異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~

おさかな

文字の大きさ
上 下
53 / 57
第2章

第53話 世界と人間のあり方

しおりを挟む
「……この時間帯の空ってきれいだよね」
「そう……ですね」

 ふと空を見上げたセシルさんがその色について、口を開く。

 夜明け前と夕焼けの後、昼と夜の入れ替わる狭間の時間に見られる空。天気がよく、更には空気が良く澄んだ日に数分間、長くても十数分ほどだけ見られる幻想的な光景。
 蒼の瞬間……ブルーモーメントととも呼ばれる空。

 彼方から顔を出し始めている日の光による、そんな自然のグラデーションは思わず立ち止まってみてしまう美しさだ。

「この空……レンちゃんの瞳の色に似てるよね~」
「なんですかそれ。もしかして……口説いてるとか?」
「ん~ほんの少しだけ」
「……実は僕もそう思ったことありますよ」
「へ~そうなの?」

 ちょっとした冷やかしを込めながら、珍しく照れ気味のセシルさんに返す。

「今度は僕の方から聞いてもいいですか」
「何かあるの~何でもいいよ」
「セシルさんは……この世界好きですか?」

 一拍おいてそう問いかける。自分がかつて住んでいた世界、そんな場所が多くの世界を渡り歩いてきたセシルさんの目にはどのように映っているのか、純粋に興味があったから。

「そうだね……大好きかな! 私の今まで行ってきた世界の中でもかなり上位に入るくらいね」

 思っていた以上に明るく、にこやかな笑顔と共にそう返答をした。
 そんなによかったのか……これはちょっとだけ予想外かも。

「へえ……魔術がないのにですか? そういう研究はこっちじゃ基本できませんよ?」
「まあ私の唯一の取り柄なわけだしそこはちょっと残念だけど……それ以外に大きな理由があるからね」
「理由? それはどんな?」

 魔術がない世界だとセシルさんはつまらないのかと思っていたけど……そんな感じではなさそうだ。
 まあ僕たちとは違った天才、先人たちが進めた科学のことをのんびりと勉強して、その産物を他の世界に持ち込んだり、また別の世界に行ったとき魔術へと活かしたりそういったことはできるからなあ。
 そういうことでいいのだろうか? それとも……

「もしかして、便利なものがたくさんあるからとかですか? 治安がよくて住みやすいからとか?」
「そういうのも理由の一つではあるけど……一番はみんなが頑張ってる世界だからってことかな」
「みんなが……頑張ってるですか~」

 ん~なんかいまいちピンとこないな。

「私はこれまで何十もの世界を見てきた。すぐに移動した世界もたくさんあったけど、そういった中で特に気に入った世界では二十年、三十年と滞在し続けたこともあった」
「ふむ……」
「そのうち気づいたんだけど、自分はさっきも言ったように魔術でも科学でも、とにかくみんなで支えて頑張ってる世界が好きなんだって」
「なるほど……もうちょっと詳しく教えてくださいよ」

 なんとなく言わんとしていることはわかったけど、まだまだ理解するには言葉が不足している。

「例えば、今私たちが拠点にしている向こうの世界も、私はここと同じくらい気に入ってる。あの世界は魔力の影響こそ、それほど強い方ではないけど、人類みんなが魔術を使うことができる」
「ふむふむ……」
「そしてその中でこちらには及ばない早さとはいえ、みんなの中で熱意と才能を持つ魔術師たちが技術を……文明を少しずつ進めている」
「こっちがだいぶ早いだけかもしれないですけど……そうではない世界も結構あるんですよね?」
「結構あったね。特に魔力が濃いめでかつ一部の人間しか魔術が使えないような世界は一番よく見る上、進まないタイプの典型かな。科学の世界だってほんのわずかな人がその恩恵を独占しているような場合も見たことあるし」

 一部の人間が科学の恩恵を独占かあ……ディストピアしてそうだ。あんまり住みたいとは思わないな。

「魔術を使える人と使えない人で、差別とかそういうのが結構あるとか?」
「そういうのはあったりなかったり……それ以上に一部に偏ってるとかえって進みが遅いんだよね。あと争いごとも多い傾向ありかも」
「魔力の影響が強いからって、天才が多いわけでも、極端に強い生き物がいるわけでもないんでしたっけ」
「そう、どんなに世界が変わろうと、個で全てを凌駕するような人知を超えた生き物はいない。私たちみたいのだって、会ったのはレンちゃんが初めて。でも何よりそういうところは私自身が得るものも少ないし、大体はそんな世界に長く留まらないね。もちろんいい人はたくさんいるんだけど……」
「あんまり、居心地よくなかったってことですかね」

 そういった僕の言葉に、一瞬悩ましそうな表情を見せたセシルさん。そして再び空を見上げ、一つため息をして口を開いた。


「そうかな……そういうことになっちゃうかな。私たちが世界に善悪とか順位をつける権利なんてないけど、そういった感情を持つくらいなら別に構わないでしょ。気に入らなければ、また次に行けばいいんだから」
「うん……それでいいんじゃないですか? みんなが仲良く頑張ってる世界が一番好きなのは僕も同感です。好きも嫌いもそんな隠すことじゃないと思いますよ」
「ありがとね……なんか吹っ切れさせてもらっちゃったな。たまにこういうことで悩むんだよね」

 そんなにたいしたこと言ったつもりないけどな……

「それなら、この世界の人みたいに欲望マシマシな人々はどう思ってるんですか? ヤバそうだとか、そういうこと考えたり?」
「いやいや~むしろこれでガンガン進んでって欲しいよ。私自身がこっち側だと自覚してるのもあるけど、そういうのも含めて応援してる」

 あ、そうなんだ……

「なんかこっちはこっちで環境問題とか色々面倒なことになってるみたいですけど……」
「ん~まあ少しは心配かも。でもだからといって欲望や好奇心を止められはしない。豊かに自由になればさらにね。さっきの動画とかも小さなものとはいえ、そんな人間のあり方の産物の一つじゃない?」
「それじゃまずくないですか?」

 確かに世界の流れを、これからの人々の進む道を今更変えるなんてことは相当に困難だろう。
 だけど僕もここに住んでいたものとして、そういうのもどうなのかな~と、心の隅に思う気持ちはある。

「私だって凶暴な魔力入ってるような生物の住処まで開拓していった結果、人里降りてきて村滅ぼされたりとか、街中まで入ってきたりとか見たことあるし……」
「それで? どうなったんですか?」
「ああ……本腰入れた大国の軍隊にその生物は狩り尽くされちゃった」
「…………」

 なんだか……悲しい話だ。

「今のは一例だけど別に文明の進みに関係なく、大なり小なり余計なことをやらかしてしまうことは、けっこうあるもんだ」
「その場合は仕方ないのかもしれませんが、人間は生きるために何やってもいいって事ですかね?」
「そういうことでもないけど……やっぱ誰かが止めようと思っても、これはよくないと思ってても、結局他の誰かがやっちゃうのが人間だよ私たちも含めて欲深くて自分勝手なもの」
「…………」
「だから何か過ぎたことをやれば、当然それは自分たちに返ってくる」
「その通りだと思います」
「だけど……最後にはその因果応報すら、なんだかんだで乗り越えてしまう」

 そうか……そういうものなのかも。

「人間って……強いですね」
「強いよ~だからこの世界だって大丈夫。うまくやっていくに違いない。何より……」
「何より?」
「私たちが未来を予測するには今を基準にするしかないけれど、それじゃ決して当たらないよ。明日には、一月後には、一年後には今は想像もできないようなものが作られて、どんどん進歩してるんだから」
「人知を超えられるのは……人間ってことですね」
「上手いこと言うね~」
「だって一番それを実感するのはこっちの世界の進歩じゃなくて、普段の僕たちの日常ですから」
「ふむ……なるほどね。一理あるかも」



「あっ、レンちゃん、何か飲む? 散歩につきあってくれたし、私がおごってあげるよ」
「そうですか。じゃあ遠慮なくお願いしま~す」


 そうして近くのコンビニでホットコーヒーを買った僕たちは、それを飲みながらすぐそばのベンチへと腰掛けた。

「日が上がってきたね~」
「綺麗ですね」

 湯気の立つ暖かいコーヒー、僕はブラックでセシルさんは砂糖とミルクを一つずつ。じっくりと味わいながら、街を照らし始める日を眺める。
 普段飲んでいるコーヒーでもこういった場所、シチュエーションで飲むとなるとそのおいしさもまたひとしおだ。

「これ飲んだら、ホテルに戻りますか」
「そうしよう。また荷物の整理の仕上げをしなくちゃならないしね」


「ごちそうさま」
 そうして数分後、カップをゴミ箱へと捨てた僕たちは同じ道を辿りながらホテルへと向かった。来たときは閉まっていたシャッターが開き始め、人々の生活の始まりを感じさせる。
 この通りも数時間後には多くの人で行き交うだろう。

 そして僕たちもひとまずこの世界で過ごす最後の一日が始まるのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。

円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。 魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。 洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。 身動きもとれず、記憶も無い。 ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。 亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。 そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。 ※この作品は「小説家になろう」からの転載です。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...