43 / 57
第2章
第43話 襲撃者の正体
しおりを挟む
その承諾を受け、彼女が例のステッキを構える。先ほどは振り下ろしてきた、おそらく今度は突いてくるつもりだろう。しかしその構えはやはり素人のものであることは見て取れた。
また先ほどの感触からして、どうやらあれにはどんなやり方でも非殺傷となるように仕掛けがあるらしい。
おそらくはセシルさんの差し金だ。それは彼女も理解していると思われる。
「やっ────!」
刹那、彼女がその艶やかな髪をなびかせながら前進した。それは四、五メートルほどの距離を一瞬で詰める、人の限界値の瞬発力、跳躍力といえるもの。
それを僕は思考を加速し、風の流れでさえ感じられるほど集中した中で、彼女の目線、腕の動き、握り方、それらを観察しながら攻撃の行方を予想する。
そして、その場から足を動かすこともなく……ゆっくりと右手に持つ杖を突き出した。
「……!?」
その突き出された杖は、ちょうど彼女のステッキとピンポイントでぶつかり合った。いや……僕がぶつけてやった。
互いに先が丸まった形状をしているのに、まるで示し合わせたかのような直撃に彼女は目を白黒させ驚きの声を小さく上げる。
「くうっ……」
「ほいっと」
「え? わっ、わわっ!?」
そして着地した彼女が体勢を立て直すために後ろへ跳ぼうとしたその時、僕は杖を突き出したままくるりと宙で円を描くように回し、ある魔術を発動する。
すぐにそれは効果を発揮し、跳び上がった彼女の身体は地に向かうことなく、宙に浮いたままとなり、さらにはその両手は光の輪にて手錠のように後ろ手で縛られた。
「はい、これで終わり。どう?」
「……完敗です。流石ですね」
空中に固定したのは手と足だけであるので、その顔を上げながら彼女は自らの敗北を宣言した。思ったよりもあっさりと認めたな。
だけどそれよりも……こうして間近で見る彼女の可愛らしさに、それが自分たちが作り出した道具によるものであると知っているというのに、少しだけ……見とれてしまっていた。
「……あの」
「ああ、はい。ごめんごめん。今ほどくから……」
彼女から声をかけられて、我に返った僕は改めて杖を構え直す。もう決着はついたし、後はこの子と一緒にセシルさんに会いに行くだけだ。
そうして彼女に杖を構えた僕は、その拘束を解除する……その直前、あることを試みた。
それは心を読む魔術の一つで、相手が何を考えているかなど表面的なことではなく、こちらを深層意識的にどう思っているかを見るもの。魂の状態を見るものといってもいい。
話している感じ大丈夫ではあると思うが、もしかしたらまだ怯えているなんてことがあったら、ちょっと悪いような気がしてそれを確かめたわけだ。
結果としてそんなことはなかった……が
「……!? ええ?」
僕はその中である事実を知り、改めて彼女の顔を覗き込んだ。魂の状態を見るということは、とある要素を自然と確認することとなる。
輝きを宿した瞳をこちらに向け、暗がりの中、向こうもこちらの顔を見ようとしているのがわかる。
だがそんなことよりも、驚愕すべきこと。いや使われた道具やそれがセシルさんによってもたらされたという経緯、そして僕自身のことを考えればそれは簡単に予想できたことなのかもしれない。
だけどその時僕の頭からはそんな考えはすっぽりと抜け落ちており、また瞬時に落ち着けるだけの余裕もなかった。
そして、口を開き事実の確認をするために僕はその疑問を投げかけた。
「君もしかして……男の子?」
「……えへへ」
その言葉を聞き、彼女……いや彼は、一瞬間を置いてから、ばれてしまったか~とでも言いたそうに、誤魔化すような笑顔をこちらに向けてきた。
否定しないということは、やはりそれは間違っていないということか……
確かに僕も同じ様なものだけど、なにやってんのかセシルさんは……
「あ~やってるね」
「あっ! セシルさん」
驚きの中、僕がやや固まっていたところに聞きなれた声を聴き、屋上から下を見下ろすと買ったものが入っているであろう袋を持ったセシルさんが見えた。
そしてその直後、僕がそうしたようにふわりと跳躍をしてこの屋上まで上がってきた。
「おやおや……レンちゃん、女の子にひどいことしちゃダメだよ~」
「そんなんじゃないですよ。ちょっと一勝負しただけです。てか……この子男でしょ」
「ん~早速ばれちゃってる?」
「みたいで~す」
拘束を解かれた彼はセシルさんの方へと歩いていきながら、案の定ここまで予定通りであったかように、軽い口調で言葉を交わす。
どうせそんなことだろうと思ってたよ……
また先ほどの感触からして、どうやらあれにはどんなやり方でも非殺傷となるように仕掛けがあるらしい。
おそらくはセシルさんの差し金だ。それは彼女も理解していると思われる。
「やっ────!」
刹那、彼女がその艶やかな髪をなびかせながら前進した。それは四、五メートルほどの距離を一瞬で詰める、人の限界値の瞬発力、跳躍力といえるもの。
それを僕は思考を加速し、風の流れでさえ感じられるほど集中した中で、彼女の目線、腕の動き、握り方、それらを観察しながら攻撃の行方を予想する。
そして、その場から足を動かすこともなく……ゆっくりと右手に持つ杖を突き出した。
「……!?」
その突き出された杖は、ちょうど彼女のステッキとピンポイントでぶつかり合った。いや……僕がぶつけてやった。
互いに先が丸まった形状をしているのに、まるで示し合わせたかのような直撃に彼女は目を白黒させ驚きの声を小さく上げる。
「くうっ……」
「ほいっと」
「え? わっ、わわっ!?」
そして着地した彼女が体勢を立て直すために後ろへ跳ぼうとしたその時、僕は杖を突き出したままくるりと宙で円を描くように回し、ある魔術を発動する。
すぐにそれは効果を発揮し、跳び上がった彼女の身体は地に向かうことなく、宙に浮いたままとなり、さらにはその両手は光の輪にて手錠のように後ろ手で縛られた。
「はい、これで終わり。どう?」
「……完敗です。流石ですね」
空中に固定したのは手と足だけであるので、その顔を上げながら彼女は自らの敗北を宣言した。思ったよりもあっさりと認めたな。
だけどそれよりも……こうして間近で見る彼女の可愛らしさに、それが自分たちが作り出した道具によるものであると知っているというのに、少しだけ……見とれてしまっていた。
「……あの」
「ああ、はい。ごめんごめん。今ほどくから……」
彼女から声をかけられて、我に返った僕は改めて杖を構え直す。もう決着はついたし、後はこの子と一緒にセシルさんに会いに行くだけだ。
そうして彼女に杖を構えた僕は、その拘束を解除する……その直前、あることを試みた。
それは心を読む魔術の一つで、相手が何を考えているかなど表面的なことではなく、こちらを深層意識的にどう思っているかを見るもの。魂の状態を見るものといってもいい。
話している感じ大丈夫ではあると思うが、もしかしたらまだ怯えているなんてことがあったら、ちょっと悪いような気がしてそれを確かめたわけだ。
結果としてそんなことはなかった……が
「……!? ええ?」
僕はその中である事実を知り、改めて彼女の顔を覗き込んだ。魂の状態を見るということは、とある要素を自然と確認することとなる。
輝きを宿した瞳をこちらに向け、暗がりの中、向こうもこちらの顔を見ようとしているのがわかる。
だがそんなことよりも、驚愕すべきこと。いや使われた道具やそれがセシルさんによってもたらされたという経緯、そして僕自身のことを考えればそれは簡単に予想できたことなのかもしれない。
だけどその時僕の頭からはそんな考えはすっぽりと抜け落ちており、また瞬時に落ち着けるだけの余裕もなかった。
そして、口を開き事実の確認をするために僕はその疑問を投げかけた。
「君もしかして……男の子?」
「……えへへ」
その言葉を聞き、彼女……いや彼は、一瞬間を置いてから、ばれてしまったか~とでも言いたそうに、誤魔化すような笑顔をこちらに向けてきた。
否定しないということは、やはりそれは間違っていないということか……
確かに僕も同じ様なものだけど、なにやってんのかセシルさんは……
「あ~やってるね」
「あっ! セシルさん」
驚きの中、僕がやや固まっていたところに聞きなれた声を聴き、屋上から下を見下ろすと買ったものが入っているであろう袋を持ったセシルさんが見えた。
そしてその直後、僕がそうしたようにふわりと跳躍をしてこの屋上まで上がってきた。
「おやおや……レンちゃん、女の子にひどいことしちゃダメだよ~」
「そんなんじゃないですよ。ちょっと一勝負しただけです。てか……この子男でしょ」
「ん~早速ばれちゃってる?」
「みたいで~す」
拘束を解かれた彼はセシルさんの方へと歩いていきながら、案の定ここまで予定通りであったかように、軽い口調で言葉を交わす。
どうせそんなことだろうと思ってたよ……
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!
hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。
ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。
魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。
ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる