68 / 74
義娘?
しおりを挟む帰りの馬車で。
「リリーナちゃん、報復はどんなものを望むかしら?」
今日の晩ご飯を尋ねるような気楽さで公爵夫人が確認してきた。
「い、いえ、そんな、報復だなんて……」
「だって、あのままだったら無理やり王太子との婚約を結ばれていたのよ? ここは王領地を切り取るくらいしても罰は当たらないと思うわ」
いやいや、王領地って。それはもう内乱です。
「へ、陛下からすれば最大限の謝罪のつもりだったでしょうし……」
やはりなぜか陛下のフォローに回らされる私だった。
まぁ、でも実際、王太子との婚約というのは破格の条件ではある。なにせほとんど自動的に次の王妃になれるのだし。夫を亡くしたばかりの未亡人からしてみればまさに救いとなるはずだ。
公爵夫人もそこは理解しているはずだけど、それでも憂鬱そうにため息をつく。
「ああいうところがダメなのよ。一番偉いことに何の疑問も持たず、平気で他人の人生を狂わせて……。あの人にはあんな国王にはなってもらいたくはなかったのに……」
「…………」
なにやら、昔色々とあったらしい。
あまり踏み込んだら悪いかなと思ったので話題転換を試みた。
「え、え~っと、夫人が私の後見人だというのは……」
「迷惑だったかしら?」
「い、いえ! あのままだったら王太子殿下と婚約させられていましたし……むしろ私は腫れ物扱いされているでしょうから、逆にご迷惑を掛けないかと」
「あら、そんなことはないわよ。むしろ悲劇の令嬢として同情的だもの」
「そ、そうなんですか……?」
「あの愚かな王太子のせいで、オークのような公爵と結婚させられ。しかも実家からも勘当されたので戻ることもできず……。自暴自棄になってもおかしくはないのに、病気となった夫の看病を献身的に行ってきた、まさしく聖女のような令嬢であると」
おーん?
そんなわけないじゃん? 犬が川に落ちたら笑って石を投げるのが貴族という人種よ? 王妃になれず、衆人環視のど真ん中で婚約破棄された私に同情するわけないじゃん?
……もしかして、夫人が何かしました?
という目で夫人を見ると、夫人は誤魔化すように顔の下半分を扇子で覆い隠した。いや、さっき自分でへし折ったから隠れきってないですよ?
「わたくし、リリーナちゃんのことを気に入ってますの」
「あ、はぁ……?」
「少し落ち着きのないミアとも仲良くしてくださっていますし」
落ち着きがないというか暴走気質というか。
「王妃になるために一生懸命勉強していましたし」
親から勉強しかさせてもらえなかっただけなんですが。
「婚約破棄の場でも、落ち着き払って反論し、自らの名誉を守ったと聞いています」
ぶん殴る寸前でしたが? とりあえず心から折っておこうと思っただけですが?
「――それに、わたくしの義娘になるかもしれませんし」
…………。
ミッツ様からの求婚、ご存じなのですか? いや知らないわけないか自分の家の中で行われたのだから。
「あー、えーっと、そのー、ミッツ様のことは嫌いじゃないですし、結婚しても何だかんだ上手くやっていけそうな気もしますが……」
他の男性からも求婚されているんですよ。よりどりみどりですね。困っちゃーう。と、口にしていいものか。
言い淀む私の態度に、どうやら夫人は別のことで悩んでいると勘違いされたようだ。
「……ミッツがダメなら、ミアでも構いませんよ? わたくしの義娘になることは変わりませんし」
どういうことっすか……?
27
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる