上 下
8 / 57
第1章

第8話 魔女のお仕事

しおりを挟む
 この世界に来てから一ヶ月ほど経った。魔術は基礎的なものは大体習得し、応用的なものを教えてもらっている。
 セシルさんは想像以上の飲み込みの速さだと驚いていた、元の体の持ち主に感謝だね。
 
 また、この世界の法律や歴史、一般常識などの他に科学の知識なども教えてもらっている。セシルさんの教え方が上手なおかげか、自分が興味を持てるせいだろうか、学校で習っていたときよりすんなり覚えることができた。
 やればやるほど上達する魔術もそうだが、勉強についても学ぶことがこれほど楽しいと思ったことはなかっただろう。正直言って学校に通っていたときよりも遥かに勉強している。
 
 それだけではない。この家には多くの本、魔術についての本や小説なんかはもちろん、少し古い絵柄だったりするが漫画すらたくさんある。何より驚いたのは、かなりレトロなやつとはいえ携帯ゲームもあったことだ。
 聞いてみると他の世界から持ち込んだものらしい。洗濯機や冷蔵庫もそんな感じでちゃんとあるので、とても快適な生活だ。
 
 もちろん魔術師の助手として研究の手伝いなどもして、毎日が刺激ある退屈しない毎日を送っていた。

 そんなある日のこと……


「あれ何ですか?」

 夕飯の食材のお使いから帰ってくると部屋の隅に見慣れない物が合った。大きな箱にたくさんの尖ったものが刺さっている
 あれは……剣だろうか? 見た感じ百本近くありそうだ。

「ん、あれ? さっきこの国の王宮の人が来て兵士が使う剣の魔力付与を依頼されたんだ。まあ、年一くらいであることだよ」
「国からの直々の依頼ってことですか。さすがですね。でも結構多いですが……」
「そうだね、確かに多いかも。今年は新人さんが多いって聞いたから……そうだ、レンちゃんも手伝ってよ。二人でやれば早く終わるし、一番シンプルなやり方だからレンちゃんなら私と遜色ないものができるよ。大丈夫、できるできる!」
「え~ホントですか?」
 

 そうして夕食を終えて、いつもの研究室の一つに連れられた僕はやり方を教えてもらうことになったわけだが……本物の剣に触るなんて初めてだから、やっぱり緊張するな。

「最初は柄から……均等になるように……そうそう」

 魔力付与に使うという手袋型の道具を着けて、言われるがまま作業を行う。魔力を帯びた場所は淡い光を放ち、なんとも神秘的な雰囲気だ。
 それにやっていくうちにここはもう十分か、ここはまだ足りていないか、といったことがなんとなく分かってきた。これもこの身体の才能のおかげなのだろうか。

「よし、オッケー。すごくいいと思うよ」
「ありがとうございます」

 なんとか一本目ができた。まじまじと見つめてみると、やはり実物の剣は迫力が違うな。

「この調子でお願いね。終わった剣は鞘に収めてあの箱に、上手くいかなかったらこの布で拭けばやり直せるから。あと、手を切らないようにね」

 そう言ってセシルさんは剣のいくらかを僕に渡し自室へと戻っていった。



「ふう……」

 いったん椅子から立った僕は大きく背伸びをして、身体のこりをほぐすように背をそらす。
 なかなか神経を使う作業だ。やり直しができるといっても結構疲れるな。

「さぁて、続き続き」

 再び、椅子へと座り作業を再開した。残りを見ると半分ほどだ。
 要領もわかってきたし……頑張るぞっ!

 

「よし……これで最後だ」

 最後の一本を終えた僕は、首だけを後ろに向けて時計を見る。始めてから実に三時間程経っていた。
 それほど長く感じなかったのはやはり作業に集中していたからだろう。実際に楽しかったし。

「しかし、この剣やっぱり本物なんだな……」

 机に乗っていた最後の剣を右手に持ち、その重さを再確認する。始める前に想像していたよりは重い、しかし手に吸い付くような握り心地があり、あまり力のない今の僕でも問題なく振り回せそうなのは魔力付与の効果だろう。
 
「むむ……よっと」

 本物の剣なんてものを持ったせいか、男心がくすぐられた僕はちょっと試してみるつもりで剣を両手で持ち軽く構えてみようとした。
 したのだが……

「あ、やばいっ!」

 カチャンという音が静かな部屋に響きわたる。
 持ち上げた剣の先端が机の上の小さな棚に置いてあったビンに当たり、中の液体をこぼしてしまったのだ。

「わわわ……」

 すぐに元に戻したのでにこぼれたのはほんの少しだけ、見た感じでは分からない量で済んだ。
 だけど……肝心の剣についてしまった。

 きっとこのまま黙っていても誤魔化せるくらいの量。それに打ち明けた場合、もしかしたら……怒られるかもしれない。
 どうするべきか……

 後になって思えばなんて愚かだったんだと悔やんでしまいたくなるが、このとき僕は打ち明けるべきか黙っているかとにかく本気で悩んでいた。


「そろそろ終わったかな~」
「あっ!」

 自分の分を終えたのであろうセシルさんがドアをノックして入ってきた。その手には二つのカップが乗ったお盆を持っている。
 やはり……隠し事はよくないだろう。僕は覚悟を決めることにした。

「ん? どうかした?」
「あの……ごめんなさい! えっと……そこの棚の上にあった薬、僕がこぼしてしまいました……」
「…………」

 一瞬の間、故意ではないとはいえ自分が悪いのだから叱られることを考えた。しかし……

「いや別にいいよ。完成品を置きっぱなしにしていた私も悪かったんだし」
「え、でも……」
「いやいや、ちゃんと正直に言ってくれたからね。恐らく黙っていても隠し通せただろうに、わざわざ言ってくれたということは私を信用してくれているということ……でしょ?」
「セシルさん……」
「何だか子どもに言ってるみたいになっちゃったね。まあ危ないものはちゃんと別に保管してるとはいえ、今後も何かあったら報告してね。とりあえずお疲れ様」

 セシルさんはそう言って優しい笑みとともに温かいココアの入ったカップを僕に差し出した。
 甘いいい香りが落ち着いた気分にしてくれる。

「おいしい……」
「よかった。一仕事終えて、疲れたときは甘いものが一番。こんな少し遅い時間に飲むってのも、またおしいんだよね」
「ですね……ねえ、セシルさん。もしも……もしもですよ、僕が黙っていて後から気づいてたら、どうしたんですか?」
「そうだねえ、怒ったりはしないけど、ちょっといじわるしちゃうかも」
「いじわるって……どんな」
「それは~秘密!」

 なんだそりゃあ……

「え~と、さっきこぼして少しついちゃったっていうのはこの剣かな」
「ああはい、そうですが……」
「そうか……じゃあこれは当たりだね」

 どういうことだろう? あの薬品に何か特別な作用でもあるだろうか。

「さてと、飲み終えたら剣を何本か持って外へ来てくれる?」
「え? 外へですか? もう夜ですけど……」
「試し斬りだよ、やってみたいんでしょ?」
「あ……はい!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...