上 下
50 / 57
第2章

第50話 尽きない楽しみ

しおりを挟む
「どうですか、ありましたか~」
「うんあったあった、とりあえずリストのは全部そろったよ」
「良かった。アキラ君には感謝ですね」
「だね~」

 僕たちの今いる場所は電車に乗ってきたゲームの専門のショップ。
 あの後アキラ君からメールで、オフラインで全てプレイできなおかつボリュームたっぷりという条件でおすすめゲームをリストとしてまとめてもらい、それを送ってもらったのでその物色に来ていた。
 どうやらアキラ君、かなりやっている方らしい。おすすめのコメントも力が入っていたし。

 僕はそんなに詳しくないので、結局ネットの評判見て適当に買っていこうかと思っていたが、こうして専門家が見つかった。渡りに船というやつかな。
 モニターと本体、さらには携帯機の方も買ったので、これで向こうでもゆっくり遊べるな。

 よく名作ゲームについて記憶を消してもう一度やりたいなんていうけれど……僕たちは実際にそういったことだって可能だ。
 楽しみは尽きることは無い。今までも、そしてずっとこれからもだ。

「後はなんか、買いたいものあります?」
「もういいかな~」

 一通り買い物は終わったし、そろそろ切り上げよう。
 カゴに入ったアクション、RPG、シュミレーション、シューティングなど色々なジャンルのニ十本ほどのゲームソフトを見ながら、自然とニンマリと笑みを浮かべたのを感じた。

「ありがとうございました~」

 会計を終えて、外に出る僕たち。もう少しかかるかと思っていたが、意外と早く買い物は完了した。
 とりあえずもうこちらで購入するようなものはないはずなので、これからどうするか……ホテルに戻るにはちょっと中途半端な時間だし……

「レンちゃん、まだ時間あるし、近くのゲームセンター行ってみない? 私一回行ってみたかったんだよね」
「賛成です。行きましょう」
「じゃあ早速!」

 そんなセシルさんの言葉で次の目的地は決まった。僕も久々に堪能してみたいと思ってので異論はない。
 買ったゲームはしまい、僕たちはショップからすぐ近くのゲームセンターに訪れた。


「ふ~ん、これが……」
「はい、お金崩してきましたよ」
「ありがと。ねえ、これってあのフィギュアを下に落っことせばいいんだよね」
「そうですよ。でもこれ結構コツがいるんですよ」

 入ってセシルさんが初めに興味を見せたのは、クレーンゲーム。それも橋渡しと呼ばれる、クレーンをうまい具合に引っ掛けてバランスを崩し、二本の棒の上に置かれた商品を落とすタイプのやつだ。
 クレーンゲームの中でも実力が顕著に表れるタイプなのだが、当然初めてであろうセシルさんは果たしてうまくいくのだろうか。僕も……これ成功したことはない。

「とにかくやってみる。まずは百円から」
「そのボタンで右に動いて、それで上ですから」
「わかるよ~それくらい」
「そうそう端っこを引っかけるように……あっ行き過ぎじゃないですか?」
「どうかな~」

 サイドからクレーンを眺めながら詰め寄る。僕が見た感じ、これではクレーンがわずかにかからない。
 だけどもうクレーンは軽快な音と共に、下に動き始めている。まあ一回目だからしょうがないか……

「あれ? あっ、あっ!」
「いい感じ、ねっ言ったでしょ」
「はい……」

 そんな僕の見立てとは裏腹に、クレーンの右側のアームはギリギリの絶妙なところで箱のはじを押し込むようにして、穴の側に持ってきた。
 斜めに傾いて収まっているこの状態はかなり順調だ。これならいけるかも……

「よし、もう一度」
「おおっ、もうちょい上で……そこ! いいんじゃないですか?」
「うんうん、手応えあった!」

 再び降りてくるクレーン。後はもうバランスを崩してやるだけなのだが……

「あっ、ああ~!」
「く~惜しいっ! もう一回!」

 残念ながら、今度は少し動いただけで落ちるまでには行かなかった。だけどこれなら……

「よしっ、よしよしっ!」
「これなら……おおっ!」

 三回目、見事に商品はコトンという軽い音と共に落下した。この瞬間は生では初めて見る……

「面白いね~これ!」
「しかし多少は動いていたみたいですけど、それでも三回ですか……実は何回も練習してたとかじゃないですか?」
「いや、これが初めてだよ。少しやり方を調べたりはしたけどね」
「それでもこれは凄いですよ」
「隣のもやってみよ。レンちゃん、それ袋に入れといて」
「あ、待ってください」



「おお……いける、やった~」

「ここで……いい感じ、オッケ~!」

 それからというものの、セシルさんは子供のようにクレーンゲームを満喫した。しかしすごい、何せ今とったフィギュアより大きなものも含めて、全部五百円一枚で仕留めているのだ。
 僕も見ているが、魔術などによるインチキの様子はない。もしかしたらここのゲームセンターが割と良心的な設定、配置をしているのかもしれないがそれでもここまではないだろう。単純にセシルさんの腕前によるものであるのは疑いようもない。
 こんな才能もあったなんて意外だな……

「くっ……いけ、いけ……よし!」
「あっ! レンちゃんも取れたじゃん」
「なんとか一個はいけました……」

 その中で僕も何とか一つゲット、十五回くらいかかってしまったけど……
 それでも、自分で落せたのは初めてだから嬉しいことには違いない。


「そろそろやめようか……」
「ですね……」

 そうして四体のフィギュアとぬいぐるみを三つ取ったところでクレーンゲームのエリアからは離れた。さすがに店員さんのおっかない視線をチラチラ感じるようになってきたし、ちらほらと見に来る人もいる。
 あれだけ取っていれば、そういうプロな人間だと思われても仕方ない。僕たちだって目立ちたくはないので、動画なんかに撮られてしまう前に、ここからはさっさとトンズラだ。

「次はあれ! プリクラってやつ」
「う~ん、ああいうのちょっと苦手……」
「え~私一人で撮ってもしょうがないし、一緒にやってよ」
「いいですよ、せっかくですしね」
「やった!」


「……」
「ん~レンちゃん、なんかぎこちないな~ほとんど真顔じゃない?」
「そうかも……」
「じゃあ、もう一回! 空いてるしね」

 でも確かにちょっと変かな。証明写真じゃないんだから、次はもうちょっと……

「よし、フレームはこれで~これくっつけて……これでどう?」
「……いいんじゃないですか?」
「はい、印刷っと……お~出てきた出てきた。かわいい~」

 そんな編集も終わり、ファンシーなプリクラのシートが排出される。それを見たセシルさんはとても上機嫌だ。
 やっぱり女子にとってこういうのはとても楽しいものなのだろう。僕はいまいちよくわからないけど……


「ああ面白かった~」
「今日はまた一段と楽しそうでしたね」
「うん、とっても!」

 そうして時も過ぎ、日が沈んだころ僕らはホテルへの帰路へとついた。もうすぐこちらに滞在する時間も終わりだ。
 まあ……いつでもってわけにはいかないがまた来れるから、そんなにしんみりするようなことでもないんだけどね。

「そういえば今日とったやつ全部持って帰るんですか?」
「それでもいいけど……アキラ君に見せて気に入ったのあったら、あげてもいいかなって」
「いいですね」

 今日はだいぶお世話になったわけだし賛成だ。好みのものがあるかはわからないけど。

「一応……あさって帰る予定だけど、明日はどうする?」
「明日は……たまには二人別々に行動しません?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

乙女ゲームの悪役令嬢になった妹はこの世界で兄と結ばれたい⁉ ~another world of dreams~

二コ・タケナカ
ファンタジー
ある日、佐野朝日(さのあさひ)が嵐の中を帰宅すると、近くに落ちた雷によって異世界へと転移してしまいます。そこは彼女がプレイしていたゲーム『another world of dreams』通称アナドリと瓜二つのパラレルワールドでした。 彼女はゲームの悪役令嬢の姿に。しかも一緒に転移した兄の佐野明星(さのあきと)とは婚約者という設定です。 二人は協力して日本に帰る方法を探します。妹は兄に対する許されない想いを秘めたまま……

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...