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10.今さらそんなに簡単に/彰久
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しおりを挟む「何がダメなんだ」
「お前のそれはただの独占欲だ、俺のこと好きなわけじゃねえ、」
「んなことねぇ、ずっと好きだった、アキ」
「…っ、智田に言われたからだろうが!」
キスしようとするムツの唇を手のひらで塞いで睨んだ。
瞬間。
何故か喫煙所のドアをノックする音が響いて俺もムツも動きを止めた。
「あのやろう…」、と呟いてドアに向かうムツの背中を呆然と眺める。
「…何の用だよ」
「ワリィ、壱木が家に忘れてったやつ。捨てるのもアレだし渡しといて」
狭くドアを開けて不機嫌そうに喋るムツの向こうから響く落ち着いた低い声に思わずムツの背を押してドアを開けた。
「っちょ、出てくんな!アキ」
「…智田くん…!」
抱きついて胸に額を擦らせたら暢気に「おう、久し振り」、とか言って俺の髪を撫でる。
久々に嗅ぐセブンスターの匂い。
「…智田くんなんで来ねーんだよ、俺またなんかした?こないだの仕返し?」
「あー、…」
「アキ、おい」
「…ムツがなんか言った?」
智田は俺の身体を自分から引き離しながら、「いや、邪魔したくねーだけだよ」、と曖昧に笑って、俺の身体をムツのほうに押しやった。
「…悪いな、智田」
「…しっかりしろよ」
「智田く、」
背を向けた智田のジャケットの裾を咄嗟に掴んだ。
ムツの手がその俺の指を解く。
「バイバイ、壱木」
智田は、振り返らなかった。
状況を飲み込もうと頭をフルで使う。
俺を抱き寄せるムツの腕が今は煩わしい。
首筋を吸われてムツの身体を突き放した。
「…智田に何を言った」
「アキ、もういいだろ」
「言わなきゃもうムツとつるむのはやめる」
「アキ、」
「…俺は怒ってんだよ、ムツ」
長い沈黙のあと、ムツが溜め息のように言葉を吐いた。
「…もう、ここにも来るなっつった。そんだけだ」
「…なんで」
「俺はアイツにアキを譲る気なんかねえし。女はいい。けど男は俺以外許す気はねぇ」
「…ムツ、落ち着け」
「落ち着いてる」
「自分が何言ってるかわかってんのかよ。お前おかしいって、」
「お前が…!」
突然声を荒げたムツに驚いて身体が跳ねる。
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