異世界ライフは魔女と共に~魔女の嫁として送る、久遠のTS百合生活~

おさかな

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第2章

第47話 忘れ物の導き

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「ふん……ふん」

 夕暮れ時の町の片隅の何の変哲もないコンビニエンスストア。その中の入り口に面した側にある雑誌コーナー。
 そこで私、セシルはややうつむいた姿勢のままとある雑誌に目を通していた。

「ふ~ん」

 今私が手に取っているのは、芸能人とやらのスキャンダルなどが載っている女性誌でも、旅のお供にと様々なスポットが掲載されたガイドブックなどでもなく、毎月発刊されているアニメ雑誌だった。

 私は以前からレンちゃんにこの国の最新のゲームやアニメの文化についてよく聞いていて、これも今回こちらの世界に来た目的の一つだったりする。

 本来だったらこのような雑誌をこんな場所で私のような女が手に取っているのは、多少目を引くことなのかもしれない。それでも新刊の誘惑には私の好奇心は抗えず、もちろんこの後購入するつもりだが、その前にこうして軽く目を通していた。
 あんまり人がいたら控えるけど今の店内には高校生くらいの男の子が一人だけだから、構いやしないだろう。店員さんも暇そうだし。

「なるほどぉ……」

 ふと自然と納得の言葉を、自分にしか聞こえないくらい小さく呟く。きっと自分の中の情報と実際に見てみての情報の統合が脳内で行われたためだ。

 他の世界でもこういう文化はあるし、この雑誌の他にも私は別のゲーム誌、アニメ誌、インターネットなどでここに来てから少しずつ勉強してはいる。しかしこの国のそれのその奥深さたるや、目を見張るばかりだ。
 なぜこれをと首をかしげたくなるような様々なジャンルのアニメに、みんなこれ理解しているのかと言いたくなるほど複雑そうなシステムのゲームだったり、とにかく自分は適応は早い方だと自覚しているがそれでもなかなか追いつけない。

 また私も結構絵を描いたりはするほうで、向こうの世界で描いたイラストをレンちゃんに見てもらったら、上手いけど少し古臭い絵と言われたことを思い出す。その時はどうもいまいちピンとこなかったが、今こうして現在の絵柄を見ているとその言葉が染みてくる。
 こういうことだったのかと、モヤモヤとした感触が一気に晴れていくようだ。デジタルで絵を描く道具もあるようだし、そうして描いた自分の絵をどんどんと発表していく場所もインターネットにはあると聞いた。

 今回の滞在期間ではさすがに厳しいが……向こうに戻ってからもいろいろ参考にしながらゆっくり勉強していこう。


「うん……そろそろか」

 夢中になっているうちに思ってより時間が過ぎてしまっていた。元々アイスでも食べたくなって散歩ついでに買いに来たわけだし、レンちゃんから漫画雑誌もついでに買ってきてほしいと頼まれていることもある。そろそろ立ち読みは切り上げて、本来の目的に移ることにした。あんまり待たせちゃ怒られちゃう。
 そうして読んでいた雑誌をカゴに入れ、歩き出そうとした時だった。

「あれ?」

 例の男の子が、私の後ろを通りすぎその場から立ち去ろうとした。既に手にはビニール袋を持っていたので、買い物は終えた後なのだろう。
 しかしそれだけでは私は何も思わない。目に留まったのは、彼がすぐそばの棚の上にスマートフォンを置き忘れていたからだ。

 その直前少し携帯をいじりながら財布を出し入れしていたようだし、特に意図はなくその際に手を空けるためちょっと置いていったらそのまま忘れてしまった、といった感じであった。
 私は彼が自分で気づくか一瞬待った後、そのまま店を出て行ってしまったので、買い物はいったん後回し。
 カゴを置いて、そのスマートフォンを持ち彼を追いかけることにした。

「おや……」

 そしてそれを手に取った私だったが、またもや一つのことに気づき、その手を止めた。
 その画面はいわゆるスリープの状態ではなく、画面がついたままになっていた。今はボタン一つでその状態にできることも、いろいろなロックの機能もあり、わざわざそうしておく必要もない事は知っている。
 この状態でいるのも、単純に彼が消さずにここに忘れてしまったというだけのことは容易に予測できる。

「……」

 私は画面がついていることを知ったその瞬間は、何も見ずにそのまま彼に渡そうとそう考えた。実際人の携帯の画面などあまり見るのはよくないことだ。
 しかしその画面に記された内容を意図せず視認した時、私の心にある思いが芽生えた。

 その画面は電子書籍の小説のページを映し出していた。もしその小説が単なる一般的なものなどのようなら、やはりすぐに目を離し、何事もなかったかのように私は彼を追いかけていたに違いない。しかしそうではなかった。
 そのページのあらすじに書かれた内容、それはその作品が「男の子が女の子になる」話であることを示唆するものであった。

 確かにこういったジャンルがあるってことは、どこかで見たと思う。しかし、実際にこういうものを愛読している少年という存在には、ここに来てから当然会ったことはない。
 もしかするとあの少年が私の求めていた人材なのではないかと、そう考えたのだ。

「よしっ……」

 すぐに心の中で決断を下した私は、とある決意を胸に抱き、早足で既に店の外へと出た彼を追いかけた。
 自動ドアを通ると、まだ彼の姿が近くにあった。だがここから声を上げて伝えようにも、相当な大声が必要であったので、声量を必要としない距離にまで早歩きで近づいていく。

 夕暮れの涼しい風を感じ、歩いていく中考える。もしかするとあれは単にああいう話が好きというだけで、早合点なのではないかと、だが私の思うとおりである可能性も十分にある。ここでせっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。
 思い立ったらやってみる……後悔がないように私はいつもそうしてきたのだから。

「ねえ、君!」
「……はい?」
「携帯……忘れていったでしょ」

 ついに彼に声をかける。近くで見る彼は私と同じか少し低いくらい、男子としては平均的な身長に、おとなしそうな雰囲気、ごく普通の顔立ちの少年だった。
 そして当初の目的である携帯を手渡しで返し、本命の続く言葉を投げかける。

「あっ、すみません! ありがとうございました!」
「……ちょっとまって!」
「えっ!? 何か?」
「……」

 さすがにいきなりこんなことを言うのは、私といえどやや躊躇してしまう。本当ならじっくりと話していくべきなんだろうし、いつもの私ならそうしていただろうけど、今回はやや急なことすぎて勇み足となってしまった感はある。
 まあここまできたらいくしかない、ストレートに聞いちゃえ! 

「……君、女の子の身体に……一度なってみるつもりはない?」
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