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貧民街と、出会い 2

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「――黒髪の子供がいるのに、見た目が9割って教えはちょっと酷じゃないか?」


 呆れたような声がかけられた。
  
 読み聞かせを聞いていた子供たちが駆け寄ってきたのだから、当然読み聞かせをしていたタフィンもやって来たのだ。

 もちろん私は即座に反論する。

「大丈夫、黒髪に対する差別なんて無くすから。だって、黒髪はこんなにも綺麗なんだよ? みんなもすぐに理解してくれるはずさ!」

「……まぁ、お前さんならやらかしそうだけどな」

「ふふん、タフィン。言葉選びを間違えているよ? こういうときは『やらかしそう』じゃなくて『成し遂げそう』と言わなくちゃ」

「お前ならやらかすな、絶対」

 悟ったような顔で何度も頷くのは、年上の友達であるタフィン。

 年齢はたぶん13歳くらい。

 スラム街にしては珍しい金髪青目。こういう子供(しかも美少女)は攫われるか貰われることが多いからね、未だにスラムで生活できているのが奇跡に思えるような存在だ。

「で? リリア、今日はどうした?」

 美少女らしくない乱雑な口調でタフィンが尋ねてきた。貧民街なのだからむしろこういう言葉遣いの方が普通なのだ。残念ながら。

 いつかタフィンにお嬢様言葉とか立ち振る舞いを学ばせたいなぁと考えつつ、今日の訪問目的を告げた。

「うん、この前渡したポーションはどうだったかなって」

「あぁ、あの薬か。おかげさまで頭ぶつけて死にそうになっていたデンのじいさんが復活したよ。重傷人が出たときは助かるな」

 私がいれば回復魔法をかけられるけど、私も四六時中スラムにいるわけじゃないものね。

 本当に死にそうな人が出たときはタフィンの使い魔が伝えてくれるようにはなっているのだけど。

 ポーションが役に立ったようで何よりだ。みんなも効果を実感してくれただろうし、本格的に運用しても大丈夫だろう。

 私がアイテムボックスから初級のポーションを取り出して、集まってきた子供たちに使い方を教えていると――ふと、1人の少女が視界に映った。

 他の子供たちは遠慮なく抱きついたり腕を引っ張ったり脇腹を蹴ったりしているのに、その少女はためらうようにこちらを見ているだけ。

(わぁお、ナユハや愛理に匹敵する美少女だ)

 この国では非常に珍しい、海を切り取ったかのような蒼い髪色。
 磨き抜かれた宝石のように輝く紺碧の瞳。

 そして、貧民街に似つかわしくないほどに白い肌。
 まぁ、着ている服こそ平民服だけど、生地も仕立ても一流だから綺麗な肌でも不自然じゃない。首のチョーカーについている宝石は本物だし。おそらく貧民街の人間ではないのだろう。リュースと同じようにお忍びなだけで。

 年齢は、たぶん私よりちょっと年下くらい。顔のパーツは冗談なんじゃないかってくらい整っていて、ナユハという美少女が常に側にいる私でも見惚れてしまうほど。

 うんうん、可愛い女の子って見ているだけで癒やされるよね。やっぱりいいよね~スラム街。普段私の周りにいるのは年上美人系ばかりだから、こういう年下の子に囲まれるのも悪くない――

「……リリア?」

 ナユハたんがジトッとした目で私を見つめていた。いや~そんな熱い視線を向けられると火傷しちゃいそうだよアハハハハ……。

 こほん。ナユハから必死に顔を逸らした私は、逸らした先にいたタフィンに質問を投げかけた。

「え、えっと、あの子は誰? 初めて見る子だよね?」

「ん? あぁ、マリーだな。なんでも人捜しをしているらしい」

「人捜しねぇ。そんな理由でよくガイさんが通してくれたね?」

「あのガイが根負けするほど通い詰めたってことさ」

「えぇ、あの石頭どころか鉄頭のガイさんが……? お人形さんにしか見えない美少女なのに、なんて諦めの悪い」

 その頑固さ、あるいはナユハに匹敵するかもしれない。

「それで? そのマリーちゃんは誰を探しているのかな?」

「あん? 知らね。聞かれていないしな。他人の事情には立ち入らないのがここでの掟だ」

「ふぅん、まぁそうだよねー。……身なりは完全に貴族だから、貴族に拾われた子供が妹とか弟を探して――って感じかな?」

 スラムではよくあるストーリーだ。貴族は貴族としての責務ノブレス・オブリージュのために孤児を拾うことが多々あるけど、拾われる子供って顔がいい子ばかりだからね。

 たとえ兄弟姉妹でも全員が整った顔つきというわけではない。兄が拾われて弟が置き去りに、なんて悲劇は本当によくあるお話なのだ。

「……そういえば、タフィンには養子入りの話とかないの? 見た目だけなら美少女なんだからありそうなものだけど」

「見た目だけで悪かったなバカ野郎。私も金持ちの貴族に拾われるか見初められての玉の輿を狙っているんだがなー。本当に貴族ってヤツは見る目がないよな。リリア、どっかにいい男はいないか?」

「いい男ねぇ……」

 お金持ちで、私の友達を任せられるほど性格も良くて、けっこう面食いなタフィンが満足する男となると――

「――アルフか」

 私の弟アルフレッドか!?

「アルフ?」

「ふっふっふ、アルフを選ぶとはいい目をしているね! だが! アルフと結婚したかったら私を倒してからにしろ!」

「いや誰だよアルフって」

「はぁー? あの超絶プリティでクレバーで未来のイケメン確定なアルフを知らないとかモグリか貴様!?」

「いや何言っているのか分からんのだが」

『リリアちゃん、落ち着いて。前世の横文字使っても普通の人は分からないから、ね?』

 どうどうと愛理になだめられた私である。だが、これが落ち着いていられるか!

「アルフが、アルフが結婚しちゃう! やっと引きこもりが解消して、これからお姉ちゃんっぽいことしてあげようとしたのに! 『お姉様♪』と呼んでくれるあの笑顔が他人のものになってしまうのか! ちっくしょう! どうしてこうなった!?」

「……ナユハ。リリアってこんなに阿呆だったか?」

「はい、タフィン様。リリア様は弟様のことになると頭のネジが数本はズレてしまう『ブラコン』ですので。まぁ普段も数十本単位で緩んでいるのですけれど」

 ナユハの毒舌に泣きそうになる私だった。マリーちゃんに見惚れていたのを怒っているのかもしれない。


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