上 下
39 / 57
第2章

第39話 欲しかったもの

しおりを挟む
「わあ~すご~い。色々ある~」
「気持ちは察せますけど、あんまりはしゃがないでくださいよ」

 少々思わぬ出来事があった墓参りから一夜明け、翌日僕たちが訪れた場所。それはセシルさんがこちらにくる大きな目的の一つだった場所、家電量販店。

 僕たちの家には向こうの世界には元々ない、この世界やその他文明の発達している世界でセシルさんが買い込んできた冷蔵庫や洗濯機といった便利な家電製品が存在する。

 そして魔力を電気に変換してコンセントから利用する技術はあるので今も普通に使用している。魔術だけでも再現できなくはないが、単純にこちらの方が基本的にはずっと効率がいいから。
 だがいくら大事に扱っているといっても、永久に壊れない製品などない。現に今使っているものは結構ガタがきていて、補強し修理を繰り返しているとはいえそろそろ新しいのが欲しいのは確かだ。

 それに何より……かなりの型落ち品というのが問題だった。買ったのは相当前だというし、僕たちとはいえ膨大な顧客のデータから快適さを突き詰めてきた、この世界の家電製品を一から作れというのはとてもじゃないが厳しい。
 なので、じゃあもう買っちゃおうと……そういうわけでここにきた。

「まずは何からですか?」
「えっ? ああ……じゃあ、初めに冷蔵庫見てみよう」

 そういって僕は目移りを始めたセシルさんの手を引き、途中家に寄り母さんからもらったチラシを持って、手始めにと冷蔵庫のコーナーへと歩を進めた。


「ほ~綺麗だね」
「それはそうでしょ。えっと……僕たち二人だけですし、収納が足りないなら中の空間はある程度いじればいいから、やっぱり小さいのでいいですよね」
「そうだね、どれがいいのかな?」

 照明に照らされずらりと並んだ冷蔵庫。爽快な光景だ。いかにも現代的な感じ。
 しかしこの中でどれがいいかと改めて考えていくと結構迷うぞ。さてどうしたもんか……

「レンちゃん、これ良くない? 左右どっちからでも開けられるんだってよ!」
「ん~面白いけど、その機能そんなに家で必要ですかね? ほら、これとか棚を取り外せるみたいですよ、こっちのが良くないですか?」
「ああそれいいね! どうしようかな~」

 セシルさんもここに来る前にネットで調べてきたというのに、どうにも迷っているようだ。それも仕方ないといえるだろう。僕はほんの七年ぶりのことで、家電の進歩もそこまでの驚きとなることはない。しかし数十年ぶりとなれば話は別。
 ここ最近は魔術主体の世界ばかり移動していたようだし、補強により基本性能はともかく見た目にはかなり古臭い今使っている冷蔵庫を思えば当然だ。
 
「よし……じゃあこれにしよう!」
「いいですね。大きさも丁度よさそうです」

 少しばかりの紆余曲折こそあったが冷蔵庫は決まった。サイズ、機能ともにベストな選択ができたと思う。

「店員さん呼ぶ前に、他のやつも目星付けときますか?」
「そうしよっか」


「ねえレンちゃん、あれ凄くない? あの丸いやつひとりでに動いて掃除してくれるんだってよ!」
「ああ……あれは面白いですよね」

 冷蔵庫に続いて洗濯機などを見て回り、続いてきたのは掃除機のコーナー。僕が普通の掃除機を手にとって見ている中で、セシルさんが興味を示し始めたのはゴミを自動的に掃除して回るロボット掃除機だった。
 確かに僕もこれはちょっとだけ気になってはいたが……

「だよね~普通のと合わせて、一個買ってこうよ!」
「いいですよ。でもこれセシルさんの部屋みたいにあんまり物が散乱してると効果ないんですよね~」
「うっ……」

 僕の一言にちょっと言葉をつまらせて顔を背ける。
 捨てなきゃいけないものの分別ができないとか、そういう片付けることが全くできないわけじゃないんだけど、それ以上に散らかすのが上手なんだよな。
 一つのことに熱中しすぎることがあるっていうか……

 そして常日頃片付けしなくちゃな~と思いながらも、始めるのはかなりギリギリになってからのタイプなのがまた世話が焼ける要因だ。

「ちゃんと片付けるからさ」
「はいはい、いいですよ。そんなに気に入りましたか」
「このフォルムとちょっとぎこちない動きがいいよね。ただあんまり愛着がわくってのも少し考えちゃうところもあるけど……」
「ふ~ん……」

 その気持ちはなんとなく理解できる。
 僕たちの技術ならば擬似的な人格を物に付与することだって、そんなに困難なことではない。
 しかしそういうことしちゃうと普段使うにも躊躇しちゃうだろうし、捨てるときもなかなか感情にくるものがある。

 もちろん僕たちは道具を大切に扱うことは心がけている、だがそれとこれとは違う。物は物として扱うべきであると、セシルさんはそういう考え方を多少なりとも持っている。魂の在処というものを理解しているゆえの考えだろう。
 だからこそ、このようなものに思うところがあるのかもしれないけど……

「まっ、いいでしょ。買っていこう!」

 そんなことは些細なこととばかりに、あっさりと購入は決定された。
 僕もちょっと欲しかったし、こういうのをヒントにして何かしら研究に役立てることができるかもしれないし、いいんだけどね。


 その後は電気スタンドなど小さめの家電を見て回り、やはり多少は迷いながらもとりあえず購入するものを決定することはできた。
 買い物メモを見た限り、後は買うようなものはないけど……

「ん? どうかしましたか?」
「いや……ちょっとね」
「もう店員さん呼んじゃいますよ? 何か他に買いたいものとか?」
「ん……ゲーム少し買いたいなって思ってね」

 ゲームか……ふむ、それは賛成だ。たくさん新しいのも出てるだろうし、だけど……

「今のゲームってたくさんありますからね。やっぱりそういった専門のお店に行った方がいいと思いますよ」
「うん、そうだよね」
「それにやっぱりちゃんと下調べをした方がいいですね。選んだのが変なのだったらいやですし」
「なるほど……」

 今のゲームは携帯、据え置き問わずオンラインが主流で、僕のころもそういった風潮はあったが現在はより強くなっているらしい。
 本体とソフト、モニターを買っていけば向こうの世界で据え置きのゲームはできるが、そういった通信がメインのゲームではやはり意味がない。

 そうなると全てオフラインでプレイでき、なおかつボリュームが多いゲームが理想だと言える。
 だが僕はここ最近のゲームのことについてよく知らないので、やっぱりもっとよく調べてきて、品揃えのいい店で買うのがベストな選択だろう。

 本当はネットの評判に加えて、ゲーマーの人の意見とかも聞きたいが、父さんはあんまりゲームやらないからなあ……

「それじゃ、もういいですね」
「いいよ~」

 それからすぐに店員さんを呼び、僕たちは会計へと移った。

「これまとめ買いするんで値引きしてくれませんか?」
「そうですね、これくらいでどうですか?」
「ん~これから他の店にも行こうと思ってるんですけど、もう少し頑張ってもらえたらこの店で全部買っちゃうつもりなんですが……」
「むむ……仕方ないですね。じゃあこれで!」
「ありがとうございます!」

 そんな値引き交渉も済ませて、ようやく支払い。
 結構値引いてもらったみたいだけど、やっぱりこういうのは得意なのだろうか。

「こちらにお届けの住所を記入してください」
「はいはい、えっと……」
「あれ? それうちの住所じゃないですか」
「ちゃんとお母さんには許可もらってるよ。ちょうど空いてる部屋があるから帰る日まで置かしてもらっていいって」
「うちにそんな部屋……あっ」

 ああ……空いてる部屋あるわ。ピッタリの部屋が。

「はい、これでお願いします」
「了解しました」


「ふ~終わった、終わった! くたびれた~」
「そうですね。でも大事なことですし」
「まあね~」

 これで家電の購入は完了だ。ここに来てから結構時間使ったなあ……

「それにこういうことを終えた後って、なんかすっきりした気持ちになれるよね」
「一仕事終えた達成感って感じですか」
「そうそう、いい買い物だった!」

 そう言ってお互いに顔を見合わせ笑い合う。
 そんなこんなで一つ大きな目的を終えた僕たちは、なんとなく軽やかな足取りで帰路へとついた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

サラリーマン符術士~試験課の慌ただしい日々~

八百十三
ファンタジー
異世界から侵攻してくる『魔物』の脅威に脅かされる日本。 既存の兵器が通用せず、魔法を行使することも出来ない地球人たちは、超自然の力を紙に記して行使する『護符』を生み出し対抗していた。 効果の高い護符や汎用性の高い護符はすぐさま量産されて世に出回るため、より売れる護符を開発しようと護符をデザインする『工房』が国内に乱立。 それぞれの工房はある時は互いに協力し、ある時は相手を出し抜きながら、工房存続とシェア獲得のためにしのぎを削っていた。 そんな日々が続く2019年4月。東京都練馬区の小さな工房『護符工房アルテスタ』に、一人の新入社員が入社してくる―― ●コンテスト・小説大賞選考結果記録 HJ小説大賞2020後期 一次選考通過 第12回ネット小説大賞 一次選考通過 ※カクヨム様、ノベルアップ+様、小説家になろう様、エブリスタ様にも並行して投稿しています。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889891122 https://novelup.plus/story/341116373 https://ncode.syosetu.com/n3299gc/ https://estar.jp/novels/25628437

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...