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7・……おれはいやだ/暦
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しおりを挟むそれから部屋の入り口で待っている中野に声をかけた。
「中野、入っていいよ。まだちょい煙いけど」
「……ん」
警戒する猫のように、壱木から目を離さずに壁を伝って部屋に入ってくる中野に思わず笑う。
「別に壱木は猛獣じゃねーよ」
大人しくソファに座っている壱木の隣に座って髪に指を通したら壱木は俺の手を掴んで自分の首筋に押し付けた。
「智田くんぬくい」
「……電話すりゃよかったろ」
パーカーの襟から手を忍ばせて冷えた肩を撫で、見え隠れする鎖骨を指で辿る。
「…………電話しても出てくんねーと思ったんだよ」
微かに震える声でそう呟いた。
今にも泣きそうな、濡れた目はじっと床を見ていた。
おれは確かに怒っていたはずで、もう壱木のことなどどうでもいいと思っていたのに、おれの手を握る壱木の手が声と同じくらい微かに震えていることに気付いて、そんなことに気付いて萎えてしまう自分の怒りの希薄さに呆れた。
「……風呂入れよ。風邪ひく」
「……」
黙りこむ壱木を身体が軋むくらい抱き締めたかったが、代わりに所在無さげに立っている中野を呼んだ。
「おいで、中野。お前も風邪ひくだろ。ここ座れ」
「智田、はやく……(帰らせろよ)」
「……んなに腹減ったのか」
「っ違、……っ」
だったら鍋の準備をしようとソファから立ち上がって代わりに中野を座らせる。
煙草をくわえつつキッチンに向かおうとしたらロンTの裾を引っ張られて、振り向いたら壱木の悴んで赤くなった指先が生地を握り締めていた。
「……どうした」
「……まだ、怒ってる?」
どこか必死で、余裕のない壱木の表情におれは妙に浮わついた気持ちになる。
落ち着こうと、ひとつ、息を吐いた。
「…………壱木が素直に言うこときいて風呂に入れば許してやる」
「……わかった。んじゃ一緒はいろ、智田くん」
「っダメだめ駄目……!」
なぜか中野が断った。
いや、断るつもりだったけど。
「……だそうだ」、と続けたら壱木が「やっぱ彼女?」と訊くので「一部ではなぜかそういうことになってる」と答えつつロンTの裾を掴んだままの壱木の手首を掴んで風呂場に連行する。
乾燥機からタオルを出していたら壱木の腕が腹にまわってきて振り向いた。
「ぬくい……」
「ん」
擦り寄ってくる壱木の頭。
柔らかい髪。
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