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サラさん
しおりを挟む私が視線を向けると、そこにいたのはエプロン姿の若い女性だった。年齢は20歳くらい? 気の強そうな目つきと、腰までありそうな長さの黒髪をポニーテールにしているのが特徴的。
頭にバンダナを巻いているから、食堂とか食品関連のお仕事をしているのだろうか?
日焼けしているのか肌は少しだけ小麦色だけど……今まで出会ってきた貴族令嬢と比べても負けず劣らずの美人さんだ。
こういう言い方は失礼であることは承知だけど、庶民で貴族に匹敵する美人というのはかなーり珍しい。これは庶民が劣っているというわけではなく、貴族が美男美女と結婚しすぎなのだ。そんな中でこのお姉さんの美しさは奇跡と言っても過言ではないでしょう。
おっと今はお姉さんの美しさに感心するより私の名誉毀損を何とかしなければ。
「ふふふ、虐めてはいませんよお姉さん。私はすべての猫の味方になる女! どうして虐めることがありましょうか! むしろ私は猫を虐める鬼畜をボコる側の人間です!」
「……ずいぶんとおかしな――面白い子が引っ越してきたみたいね?」
「おっと、この近くの人ですか? はじめまして。ここでお花屋さんをやることにしたシャーロットです」
「シャーロットとは、ずいぶんとお上品な名前ね? ……ギルド長から話は聞いているわ。私は向かいで食堂をやっているサラよ。よろしくね」
「よろしくお願いしますサラさん。……ギルド長というのは?」
「商業ギルドのギルド長から、ここで店を始める女性は『訳あり』だからケンカを売るような真似はするなってお達しが来ているらしいのよ。たぶんこの辺りの人はみんな知っているんじゃない?」
「訳ありって……」
ちょっと失礼じゃありません? 私はただ公爵であるアルバート様から婚約破棄をされてしまったという設定で、実家の伯爵家から追放される予定で、庶民としてお花屋を始めるだけなんですけど?
…………。
……うん、訳あり。これは訳ありだわ我ながら。
悲しい現実から目を背けつつサラさんと会話する。
「商業ギルドですか。よく知らないですけど、私も入った方がいいんですかね?」
「どうなのかしら? 王都で商売をするならほぼ強制的に入会するんだろうけど……シャーロットは『訳あり』だからあまり気にしなくてもいいんじゃない? たぶん偉いお貴族様から話は通っているんだろうし」
「そんなものですか……」
その話を通した貴族っていうのはアルバート様なんだろうなぁ。で、ついでに私がトラブルに巻き込まれないよう釘を刺しておいてくださったと。感謝感謝である。
……まぁ、その結果として商業ギルド長から『訳あり』だと思われちゃったんだろうけどね。
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