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5巻
5-2
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「由那っ、ミルル! あの魔族たちを倒すよ!」
そう言って、僕は走り出した。すぐに由那とミルルが僕の左右につく。
角を生やした魔族が僕たちに気づいた。
「みっ、水沢優樹だ!」
魔族は素早く呪文を唱える。
そうはさせない!
僕は『魔銃零式』の引き金を連続で引いた。
装填されていた『エクスプローダー弾』が二体の魔族の体に当たり、爆発する。
「くそっ! 奴らを殺せ!」
残った四体の魔族がマジックアイテムらしき短剣を握り締め、僕たちに突っ込んでくる。
「まかせて!」
由那が僕の前に出て、斧を振り上げた。その斧が一瞬で巨大化する。
予想外の斧の変化に魔族の反応が遅れた。
由那が振り下ろした斧が魔族の体を鎧ごと斬り裂く。
「おのれっ! 人族の女めっ!」
別の魔族が左右から由那に攻撃を仕掛ける。
「そうはさせないにゃ!」
ミルルが低い姿勢で左側の魔族に突っ込み、短剣を突き出した。
白く輝く刃が魔族の鎧に深く突き刺さる。
「があっ……」
魔族は両目を見開いたまま、仰向けに倒れた。
右側の魔族も由那が倒し、残った魔族は一体のみになった。
「くっ……」
残った一体の魔族は僕たちに背を向けて逃げ出した。
「逃がさないにゃ。杉阪牛ぱーん……」
追いかけようとしたミルルを僕が止める。
「待って! あの魔族はいいよ」
「にゃっ? どうしてにゃ?」
「僕たちがいることをラムフィスに伝えてもらいたいからね。それより、一度予定の位置まで下がるよ」
僕たちは巨大な柱岩に向かって走り出した。
奇襲は成功だな。五百体以上のゴブリンを倒せたし、魔族も二十体以上倒せた。ここまでは作戦通りだ。
「水沢優樹を殺せ!」
四本腕の魔族が叫ぶと、周囲にいたモンスターたちが一斉に動き出した。
千体以上のモンスターが僕たちを追ってくる。
その時、巨大な柱岩の陰に隠れていた別働隊の兵士たちが姿を見せた。
先頭にいるケルロ五千人長がロングソードを高く掲げた。
「全軍っ、突撃だ!」
「うおおおおっ!」
五千人の兵士たちが雄叫びをあげて、僕を追ってきたモンスターたちに攻撃を仕掛けた。
その攻撃にモンスターたちは対応できなかった。
数分も経たないうちに、僕たちを追ってきたモンスターたちは壊滅した。
「掃討戦は必要ない!」
ケルロ五千人長が声を張り上げる。
「北西に移動するぞ! 急げっ!」
兵士たちが一斉に移動を開始し、僕、由那、ミルルもその後に続く。
「奴らを逃がすなっ!」
四本腕の魔族が鎧を装備した数百体のオークとともに僕たちを追ってくる。
乱戦にしてラムフィスがいる本隊が追いつくのを待つ作戦か。
でも、そうはさせない。
僕はもう一度、ホーリーメテオの魔法を使用した。
追ってきたオークたちの頭上から光の雨が降り注ぐ。
「グアアアッ!」
オークたちは頭を抱えて、ホーリーメテオの範囲外に逃げ出そうとするが、光の雨の猛攻に足を動かすこともままならずその場に倒れ伏す。
数百体のオークが数十秒で命を失った。
「くっ、くそっ! 一度下がれ!」
四本腕の魔族の声が僕の耳に届いた。
これでいい。広範囲の高位魔法を連打したことで、モンスターの軍隊の追撃が鈍るはずだ。
僕はダールの指輪に収納している素材を確認した。
動く隕石が残り一個か。ってことはホーリーメテオはあと一発しか使えない。使いどころを間違えないようにしないと。
僕は唇を強く結んで、歩を速めた。
数時間後、ケルロ五千人長と話をしていると、女兵士が駆け寄ってきた。
「ケルロ五千人長、偵察部隊から報告が入りました。モンスターの軍は方向を変え、我らを追ってきています。距離は約十六キロ」
「そうか。作戦は上手くいったようだな」
ケルロ五千人長は満足げにうなずき、僕に視線を向ける。
「モンスターの軍の動きは遅いようです。どうやら、優樹殿の魔法を警戒しているようですね」
「それは理想的ですね。このまま、戦闘せずに北西の森まで引っ張ることができれば、犠牲もほとんど出ません」
「はい。こちらの速度を調整して、ぎりぎり奴らが追えると思ってくれる距離を維持して動きたいですね」
ケルロ五千人長は食事を摂っている兵士たちを見回す。
「この別働隊なら、それができると思います。若くて足の速い連中が揃ってますから」
「ケルロ五千人長!」
別の兵士が走り寄ってきた。
「モンスターの軍に動きがありました。足の遅いオーガの部隊を切り離して、移動速度を上げる可能性があります」
「よし! わかった。休憩時間を三十分短縮するぞ。全ての兵士たちに伝達しろ!」
「了解しました」
兵士はぴんと背筋を伸ばした。
その後、別働隊は夜の砂漠を北西に移動した。
ケルロ五千人長は偵察部隊から入ってくる情報を確認しながら、別働隊の移動の速度を調整する。
「奴らとの距離は約十三キロだな。ならば、少しこちらのスピードを上げるぞ」
ケルロ五千人長は伝令の兵士たちに指示を伝える。
「いいか。このままモンスターの軍を北西の森まで引っ張っていくぞ。それができたら、我々の勝利と考えろ!」
その通りだな。
僕は心の中でケルロ五千人長の言葉に同意した。
ケルロ五千人長の戦闘能力はわからないけど、この人は頭がよくて、軍をしっかり指揮している。シャムサスが彼を別働隊の隊長にした理由は、そこなんだろうな。
これなら、僕がいなくても大丈夫だろう。
その時――。
夜空に直径五メートルを超える巨大な火球が出現した。それがすごい速さで落ちてくる。
敵の魔法攻撃か。
僕は素早く頭上に魔法耐性のある半透明の壁を具現化させた。
その壁に巨大な火球が当たり、爆発音が周囲に響く。
「ちぇっ! 奇襲は失敗かぁ」
頭上から、少年のような声が聞こえてきた。
視線を上げると、ラムフィスが宙に浮かんでいた。
「やぁ、水沢優樹くん」
ラムフィスは僕を見下ろしながら、右手を振った。
「詠唱なしで、これだけの防御魔法を使えるなんて、さすがだなぁ」
「七魔将筆頭のラムフィスだよね?」
「そうだよ。僕がラムフィスさ」
宙に浮かんだまま、ラムフィスは微笑する。
「ふーん。見た目は普通の人間だね。強そうな感じには見えないなぁ」
「それは君も同じだよ」
僕は宙に浮いているラムフィスを見つめる。
「子供みたいで、七魔将筆頭とは思えないな」
「あはは。たしかにそうかもね」
ラムフィスは子供っぽい仕草でヘビのような舌を出した。
「で、奇襲も失敗したし、一応聞いておくよ。君、人族を裏切る気はない?」
「裏切ると思うの?」
「うん。だって、君はこの世界の人間じゃないだろ? なら、僕たちの仲間になったほうがいいよ。君なら間違いなく七魔将になれるしね」
「断るよ」
僕は即答した。
「たしかに僕は異界人で、この世界の人間じゃない。でも、死んでほしくない人がいっぱいいるんだ。人族の中にね」
「……ふーん。なら、君はここで死ぬことになるよ」
「その言葉……そのまま返すよ。どうやら、君は一人みたいだしね」
僕は魔銃零式を、腰に提げた革ケースから引き抜いて言う。
「ちょっと無茶じゃないかな。護衛もつけずに僕たちを追ってくるなんて。軍のリーダーがやることじゃないよ」
「仕方ないだろ。僕のスピードについてこられる魔族もモンスターもいないんだから」
ラムフィスは肩をすくめる。
「でも、無茶じゃないんだよな。君たちの足止めぐらいなら、僕一人で十分だし」
「足止め?」
「そうさ。ここで君たちを足止めしておけば、九万の軍が君たちに追いつく。そうすれば、兵の数の差は圧倒的だ。当然、君たちは全員死ぬ。一人残らずね」
その言葉に兵士たちの顔が強張った。
「何か作戦を考えていたんだろうけど、君たちは僕を甘く見過ぎだよ」
「たしかに予想外だったな。まさか、七魔将筆頭の君が単独で攻めてくるなんて」
僕はラムフィスから視線を外さずに言った。
「でも、問題はないよ」
「問題はない?」
「うん。ここで君を倒せば、僕たちの作戦の成功率は格段に上がるからね」
「……へぇ。僕を倒せると思っているんだ?」
「君を倒せなければ、ゾルデスも倒せないだろ?」
「あははっ、そりゃそうだね」
ラムフィスは白い牙を見せて笑う。
「君との会話は楽しいし、異界の料理も食べてみたかったけど、やっぱり戦うしかなさそうだね」
そう言うと同時に、夜空に無数の火球が具現化された。その火球が次々と落ちてくる。
周囲にいた兵士たちが火球の炎に焼かれて逃げまどう。
「魔道師部隊っ!」
ケルロ五千人長が叫ぶと、杖を持った兵士たちが素早く呪文を唱えた。無数の魔法の矢が具現化し、宙に浮かんでいるラムフィスに向かって放たれる。
ラムフィスは笑みを浮かべたまま、両手を左右に動かす。無数の矢はラムフィスに当たる前に消失した。
「あはは。こんなちゃちな魔法で僕を倒せると思ってるの?」
僕はラムフィスのななめ下に回り込み、魔銃零式の引き金を引いた。
銃声が響いた瞬間、ラムフィスの足元に半透明の壁が現れた。エクスプローダー弾がその壁に当たり、弾け飛ぶ。
「残念でした」
ラムフィスは人差し指を立てて、それを左右に動かす。
「君の動きは、しっかりチェックしてるよ。君だけは危険だからね」
僕は唇を強く噛んで、頭上にいるラムフィスを見つめる。
宙に浮かんだまま広範囲の攻撃魔法を使えるし、防御魔法も無詠唱で速い。さすが七魔将筆頭だな。
「優樹っ、まずいにゃ」
ミルルが僕に体を寄せた。
「ラムフィスが空にいるから杉阪牛パンチも『聖剣ミルル』も使えないにゃ」
「わかってる。それがラムフィスの作戦なんだよ。空にいれば攻撃する手段が限られるからね。兵士たちがいっぱいいても関係ない」
「じゃあ、優樹の『滅呪弾』を使うのにゃ。あれなら、強い魔族も一撃にゃ」
「それを狙ってるけど、ラムフィスに隙がないんだ。滅呪弾はあと四発しか残ってないから、無駄撃ちはしたくないし」
その時、金色に輝く数十羽の鳥が召喚され、ラムフィスに攻撃を仕掛けた。
兵士の中に召喚術師がいるみたいだな。この攻撃なら……。
鳥はラムフィスに突っ込んでいく。
「鳥ねぇ……」
ラムフィスは口角を吊り上げたまま、両手の人差し指を立てて前方に向ける。その指の先から青白い光弾が出て、前にいた十羽以上の鳥を貫いた。
一瞬で半分以上の鳥がやられたか。でも……。
一羽の鳥がラムフィスの背中に突っ込んだ。
爆発音が響き、夜空が白く輝く。
数秒後、その輝きが消え、無傷のラムフィスの姿が視界に入った。
ラムフィスは笑みの形をした唇を開いた。
「避け損なっちゃったけど、この程度なら、避ける必要もなかったかな」
周囲にいた兵士たちの顔が恐怖に歪む。
「攻撃を続けろ!」
ケルロ五千人長が声を張り上げた。
「魔法でも弓でもいい。奴を地上に落とせ! そうすれば全員で奴を狙える!」
「君たちじゃ無理だって。僕の魔法耐性はゾルデス様に匹敵するからね」
ラムフィスの周囲に新たな火球が具現化される。
「そして、魔力も普通の魔族の十倍以上はあるんだ。つまり、この程度の火球の魔法なら、一日中だって使えるよ」
火球が次々と落ち、兵士たちの悲鳴があがる。
ダメだ! 全ての兵士を守れる大きさの防御魔法は使えない。少しでも早くラムフィスを倒さないと!
僕は魔銃零式の銃口をラムフィスに向ける。その動きに反応して、ラムフィスが僕から離れた。
やっぱり、警戒されてるな。距離もあるし、魔銃零式で攻めるのは難しいか。
それなら――。
「由那、ミルルっ、二人でラムフィスを攻めてくれる?」
「それはいいけど……」
由那が宙を移動しているラムフィスを見る。
「あの高さじゃ、ジャンプしても届かないよ」
「大丈夫。それはなんとかするから」
僕は由那とミルルに顔を近づけて、作戦を話した。
一分後、僕は由那たちから離れて走り出す。
ラムフィスは兵士たちが放った矢を舞うようにかわしている。
「あははっ! いい加減に諦めなよ。こんな矢なんて、簡単に避けられるし、当たっても僕を殺すことなんてできないよ」
そう言いながら、ラムフィスは視線を僕に向けた。
「水沢優樹、君と戦うのはもう少し後にするよ。どうせ、君は兵士たちを見捨てて逃げ出すことはしないだろうしね」
「その通りだよ!」
僕は魔銃零式の引き金を引く。
ラムフィスの足元に半透明の壁が現れ、『通常弾』を弾いた。
「だから、それは無意味だって」
「わかってるよ」
僕は両手を夜空に向けて、魔法を使用する。
笛が鳴るような音の後、夜空に爆発音が響いた。
七色の光が放射状に広がり、ラムフィスの体を鮮やかに照らす。
「……んっ?」
光を避けたラムフィスの表情が曇る。
どうやら、この攻撃……花火に殺傷力がないことに気づいたな。
これは僕が魔法で創造した特別な花火だ。通常の花火より、飛び散る火の粉が長く宙に残り、輝きを維持することができる。
だけど、効果はそれだけで、相手にダメージを与えることはできない。
「それでも気になるよな。これだけ派手な花火だと」
僕は次々と魔法の花火を打ち上げた。
ラムフィスは用心のためか、僕から距離を取る。
予想通り、僕のことだけは警戒しているな。
僕は新たな魔法を使用する。
魔力キノコと『七色草』『風砂』を組み合わせて……。
宙に縦横五十センチの板が数百枚具現化された。赤、黄、緑、青、紫色の板は地上と水平に浮かんでいる。
「こっちが本命ってことだね」
ラムフィスは目の前に浮いている赤色の板に人差し指を向けた。青白い光弾が発射され、赤色の板が粉々に砕けた。
「何だ、ただの板じゃ……あ……」
ラムフィスは板を足場にして近づいてくるミルルに気づいた。
「遅いにゃ!」
ミルルは緑色の板の上でひざを大きく曲げ、高くジャンプする。
白く輝く短剣の刃がラムフィスの右足のふくらはぎを斬った。
「ちっ……」
青紫色の血を流しながら、ラムフィスはミルルから離れようとする。
「そうはさせないにゃあ」
ミルルは板の足場を利用して、ラムフィスに突っ込んでいく。
「調子に乗るなっ!」
荒い言葉を吐いて、ラムフィスは左の足でミルルの腹部を蹴る。
「にゃああああ!」
ミルルはバランスを崩して、近くの板にしがみつく。
「ふん。この程度の傷、すぐに……」
その時――。
ラムフィスの背後に由那が現れた。由那は紫色の板を右足で強く蹴って、高く跳んだ。持っていた斧が巨大化し、その刃が振り下ろされる。
ラムフィスの左腕が肩から切断された。
そう言って、僕は走り出した。すぐに由那とミルルが僕の左右につく。
角を生やした魔族が僕たちに気づいた。
「みっ、水沢優樹だ!」
魔族は素早く呪文を唱える。
そうはさせない!
僕は『魔銃零式』の引き金を連続で引いた。
装填されていた『エクスプローダー弾』が二体の魔族の体に当たり、爆発する。
「くそっ! 奴らを殺せ!」
残った四体の魔族がマジックアイテムらしき短剣を握り締め、僕たちに突っ込んでくる。
「まかせて!」
由那が僕の前に出て、斧を振り上げた。その斧が一瞬で巨大化する。
予想外の斧の変化に魔族の反応が遅れた。
由那が振り下ろした斧が魔族の体を鎧ごと斬り裂く。
「おのれっ! 人族の女めっ!」
別の魔族が左右から由那に攻撃を仕掛ける。
「そうはさせないにゃ!」
ミルルが低い姿勢で左側の魔族に突っ込み、短剣を突き出した。
白く輝く刃が魔族の鎧に深く突き刺さる。
「があっ……」
魔族は両目を見開いたまま、仰向けに倒れた。
右側の魔族も由那が倒し、残った魔族は一体のみになった。
「くっ……」
残った一体の魔族は僕たちに背を向けて逃げ出した。
「逃がさないにゃ。杉阪牛ぱーん……」
追いかけようとしたミルルを僕が止める。
「待って! あの魔族はいいよ」
「にゃっ? どうしてにゃ?」
「僕たちがいることをラムフィスに伝えてもらいたいからね。それより、一度予定の位置まで下がるよ」
僕たちは巨大な柱岩に向かって走り出した。
奇襲は成功だな。五百体以上のゴブリンを倒せたし、魔族も二十体以上倒せた。ここまでは作戦通りだ。
「水沢優樹を殺せ!」
四本腕の魔族が叫ぶと、周囲にいたモンスターたちが一斉に動き出した。
千体以上のモンスターが僕たちを追ってくる。
その時、巨大な柱岩の陰に隠れていた別働隊の兵士たちが姿を見せた。
先頭にいるケルロ五千人長がロングソードを高く掲げた。
「全軍っ、突撃だ!」
「うおおおおっ!」
五千人の兵士たちが雄叫びをあげて、僕を追ってきたモンスターたちに攻撃を仕掛けた。
その攻撃にモンスターたちは対応できなかった。
数分も経たないうちに、僕たちを追ってきたモンスターたちは壊滅した。
「掃討戦は必要ない!」
ケルロ五千人長が声を張り上げる。
「北西に移動するぞ! 急げっ!」
兵士たちが一斉に移動を開始し、僕、由那、ミルルもその後に続く。
「奴らを逃がすなっ!」
四本腕の魔族が鎧を装備した数百体のオークとともに僕たちを追ってくる。
乱戦にしてラムフィスがいる本隊が追いつくのを待つ作戦か。
でも、そうはさせない。
僕はもう一度、ホーリーメテオの魔法を使用した。
追ってきたオークたちの頭上から光の雨が降り注ぐ。
「グアアアッ!」
オークたちは頭を抱えて、ホーリーメテオの範囲外に逃げ出そうとするが、光の雨の猛攻に足を動かすこともままならずその場に倒れ伏す。
数百体のオークが数十秒で命を失った。
「くっ、くそっ! 一度下がれ!」
四本腕の魔族の声が僕の耳に届いた。
これでいい。広範囲の高位魔法を連打したことで、モンスターの軍隊の追撃が鈍るはずだ。
僕はダールの指輪に収納している素材を確認した。
動く隕石が残り一個か。ってことはホーリーメテオはあと一発しか使えない。使いどころを間違えないようにしないと。
僕は唇を強く結んで、歩を速めた。
数時間後、ケルロ五千人長と話をしていると、女兵士が駆け寄ってきた。
「ケルロ五千人長、偵察部隊から報告が入りました。モンスターの軍は方向を変え、我らを追ってきています。距離は約十六キロ」
「そうか。作戦は上手くいったようだな」
ケルロ五千人長は満足げにうなずき、僕に視線を向ける。
「モンスターの軍の動きは遅いようです。どうやら、優樹殿の魔法を警戒しているようですね」
「それは理想的ですね。このまま、戦闘せずに北西の森まで引っ張ることができれば、犠牲もほとんど出ません」
「はい。こちらの速度を調整して、ぎりぎり奴らが追えると思ってくれる距離を維持して動きたいですね」
ケルロ五千人長は食事を摂っている兵士たちを見回す。
「この別働隊なら、それができると思います。若くて足の速い連中が揃ってますから」
「ケルロ五千人長!」
別の兵士が走り寄ってきた。
「モンスターの軍に動きがありました。足の遅いオーガの部隊を切り離して、移動速度を上げる可能性があります」
「よし! わかった。休憩時間を三十分短縮するぞ。全ての兵士たちに伝達しろ!」
「了解しました」
兵士はぴんと背筋を伸ばした。
その後、別働隊は夜の砂漠を北西に移動した。
ケルロ五千人長は偵察部隊から入ってくる情報を確認しながら、別働隊の移動の速度を調整する。
「奴らとの距離は約十三キロだな。ならば、少しこちらのスピードを上げるぞ」
ケルロ五千人長は伝令の兵士たちに指示を伝える。
「いいか。このままモンスターの軍を北西の森まで引っ張っていくぞ。それができたら、我々の勝利と考えろ!」
その通りだな。
僕は心の中でケルロ五千人長の言葉に同意した。
ケルロ五千人長の戦闘能力はわからないけど、この人は頭がよくて、軍をしっかり指揮している。シャムサスが彼を別働隊の隊長にした理由は、そこなんだろうな。
これなら、僕がいなくても大丈夫だろう。
その時――。
夜空に直径五メートルを超える巨大な火球が出現した。それがすごい速さで落ちてくる。
敵の魔法攻撃か。
僕は素早く頭上に魔法耐性のある半透明の壁を具現化させた。
その壁に巨大な火球が当たり、爆発音が周囲に響く。
「ちぇっ! 奇襲は失敗かぁ」
頭上から、少年のような声が聞こえてきた。
視線を上げると、ラムフィスが宙に浮かんでいた。
「やぁ、水沢優樹くん」
ラムフィスは僕を見下ろしながら、右手を振った。
「詠唱なしで、これだけの防御魔法を使えるなんて、さすがだなぁ」
「七魔将筆頭のラムフィスだよね?」
「そうだよ。僕がラムフィスさ」
宙に浮かんだまま、ラムフィスは微笑する。
「ふーん。見た目は普通の人間だね。強そうな感じには見えないなぁ」
「それは君も同じだよ」
僕は宙に浮いているラムフィスを見つめる。
「子供みたいで、七魔将筆頭とは思えないな」
「あはは。たしかにそうかもね」
ラムフィスは子供っぽい仕草でヘビのような舌を出した。
「で、奇襲も失敗したし、一応聞いておくよ。君、人族を裏切る気はない?」
「裏切ると思うの?」
「うん。だって、君はこの世界の人間じゃないだろ? なら、僕たちの仲間になったほうがいいよ。君なら間違いなく七魔将になれるしね」
「断るよ」
僕は即答した。
「たしかに僕は異界人で、この世界の人間じゃない。でも、死んでほしくない人がいっぱいいるんだ。人族の中にね」
「……ふーん。なら、君はここで死ぬことになるよ」
「その言葉……そのまま返すよ。どうやら、君は一人みたいだしね」
僕は魔銃零式を、腰に提げた革ケースから引き抜いて言う。
「ちょっと無茶じゃないかな。護衛もつけずに僕たちを追ってくるなんて。軍のリーダーがやることじゃないよ」
「仕方ないだろ。僕のスピードについてこられる魔族もモンスターもいないんだから」
ラムフィスは肩をすくめる。
「でも、無茶じゃないんだよな。君たちの足止めぐらいなら、僕一人で十分だし」
「足止め?」
「そうさ。ここで君たちを足止めしておけば、九万の軍が君たちに追いつく。そうすれば、兵の数の差は圧倒的だ。当然、君たちは全員死ぬ。一人残らずね」
その言葉に兵士たちの顔が強張った。
「何か作戦を考えていたんだろうけど、君たちは僕を甘く見過ぎだよ」
「たしかに予想外だったな。まさか、七魔将筆頭の君が単独で攻めてくるなんて」
僕はラムフィスから視線を外さずに言った。
「でも、問題はないよ」
「問題はない?」
「うん。ここで君を倒せば、僕たちの作戦の成功率は格段に上がるからね」
「……へぇ。僕を倒せると思っているんだ?」
「君を倒せなければ、ゾルデスも倒せないだろ?」
「あははっ、そりゃそうだね」
ラムフィスは白い牙を見せて笑う。
「君との会話は楽しいし、異界の料理も食べてみたかったけど、やっぱり戦うしかなさそうだね」
そう言うと同時に、夜空に無数の火球が具現化された。その火球が次々と落ちてくる。
周囲にいた兵士たちが火球の炎に焼かれて逃げまどう。
「魔道師部隊っ!」
ケルロ五千人長が叫ぶと、杖を持った兵士たちが素早く呪文を唱えた。無数の魔法の矢が具現化し、宙に浮かんでいるラムフィスに向かって放たれる。
ラムフィスは笑みを浮かべたまま、両手を左右に動かす。無数の矢はラムフィスに当たる前に消失した。
「あはは。こんなちゃちな魔法で僕を倒せると思ってるの?」
僕はラムフィスのななめ下に回り込み、魔銃零式の引き金を引いた。
銃声が響いた瞬間、ラムフィスの足元に半透明の壁が現れた。エクスプローダー弾がその壁に当たり、弾け飛ぶ。
「残念でした」
ラムフィスは人差し指を立てて、それを左右に動かす。
「君の動きは、しっかりチェックしてるよ。君だけは危険だからね」
僕は唇を強く噛んで、頭上にいるラムフィスを見つめる。
宙に浮かんだまま広範囲の攻撃魔法を使えるし、防御魔法も無詠唱で速い。さすが七魔将筆頭だな。
「優樹っ、まずいにゃ」
ミルルが僕に体を寄せた。
「ラムフィスが空にいるから杉阪牛パンチも『聖剣ミルル』も使えないにゃ」
「わかってる。それがラムフィスの作戦なんだよ。空にいれば攻撃する手段が限られるからね。兵士たちがいっぱいいても関係ない」
「じゃあ、優樹の『滅呪弾』を使うのにゃ。あれなら、強い魔族も一撃にゃ」
「それを狙ってるけど、ラムフィスに隙がないんだ。滅呪弾はあと四発しか残ってないから、無駄撃ちはしたくないし」
その時、金色に輝く数十羽の鳥が召喚され、ラムフィスに攻撃を仕掛けた。
兵士の中に召喚術師がいるみたいだな。この攻撃なら……。
鳥はラムフィスに突っ込んでいく。
「鳥ねぇ……」
ラムフィスは口角を吊り上げたまま、両手の人差し指を立てて前方に向ける。その指の先から青白い光弾が出て、前にいた十羽以上の鳥を貫いた。
一瞬で半分以上の鳥がやられたか。でも……。
一羽の鳥がラムフィスの背中に突っ込んだ。
爆発音が響き、夜空が白く輝く。
数秒後、その輝きが消え、無傷のラムフィスの姿が視界に入った。
ラムフィスは笑みの形をした唇を開いた。
「避け損なっちゃったけど、この程度なら、避ける必要もなかったかな」
周囲にいた兵士たちの顔が恐怖に歪む。
「攻撃を続けろ!」
ケルロ五千人長が声を張り上げた。
「魔法でも弓でもいい。奴を地上に落とせ! そうすれば全員で奴を狙える!」
「君たちじゃ無理だって。僕の魔法耐性はゾルデス様に匹敵するからね」
ラムフィスの周囲に新たな火球が具現化される。
「そして、魔力も普通の魔族の十倍以上はあるんだ。つまり、この程度の火球の魔法なら、一日中だって使えるよ」
火球が次々と落ち、兵士たちの悲鳴があがる。
ダメだ! 全ての兵士を守れる大きさの防御魔法は使えない。少しでも早くラムフィスを倒さないと!
僕は魔銃零式の銃口をラムフィスに向ける。その動きに反応して、ラムフィスが僕から離れた。
やっぱり、警戒されてるな。距離もあるし、魔銃零式で攻めるのは難しいか。
それなら――。
「由那、ミルルっ、二人でラムフィスを攻めてくれる?」
「それはいいけど……」
由那が宙を移動しているラムフィスを見る。
「あの高さじゃ、ジャンプしても届かないよ」
「大丈夫。それはなんとかするから」
僕は由那とミルルに顔を近づけて、作戦を話した。
一分後、僕は由那たちから離れて走り出す。
ラムフィスは兵士たちが放った矢を舞うようにかわしている。
「あははっ! いい加減に諦めなよ。こんな矢なんて、簡単に避けられるし、当たっても僕を殺すことなんてできないよ」
そう言いながら、ラムフィスは視線を僕に向けた。
「水沢優樹、君と戦うのはもう少し後にするよ。どうせ、君は兵士たちを見捨てて逃げ出すことはしないだろうしね」
「その通りだよ!」
僕は魔銃零式の引き金を引く。
ラムフィスの足元に半透明の壁が現れ、『通常弾』を弾いた。
「だから、それは無意味だって」
「わかってるよ」
僕は両手を夜空に向けて、魔法を使用する。
笛が鳴るような音の後、夜空に爆発音が響いた。
七色の光が放射状に広がり、ラムフィスの体を鮮やかに照らす。
「……んっ?」
光を避けたラムフィスの表情が曇る。
どうやら、この攻撃……花火に殺傷力がないことに気づいたな。
これは僕が魔法で創造した特別な花火だ。通常の花火より、飛び散る火の粉が長く宙に残り、輝きを維持することができる。
だけど、効果はそれだけで、相手にダメージを与えることはできない。
「それでも気になるよな。これだけ派手な花火だと」
僕は次々と魔法の花火を打ち上げた。
ラムフィスは用心のためか、僕から距離を取る。
予想通り、僕のことだけは警戒しているな。
僕は新たな魔法を使用する。
魔力キノコと『七色草』『風砂』を組み合わせて……。
宙に縦横五十センチの板が数百枚具現化された。赤、黄、緑、青、紫色の板は地上と水平に浮かんでいる。
「こっちが本命ってことだね」
ラムフィスは目の前に浮いている赤色の板に人差し指を向けた。青白い光弾が発射され、赤色の板が粉々に砕けた。
「何だ、ただの板じゃ……あ……」
ラムフィスは板を足場にして近づいてくるミルルに気づいた。
「遅いにゃ!」
ミルルは緑色の板の上でひざを大きく曲げ、高くジャンプする。
白く輝く短剣の刃がラムフィスの右足のふくらはぎを斬った。
「ちっ……」
青紫色の血を流しながら、ラムフィスはミルルから離れようとする。
「そうはさせないにゃあ」
ミルルは板の足場を利用して、ラムフィスに突っ込んでいく。
「調子に乗るなっ!」
荒い言葉を吐いて、ラムフィスは左の足でミルルの腹部を蹴る。
「にゃああああ!」
ミルルはバランスを崩して、近くの板にしがみつく。
「ふん。この程度の傷、すぐに……」
その時――。
ラムフィスの背後に由那が現れた。由那は紫色の板を右足で強く蹴って、高く跳んだ。持っていた斧が巨大化し、その刃が振り下ろされる。
ラムフィスの左腕が肩から切断された。
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