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第2章

第42話 対話と手合わせ

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「……ねえ、君」
「!?」

 見つめあったままの硬直が数秒ほど続き、僕はそれを破ろうとこちらから声をかけた。
 それに対し彼女はやや予想外であったかのように、ピクリと身体を震わせて、それから再び警戒するように僕の次の言葉を待った。

「私は一応聞いてるけど……君がセシルさんのいっていた魔法少女でいいんだよね?」

 とりあえず僕が普段、他人と接しているときの口調で単刀直入に問いかける。
 もう聞くまでもないことかもしれないが念のため、彼女がその僕に会わせたいといっていた、その人なのかを。

「……」

 僕の問に対して彼女は静かにこくりとうなずいた。やはりといったところか。
 もうこうして話が通じている以上、正直言ってこちらとしてはこの緊張を解き、普通に話したいところだけど……なんだか向こうはそんな感じじゃないんだよなあ。

「あの~なんでさっきいきなり襲ってきたの」
「……それは、ちょっとしたイタズラみたいなものです。ここにいるから先生がやってもいいって……すいませんでした」

 今度は僕の返答に、その風貌に違わないアニメ的な印象を与える透き通った高く美しい声で返答をしてくれた。
 そしてイタズラ……であることは僕もわかっていた。先ほど受け止めたとき、あの攻撃からは威力もそうだが何より敵意を感じなかった。例えるならば……ピコピコハンマーで後ろから軽く叩くようなもの。

 また彼女の言う先生というのはセシルさんのことであろう。まあ……向こうは申し訳なさそうだけど、このくらいのことは普段からそんなに珍しくないことだから別に何も思わない。
 元はといえばそちらは悪くないし、むしろややたるんでいたところにいい刺激になった気もするくらいだから、それについてはもういい。
 なので……僕は次の質問をゆっくりと切り出した。

「もうそれはいいよ。あとその格好だけど、やっぱあれでしょ? 身体覆うやつ?」
「……! そうです」
「そう、やっぱりね」

 続く質問にもあっさりと答える。こうして言葉を交わすことで、向こうもこちらの敵意のなさ……というより怒っていないかどうかだろうか、それを感じ取ってくれたのだろう。警戒を解き、少し表情が柔らかくなったのが分かった。
 また彼女の現実にありえざる風貌、それは僕たちが作り上げたアイテムの一つ、変身スライムによるものであることを予想はしてはいたが、それが正解だったということを確認できた。

 それは簡単に言ってしまえば、身にまとい思い通りの人物に変身できるというもの。
 以前から僕たちは……個人的な趣味からこれの開発、改良を行っており、最初は服や装飾品程度のものになるだったが、幻術や空間干渉を始めとした他の高度な魔術との併用で骨格、体の中身までもを思うがままに再現することができるようになった。

 だが服装や髪といった質感、さらには声や匂いといったものまで完璧となったそれのクリアできない問題として、顔を作るというということが上手くいかなかった。
 実際に身にまとい動いてみると、どうしても表情が固いというか、作り物っぽさが抜けなかったのだ。昔から顔を作るというのは難しいとわかっていたが、ここまで苦戦するものとは思っていなかった。


 そして……セシルさんがデータを取るために誰かほかの人にもこれを使ってほしいと、そんなことを以前呟いていたことを先ほど思い出した。
 このスライム自体に変身した経験を蓄積させ、改良に用いる。それが機能向上に最も近道であることには違いない。しかし僕たちだけではそれも時間がかかることはまた事実。
 これの本質はコピーではなく理想の体現だ。データの蓄積を効率的に行うには僕たちがやったよりも精巧で自然な変身、それを可能とするイメージ力が必須となる。

 なりたい人物、自分がなっている姿を思い描ける力……それが複雑で美しいものならなおよし。二次元美少女なんて最高のサンプルに違いない。
 そういう方向の力ならば、僕たちよりも普段から様々なエンターテインメントに囲まれているこちらの人々の方が向いているのは自明の理といえる。この違和感のなさも納得だ。

 目の前にいる彼女はその為にセシルさんからそれを借り、使っているのだろう。本来僕たち専用で魔力を通して使うものだが、その辺は工夫すれば何とでもできる。
 いつ会ったのかは知らないけど……ちゃっかりしてるなあ~

「じゃあ、もういいでしょ。一緒にセシルさん……先生のところへ行こ。この辺にいるんでしょ」
「……いや、待ってください」
「へ?」
「もう一度だけ……手合わせしてもらえませんか?」
「……」

 僕の提案を遮り彼女が発した言葉、それにそれを聞いた瞬間は驚きを隠せなかったが、数秒考えその心境を理解した。
 先ほどの不意打ち、僕が異変を感じてから振り向くまでの間に既に背後をとっていたあの素早さはやはり常人のものではない。おそらくセシルさんが簡単な肉体強化をかけてあげてあると思われる。
 向こうの世界でも割と一般的な戦闘技術として使われているこれならば、こちらの世界の人でも使用できる。

 そしてそのような力を手にしてみたら試したくなるというのも、また人の心理だ。
 だが丸腰でさえ正直問題ないという自信はあるが、さらに杖も取り出している僕がこの向かい合った状態で彼女に負けることはさすがにない。
 面倒だったら断ってもよかったけど……自分にとってそれはそれで体験にもなると思い、相手をしてあげることにした。

「いいよ。さっきは手加減してたみたいだし、今度は本気でどうぞ」
「……! じゃあ、いきます……」
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