56 / 57
第2章
第56話 二人での帰り道
しおりを挟む
僕からの贈り物に加えて、セシルさんもお酒と味や香りをより鮮明に感じるおまじないをかけたグラスをプレゼントした。
母さんも父さんも結構お酒は好きな方だと知っていたし、僕たちもこちらのものを飲みたくて適当にいくつか買っておいたので、その時に一緒に購入したのだろう。
そしてそれから大体一時間ほど僕たちはこの二週間でのこと、そしてこの七年間のこと、以前泊まったときでは話せなかったことも含めてたくさんのことを語り合った。
でもそんな楽しい時間は過ぎるのが早いものだ。
そうして……
「それじゃあなたたち、お正月くらいにまた一回こちらに来るんでしょ」
「うん、そのつもり。だからそんなに心配することないって」
「そうね……でもやっぱり」
「わかってるよ。寂しくなったらあげた写真でも眺めてて」
母さんにあげた写真。僕たちとの再会が間違いなく現実のものであることの証明。
セシルさん、こっちで新しいカメラも買ってたし、また来るまでの間にたくさん撮ってきてあげようかな。
「それではお母さん、お父さん、お世話になりました」
「セシルさん、こちらこそありがとうございました。これからもお付き合いよろしくお願いします」
「もちろんですよ」
「ポカポカして、気持ちいいですね……」
「そうだね~」
来たときと同様に電車に乗って、路線を乗り継ぐ。
途中で下車をし、前もって調べておいた感じのいい池の周りを散歩したり、おやつを買って食べ歩いたり、そんな少し無駄な時間を楽しみながら、僕たちは二人での旅路を行く。
「あとどれくらいだっけ?」
「一時間半くらいですかね」
最初の路線まできて、この世界での時間もあとわずか。
既に夜のとばりが落ち、文明の光が見え始めた街の風景を、揺れる車内の窓から眺めながらそんなことを考える。
「細かい場所は大丈夫ですか?」
「バッチリバッチリ、ちょっと時間かかるから待っててね」
初めの駅、道、そして森。二週間前、ここを通ってきたことを昨日のように思い出す。
木々をかき分け進む中、セシルさんは最も術式の展開に適した場所を探していった。
「準備完了だよ。じゃあ行こうか?」
「はい、わかりました」
目的の場所に着き少しして準備を終える。僕も手伝おうかと声をかけようとしたが、その気遣いは無用だったようだ。
そういって僕は名残惜しく一つ深呼吸した後、荷物を持ち円の中に入る。
「いいですよ」
「いくよ……えいっ!」
そうしてセシルさんが世界を移動するため、別に確保しておいた魔力塊を持ち、杖でその足下をたたいた瞬間、来たときと同様のまばゆい光が僕たちを包み込んだ。
「終わり……ですか?」
「大丈夫、ちゃんと戻ってこられたよ」
「ふむ……じゃあ」
すぐにその光は消え、僕たちはほんの少しだけ先ほどより違和感を覚える森の中にいた。だがやはりその移動は一瞬のもので、どうにも別の世界へ来たという感触がイマイチわかない。
それならば……と
「えいっと」
「おお、上手い上手い」
「確かに戻ってこれてますね」
かすかな風の音しか聞こえない静寂な森の中に、パチッと小さい音が響き渡る。僕は持っていた指輪の魔力を使わずに、小さな魔力弾を目の前にたまたま落ちてきた木の葉に向かって杖の先から放った。
そして問題なく弾は放たれ、小さな葉はさらに小さな穴を中心に開けてヒラヒラと舞い落ちていった。
ちゃんと魔術は使えるようだし、僕自身の腕が鈍ったりもしていないな。
「もう結構遅くなっちゃったね」
その言葉通り、既にもう辺りは真っ暗、ここは人家もない森の中なのでなおさらだ。
とはいっても何の問題もなく見えるからそれは別にいいのだが、今から帰って、それまでにはもう深夜と呼べる時間になっているだろう。
「ですね。まあ……ゆっくり行きましょう、急ぐことはないですよ」
「そうだね」
そんなことは仕方ないとお互いに顔を見合わせクスリと笑い、僕たちは夜の森を歩き出した。今日は家に帰り、お風呂でゆっくりと疲れを癒やし、ベッドでぐっすりと眠る。
まるでいつかあった、家族で旅行から帰ったきた日の夜のように。
そうして……また明日から僕たちの楽しくも不思議な生活は始まるのだ。
母さんも父さんも結構お酒は好きな方だと知っていたし、僕たちもこちらのものを飲みたくて適当にいくつか買っておいたので、その時に一緒に購入したのだろう。
そしてそれから大体一時間ほど僕たちはこの二週間でのこと、そしてこの七年間のこと、以前泊まったときでは話せなかったことも含めてたくさんのことを語り合った。
でもそんな楽しい時間は過ぎるのが早いものだ。
そうして……
「それじゃあなたたち、お正月くらいにまた一回こちらに来るんでしょ」
「うん、そのつもり。だからそんなに心配することないって」
「そうね……でもやっぱり」
「わかってるよ。寂しくなったらあげた写真でも眺めてて」
母さんにあげた写真。僕たちとの再会が間違いなく現実のものであることの証明。
セシルさん、こっちで新しいカメラも買ってたし、また来るまでの間にたくさん撮ってきてあげようかな。
「それではお母さん、お父さん、お世話になりました」
「セシルさん、こちらこそありがとうございました。これからもお付き合いよろしくお願いします」
「もちろんですよ」
「ポカポカして、気持ちいいですね……」
「そうだね~」
来たときと同様に電車に乗って、路線を乗り継ぐ。
途中で下車をし、前もって調べておいた感じのいい池の周りを散歩したり、おやつを買って食べ歩いたり、そんな少し無駄な時間を楽しみながら、僕たちは二人での旅路を行く。
「あとどれくらいだっけ?」
「一時間半くらいですかね」
最初の路線まできて、この世界での時間もあとわずか。
既に夜のとばりが落ち、文明の光が見え始めた街の風景を、揺れる車内の窓から眺めながらそんなことを考える。
「細かい場所は大丈夫ですか?」
「バッチリバッチリ、ちょっと時間かかるから待っててね」
初めの駅、道、そして森。二週間前、ここを通ってきたことを昨日のように思い出す。
木々をかき分け進む中、セシルさんは最も術式の展開に適した場所を探していった。
「準備完了だよ。じゃあ行こうか?」
「はい、わかりました」
目的の場所に着き少しして準備を終える。僕も手伝おうかと声をかけようとしたが、その気遣いは無用だったようだ。
そういって僕は名残惜しく一つ深呼吸した後、荷物を持ち円の中に入る。
「いいですよ」
「いくよ……えいっ!」
そうしてセシルさんが世界を移動するため、別に確保しておいた魔力塊を持ち、杖でその足下をたたいた瞬間、来たときと同様のまばゆい光が僕たちを包み込んだ。
「終わり……ですか?」
「大丈夫、ちゃんと戻ってこられたよ」
「ふむ……じゃあ」
すぐにその光は消え、僕たちはほんの少しだけ先ほどより違和感を覚える森の中にいた。だがやはりその移動は一瞬のもので、どうにも別の世界へ来たという感触がイマイチわかない。
それならば……と
「えいっと」
「おお、上手い上手い」
「確かに戻ってこれてますね」
かすかな風の音しか聞こえない静寂な森の中に、パチッと小さい音が響き渡る。僕は持っていた指輪の魔力を使わずに、小さな魔力弾を目の前にたまたま落ちてきた木の葉に向かって杖の先から放った。
そして問題なく弾は放たれ、小さな葉はさらに小さな穴を中心に開けてヒラヒラと舞い落ちていった。
ちゃんと魔術は使えるようだし、僕自身の腕が鈍ったりもしていないな。
「もう結構遅くなっちゃったね」
その言葉通り、既にもう辺りは真っ暗、ここは人家もない森の中なのでなおさらだ。
とはいっても何の問題もなく見えるからそれは別にいいのだが、今から帰って、それまでにはもう深夜と呼べる時間になっているだろう。
「ですね。まあ……ゆっくり行きましょう、急ぐことはないですよ」
「そうだね」
そんなことは仕方ないとお互いに顔を見合わせクスリと笑い、僕たちは夜の森を歩き出した。今日は家に帰り、お風呂でゆっくりと疲れを癒やし、ベッドでぐっすりと眠る。
まるでいつかあった、家族で旅行から帰ったきた日の夜のように。
そうして……また明日から僕たちの楽しくも不思議な生活は始まるのだ。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
若き天才国王の苦悩
べちてん
ファンタジー
大陸の半分近くを支配するアインガルド王国、そんな大国に新たな国王が誕生した。名はレイフォース・アインガルド、齢14歳にして低、中、上、王、神級とある中の神級魔術を操る者。
国内外問わず人気の高い彼の王位継承に反対する者等存在しなかった。
……本人以外は。
継がないと公言していたはずの王位、問題だらけのこの世界はどうなっていくのだろうか。
王位継承?冗談じゃない。国王なんて面倒なことをなぜ僕がやらないといけないんだ!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!
hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。
ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。
魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。
ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる