「…今でも仲いいんだ？」

「え」

「名前で呼んでる」と、弄っていた髪を女の子の耳にかけた。

「…っいえ、」

「智田が告ったの？」

「わ、私から」

「ふぅん。…智田ってどんなやつ？」

「優しい、です、…すごく。大切に扱ってくれるし。でもそのぶん束縛もすごくて、…」

随分頭悪そうな喋りかたをする。

智田って意外と趣味わりーのかも。

俺は自分のことを棚にあげ、そんなことを思った。

「だから別れたの？」

「…っ、そう、ですけど」

眉を寄せ、冷えた紅茶が揺れるカップの縁を見つめる女の子の顔に後悔が見え隠れする。

俺はもう一度訊いた。

「…何で別れたの？」



※



「気ィ済んだ？」

女の子の背中を眺めながら、テーブルに頬杖をついてぼんやりとそう言った中野くんに「まぁね」と答えた。

「ね、もう一人の方もさぁ、似たような事情で別れた系？」

「…俺が知ってる限りでは」

「なぁるほど」

「…何で番号渡したわけ」

軽蔑すら含んだ目を向けてくる中野くんに苦笑する。

「ん？まぁ、話すこともあるかなーと思って」

「…」

「んな目で睨まねーでよ。俺からなんかしたりしねーって」

「何がしたかったんだよ」

「智田ってどんなんが好みなのかなー、と。中野くん詳しいんじゃないの？同高っしょ」

「どんなんって言われても。智田は別にモテねーわけじゃねーし。…なんつーか、真面目で優しいだろ、アイツ」

「…あー、まぁ、表面上は、…？」

セックスして初めて本性みた気がする。

しかしそれを中野くんに言える筈もなく、曖昧な相槌をうった。

「そのせいか、智田とちょっと一緒にいたりすると、なぜか女子はハマるらしいんだよね。眼鏡のせいで気付きにくいけど整った顔してっし意外に力あるしそういうとこに気付くのかも」

「…なるほど」

ギャップ萌えってやつ。

というか、それを知ってる中野くんもわりと智田にハマってるだろ、と思ったけど言葉にはしなかった。

「智田で遊ぶのやめろよな」

「だからぁ、…遊んでるつもりはねーんだって。ただ、…」



漠然とした恐怖を拭えない。



簡単に、踏み込んでくる。 

なぜか拒否できない。

むしろ遊びでやめておかなければと、警鐘が鳴る。



「ただ？」

中野くんの声にハッとして我に返った。

「…ただ、…なんかカワイイだろ、智田くん」

「…まぁね」

不機嫌そうな表情で頬杖をつき、頬を膨らませたり萎ませたりしている中野くんは女の子にも見える。

ぼんやりしていた俺は適当に思いついた言葉をそのまま声にしただけだったが、中野くんにはちょうどいいものだったらしい。

「中野くんは男の娘ってやつ？」

「そういうわけじゃねーけど。俺が無理して男らしいカッコしても似合わねーし。こっちの方が似合うってだけ」

「ふうん」

智田のカノジョと思われてるってこと、多分気付いてねーんだろうなぁ。

「あんた何で智田にかまうわけ。文系の、しかも男なんてあんたにとってはしぬほどどうでもいい存在だろ」

「あー、…まぁ、」

どう答えるべきか、と天井を見上げた。

「智田に告られたからってアイツに何でもしていいってわけじゃねーし」

「あ、知ってんのね」