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にぶい
しおりを挟むバラを収穫していて、気づいたことがある。
このハサミ、切れ味がいまいちだ。
バラの茎は結構固いし、太さもあるので事務で使うようなハサミでは中々切れない。無理をするとすぐに刃こぼれをしてしまいそうだし……。というわけで街で売っていた刃の分厚い頑丈そうなハサミを買っておいたのだけど。う~ん、あまり思い通りには切れないなぁ。
前世のハサミはどんな感じだったかしらと記憶を辿っていると、私の様子がおかしいことに気づいたのかリュヒト様が声を掛けてきた。
『珍妙な顔をしてどうした』
「珍妙って……。いえ、ハサミの切れ味がイマイチなので、もうちょっと良いハサミが欲しいなぁとですね」
『なるほど。ならばドワーフにでも相談してみるといい』
「ドワーフですか?」
『うむ。鍛冶と言えばドワーフだろう? 奴らは武器ばかり作っている野蛮人種だが、ハサミくらいは作れるだろう』
野蛮って。物語ではエルフとドワーフの仲が悪いというのは定番だけど、実際もそうであるらしい。
あと、ハサミくらいとリュヒト様は言うけれど、ハサミも結構作るのが難しいらしいのだ。異なる二つの刃物を鋲で留め、ぴったりと合わさらないと切れないし。……と、前世でそんな解説を見たことがある気がする。
ドワーフかぁ。ここは王都なんだからドワーフくらいいるかしら? でも何の伝手もない女が向かっても門前払いされそうだしなぁ。
……公爵家の騎士団が使う武器の製作修理を任せていた工房があったから、まずはそこに話を持って行きましょうか。今さら公爵家に迷惑を掛けるのもアレだけど、セバスさんはどこか寂しそうな顔をしていたし……。
『しかし、こんなものを切るために道具が必要とは……人間とは不便なものよな』
リュヒト様が人差し指を振ると、近くにあったバラの花が一本切り落とされ、空中に浮かび、ふよふよとこっちに向かって飛んできた。そしてそのまま私の髪に挿し込まれる。まるで髪飾りのように。
風の魔法による切断と、保持。さらには移動したあとに精緻な操作で私の髪に挿す。すべてが風の魔法で行われた一連の流れはあまりにも各動作が精密すぎてもうどうやっているのか人間には理解不能だ。そもそも切断したあとに空中で掴むなんてまったく別の魔法と呼んでいいほど力加減が違うのだし。
「リュヒト様って凄いんですねぇ」
『……いや、ここは髪に挿したバラについて何かないのか?』
「? あぁ、ただ髪に挿すだけでは長持ちしませんので、まずはお店に戻ってから茎を水切りして、水に濡らした脱脂綿で切り口を保水。あとは小さなビニール袋で――あぁ! そういえばビニール袋がないですねこの世界! 花束をどうやって売りましょう!?」
『……鈍い』
深い深いため息をつくリュヒト様だった。今までビニール袋がないことに気づかなかった私は確かに鈍いんですけど……そんなに呆れなくても……。
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