後宮の残念美人は、女装侍女と謎を解く

九條葉月

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雷獣

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 大華国風の装飾が施された廊下を歩く仙人。(見た目だけなら)銀髪の美女。

 何とも違和感溢れる光景だが、もはや慣れている天真である。まだ見慣れていないのか杏などは少しそわそわしているが。

「なんだか名探偵になった気分ね!」

 子供のようにウキウキしているが、この仙人、年齢不詳のご長寿である。

「めいたんてい、ですか?」

「あれまだ名探偵が通じないんだっけ? あぁそうか推理小説はあっても探偵という職業はないパターンか。これは私が世界最初の名探偵になるしかないわね!」

 とんでもないことをほざいているうちに沙羅たちは倉庫に到着した。目撃者を代表して天真が説明する。

「あの穴からいきなり『何か』が飛び出してきて……。最初は光というか雷光かと思ったんですけど、よく見たら四本足の獣で。犬っぽくはなかったですね」

「ふぅん? 雷光みたいで、四本足で、犬っぽくない……。雷獣でも出たかしら?」

「雷獣ですか?」

「昔はと呼ばれていたけど、雷獣の方が分かり易いでしょう?」

「はぁ……?」

「夔、じゃなくて雷獣なら音楽を鳴らせば出てくるかしら? おっと、その前に『鑑定』してみましょうか」

 金色の瞳を僅かに光らせながら沙羅が天井の穴を凝視する。

(そういえば師匠も光る系の生き物でしたね……)

 沙羅は全体的にアレ過ぎてすっかり忘れていた天真だった。

「……げっ」

「げ?」

 沙羅の呻き声(?)に首をかしげる天真。

「あー、やっば、そうくる……? う~ん吉兆。吉兆ではあるんだけど……天真にとっていいことなのか悪いことなのか」

「私ですか?」

「そうねぇ、どうしましょうかねぇ。…………。…………。……ま、いいか。いやよくはないか。このまま放置したら火事になるかもしれないし」

 火事、という言葉にその場がざわめいた。後宮は建物が密集しているので火事になればすぐに火の手が回ってしまうのだ。
 後宮の周りの堀には大量の水が貯めてあるので消火しやすいとはいえ、火事を好む人間はいないだろう。

 何かを決断したかのように沙羅が手を叩く。

「よし! 天真! ちょっと歌でも歌って頂戴!」

「歌、ですか?」

 いきなりの要求に首をかしげる天真だが、そういえば先ほど沙羅が「雷獣なら音楽を鳴らせば出てくる」みたいなことを言っていたなと思い出す。

 歌。とは言われても、皇太子であった天真にそんな教養はない。歌とは他の者に歌わせるものだからだ。

 だからこそ。彼に歌えるものと言えば……むかしむかし聞かされていた揺籃歌(子守歌)くらいのものだ。

「――――」

 小さく息を吸ってから天真は歌い出した。遠い記憶の果てに残る、その歌を。


「――月明かりが照らす中 我が子よ眠れ 穏やかに

 ――いずれあなたは武器を取り 遠き北部を征くのでしょう

 ――いずれは白き馬を駆り 遠き南部を征くのでしょう

 ――されども 我が 愛し子よ

 ――偉大な君子にならずとも

 ――偉大な学者にならずとも

 ――あなたは我が愛し子です

 ――あなたは我が愛し子です」



「その歌は……」

 なぜか沙羅が愕然としていると、

『――モォ!』

 珍妙な鳴き声を上げながら、それ・・は天井の穴から飛び出てきた。

 沙羅が雷獣と呼んだ獣。
 雷獣はパチパチとした帯電の音を響かせながら天真の懐に飛び込んだ。

 思わず雷獣を抱きしめる天真。
 帯電しているというのに、天真が感電する様子はない。

「え!? なに!? どうしたの!?」

 慌てる天真に対して、雷獣はもぞもぞと天真の胸元で蠢き――丁度いい塩梅の場所を見つけたのか、イビキをかき始めた。

「え? え? えぇ……?」

 どうすればいいんですかと沙羅の方を見る天真。

 困る彼の様子を見て、沙羅はグッと親指を立てた。

 彼女の心の声を代弁すれば、「女装美少年と小動物! ごちそうさまです!」となるだろう。



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