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やらかし
しおりを挟む王都から馬車で一時間ほどの小さな森。
木々が少し開けた広場で、私は仮面な変身ライダーのスーパーな変身ポーズその1を決めた。あの難しいヤツね。
「――遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我が名はリリア・レナード! プロメテウスの火を奪い、裁きの飛礫を墜とす者!」
決め台詞を叫んだ私である。最近は(主に璃々愛がぶっ飛んでいるせいで)中二病っぽい言動が足りていないからね。ここらでポイント(?)を稼いでおかないと。
「わー、かっこいいー」
棒読みで拍手してくれるのはナユハちゃん。相変わらず目が死んでいるでござる。
「きゃー! リリアちゃーん! こっち向いてー! L・O・V・E! アイラブ☆リリアー!」
と、往年のアイドルオタクみたいな声援をくれるのは愛理。二人を足して二で割るくらいの反応が欲しいところだ。
「さぁ! やっと銭湯予定地の屋敷の解体が始まった今日この頃! お元気ですか、お元気ですね! 本日は試作ロケット2号機の打ち上げをしたいと思います!」
『どんどんぱふぱふー!』
「どんどんぱふぱふー……」
ナユハが明らかにやる気ないけれど、気にせず突き進む!
「なぜ宇宙を目指すのか? それは、宇宙(そら)には浪漫があるからです! 璃々愛もそう言っています!」
頭の中で璃々愛が万雷の拍手をしていた。オーディンさんを無理矢理付き合わせて。
ちなみにロケットの試作一号機は、まだナユハと友達になる前に鉱山で作ったアレだ。爆発したヤツ。廃材を利用したのでたぶん強度が足りなかった。残念無念。
そして試作二号機。
動力には爆発系の魔石を使用。思いっきり軍事目的に使われるもので本来は王国軍に専売するものなのだけど、そこはチートなリリアちゃん。燃焼系の魔石を改造して爆発的な燃焼をするように改造しちゃいましたよ。
ものすごく疲れるからあまりやりたくないけれど。
爆発系ではなくて、爆発 (的な燃焼をする)系の魔石なので問題はない。きっとない。
「……愛理ちゃん。魔石自体の改造とか理論的に不可能って研究結果が出ていなかったっけ?」
『今さらだよナユハちゃん。リリアちゃんに常識は通用しない』
なにやら友達二人がひそひそ話しているけれど、気にしない。
ロケット本体は鍛冶職人さんに作ってもらった鉄製。かなり重いけど前世のような炭素系複合素材とかアルミ合金とかはないのでしょうがない。
今度、いい素材がないか冒険者ギルドに聞いてみようかな。
素材の改良は後日にするとして、今日はとりあえず魔石を燃料とした発射実験だ。
まずは発射台に移動。
とはいっても岩に立てかけるだけだけど。
続いて燃料の注入。
魔石内の魔力や空気中の魔素だけじゃ足りないから私の魔力も注ぎ込む。
「ハンドパワー!」
注入する魔力量は、とりあえず雲の上まで到達するくらいの量にしておこうかな。
「……愛理ちゃん。はんどぱわーって何?」
『信じる心だよ』
なにやら愛理が深いようなそうでもないようなことを言っていた。
さて、そんな二人は置いておいて。魔石をロケット燃料として使うと考えた場合、足りない魔力を注ぎ込むだけではダメだ。重要なのは魔石内の魔力を均等に放出させること。
一気に放出させたらただの大爆発だからね。宇宙に到着するまで魔力を持たせないと。
魔力の制御装置、なんてものはない。魔法を制御したいなら術者が直接操作する必要がある。
でも、これは天高く飛んでいくロケットであり、速度は速いし距離もどんどん遠くなる。直接操作なんて無理な話だ。
いや無理をすればできるかもしれないけど、スキル“未熟なるもの”を持っている私はたぶん大爆発させちゃうと思う。
そこで使えるのが髪の毛だ。
そう、魔法使いにとっての髪の毛は蓄電池ならぬ蓄魔池。大量の魔力を貯められつつも、自分の身体の一部なので色々と無茶ができるのだ。
たとえば、『一定間隔で魔力を放出させる』という術式を組んでから魔石に溶け込ますとかね。こうすれば一定間隔で魔力を放出させる魔石の完成って訳ですよ。
「……いや、普通無理だからね? 髪の毛に術式を書き込むスペースなんてないよね? しかも固体である魔石に溶け込ませる? ちょっと意味が分からないんだけど」
『諦めなよナユハちゃん。リリアちゃんのやることだよ?』
何やら二人が話し込んでいる間に髪の毛in魔石は完成したのであった!
「わ、私が今まで築き上げてきた魔術常識が……」
なにやらナユハが地面に両手を突き、そんな彼女の肩を愛理がぽんぽんと叩いていた。きっと実験の成功を土地神様に祈っているに違いない。
現実から目を逸らしつつ、ロケットに魔石を装着。
私は岩の上でスタンバイしていた妖精さんに目を向けた。
敬礼してきたので、私も返礼する。
妖精さんはどこからか用意した宇宙服を着込み、ヘルメットを脇に抱えている。
私の脳内にBGMが流れ始めた。隕石大爆破なあの映画のメインテーマだ。
妖精さんが親指を立てて、ロケット上部に備え付けられたコクピットに乗り込んだ。
コクピットとは言ってもイスが一つ置いてあるだけの小部屋なのだけど。
他の妖精さんたちが紙テープを投げてお見送りをしている。それは船旅の時にやるものじゃないのかな?
まぁいいか。雰囲気は大切だ。
「――それでは、これより点火します! 世界で初めて宇宙へ到達することを願って!」
笛を鳴らして危険を知らせる。
この森にはナユハと愛理しかいないと思うけど、雰囲気重視だ。
「発射5秒前!」
「よん、」
「さん、」
「にー、」
「いち、」
「――ゼロ!」
轟音と共に魔力がほとばしった。
方向性を与えられた爆発的な燃焼は、驚くほど真っ直ぐにロケットを大空へと突き進ませた。
成功だ。
私が成功を確信して握り拳を作ると――
――爆発した。
どかーん、と。
妖精さんを乗せたまま。
「よ、妖精さーんっ!?」
叫ぶ私。
綺麗なお空で妖精さんが親指を立てていた。マンガやアニメのワンシーンのように。
……まぁ、でも大丈夫。
私の攻撃魔法が直撃しても無傷な妖精さんなのだ。たとえ魔石が爆発しようが傷一つ付かないだろう。
というか。
そんな存在じゃなければ危なすぎて実験段階のロケットに乗せられないって実際。
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