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獣人族の里へ
しおりを挟む聖剣アズベインが造られた頃は、人間族と獣人族は良好な関係を築いていたらしい。アズは人間と獣人が協力して作り上げたらしいし、勇者と共に魔王を討伐した獣人もいたとか。
でも、それも遙か昔の話。
ここ百年で人間族は勢力を拡大。獣人族はだんだんと領地を失い、ついには森と荒野しかない北部に追いやられてしまった。
獣人族の戦士は確かに強力だけど、数が少ないからね。次々に兵士を補充できる人間族に押し切られて――という感じらしい。
そんな獣人族の里にはセナちゃんたちの他に私とミア、そしてミッツ様が向かうことになった。
いやセナちゃんたちを北部に送り出してサヨウナラというのは気が引けたし、元々私は獣人族の里まで同行しようとしていたのだけど……なんでミアとミッツ様も付いてくるのだろう? ミアはもうすぐデビュタントだから準備で忙しいはずだし、ミッツ様は近衛騎士としての仕事があるはずなのに。
「お姉様は目を離すと何をしでかすか分かりませんし……」
私はどこの悪ガキだ。なんで5歳も年下の子からそんな心配をされなければならぬのか……。
≪自分の胸に手を当てて考えてみたらどうですか?≫
≪マスターの行動を止めようとはしないあたり、かなり甘い対応だとは思いますが≫
ミアをフォローするアズとフレイルだった。あなたたちのマスターは私じゃないんかい。
北部はそれなりに遠いので、本来なら転移魔法を使いたいところ。でも、転移魔法は目視できる場所か、一度行ったことがある場所にしか行けないので、今回は選択肢から外れてしまう。
というわけで、北部には馬車で向かうことになったのだけど……人数が多いので一台目の馬車には私、ミッツ様、ガースさん。二台目の馬車にミア、セナちゃん、リッファ君が乗っていくことになった。
いや同乗者がミッツ様とガースさんって。よりにもよって求婚してきた二人って。明確な悪意を感じるのは気のせいですか?
「…………」
「…………」
ほらなんか空気悪いし! ミッツ様とガースさん睨み合っているし! え? 私こんな空気の中で北部まで移動しなきゃいけないの? 胃に穴が空くわよ?
≪身から出た錆なのでは?≫
なぜ一方的に求婚されただけなのに身から出た錆になるのか。
≪イケメンばかり落としているから悪いのでは?≫
一体誰がいつイケメンを落としたというのか。
≪あなたです≫
≪あなたです≫
魔導具からダブルで突っ込まれてしまった。なぜだ。
私とアズ、フレイルがそんなやり取りをしていると、睨み合っていた二人のうちまずはミッツ様が口を開いた。
「貴様。リリーナ嬢に求婚したらしいな」
「あぁ、そうなるな」
おおぅ、一触即発。今すぐにでも殴り合いというか殺し愛が始まってもおかしくはないわね。やめて! 私をめぐって争うのは!
≪この人けっこう余裕ありません?≫
≪まぁ、たとえこの二人が殺し合いを始めても、マスターなら制圧できるでしょうし……≫
私をそんな脳筋みたいに言うの、やめてくれないかしら?
「獣人よ。貴様、話を聞くにリリーナ嬢と出会ってすぐ求婚したと? ふざけているのか?」
「まさか、ふざけてなどいない。――リリーナは強い女だからな」
真顔で断言されてしまった。これはまたミッツ様が「ふざけているのか」と怒るのでは?
「――分かる。リリーナ嬢は強いからな」
分かるんかいミッツ様。……そういえば昔ボコボコにしたことがあるわね。ミアと一緒に。あのときに変な趣味に目覚めちゃったとか?
≪やはり、身から出た錆でしたか≫
≪どうしようもないですねこのマスター≫
アズとフレイルに呆れられてしまった。なぜだ。
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