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第1章
第6話 念願の魔術
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「おはようございま~す」
「ああ、おはよっ。調子よさそうだね」
「はい」
堂々とドアを開けて、当たり前のように挨拶を交わす。僕はこの世界に来て二回目の朝を迎えた。
もう昨日のように戸惑ったりはしない。目覚めはとてもいいものだった。
もう女の子の身体にも幾分か慣れ、昨晩はお風呂も一人で入ることができた。しかし……じっくりと見る自分の身体や顔、起きた時やふとした動作の際に感じるほんのりとした香り、いずれにも僕は心が動いてしまう。
違和感こそ薄れてきたが、飽きてきたということはない。少し前の自分を考えたら別に変なことではないだろう。やっぱりこの身体はいいと、時が経っていくにつれその思いが強くなる。
「じゃあ、少し手伝ってくれる?」
「はいはい、了解です」
そうして僕自身も少し作るのを手伝った朝食を食べ終え、食後のお茶を飲みながら語り合う。
「ところで……今日は何するんですか? まさかまた掃除じゃないですよね……」
「ん……いや、ちゃんと今日から魔術を教えてあげるよ」
「本当ですか!」
「やっぱ楽しみにしてたよね~すごく嬉しそう」
「あ……えへへ」
◆◆◆ ◆◆◆
「ここらでいいかな。人影もないしね」
僕たちは今セシルさんの家から数キロほど離れた草原の外れにいる。どうやらあまり人目につかないところがいいらしい。
当然車などはないからここまでは一緒に馬に乗せてもらってきたわけだが……その乗り心地は思ったより良く、草原を駆ける爽快感は今まで感じたことがないものだった。
「さてさて、じゃあこれをプレゼントするよ」
「これは……」
馬から降りた僕が周りをウロウロしていると、セシルさんは何やら片手で持てるくらいの大きさの杖のようなものを渡してきた。
杖をプレゼントってことは……これってつまりあれだよね!
「これはねえ、簡単に言ってしまえば魔術を使うための道具だ。これ一本あればいろんなことができる、万能なやつだよ。別に杖である必要はないけれど、割と一般的な形だし、レンちゃんが一番イメージしやすいと思ってね……聞いてる?」
「あっ……はい」
正直僕は興奮していた。
きっと男女問わず誰もが魔法を使ってみたいと、一度は思ってことがあるだろう。もちろん僕も例外ではない。そんな子どもの頃からの夢が叶うようなものだ、平常心でいることの方が難しいだろう。
「無理もないかな、とりあえず一緒にやってみようか。簡単だから肩の力を抜いて……そうそう」
そう言ってセシルさんは後ろに立ち、杖を持つ僕の右手を優しく持って前へと突き出した。
「おお……おおお」
ポウっと赤い光が杖の先から出たと思った瞬間、小さな火の玉のようなものが一直線に飛び小岩に命中した。
思っていたよりもずいぶんとあっさりできた、というのがまず第一の印象だった。
「じゃ、もう一回。今度は感覚をちゃんと覚えてね」
「はい」
言われるがままに続けてもう一発、同じような光が杖の先から放たれた。
その際杖に何か力のようなものを帯び、それが流れ先端に集まったような、そんなイメージが浮かんだ。
「上手上手、大体これで分かったかな。様々な理論があるけど魔力を集中させるイメージを持つこと、これが基本だからそのイメージを忘れずにね。これができればこの世界にあるいろんな道具が使えるようになるから」
「そうなんですか……でも道具ってやっぱりないとダメなんですかね。さっきのを指先からそのままだしたりみたいにでみたりは……」
「私はそれくらいならできるよ。ほらっ」
僕の質問に答えながら、セシルさんは親指と人差し指の指先をこねる動作のあと、先ほど僕が杖先から出したような光を弾くようにして飛ばした。
ほとんどそちらの方向を見ていなかったというのに、その光は正確に小さな岩へと命中し、パチンという音とともに掻き消えていった。
「とまあ私はこうやってできるけど、これはかなり特別だと思って。普通はこんなことはできないよ」
「へえ……」
「魔力を扱うことはみんなできるけど、普通はさっきレンちゃんか感じたように流れをいじる……できて身体からそのままエネルギーとして出すってくらいが限界。さっきみたいにある程度の威力を持ったものを遠くに飛ばすのは才能がなきゃできない」
ふむふむ、大体わかったけど……意外とそんなもんなのか。
「魔術師っていうのは魔力に関わる道具を作ったりしていって、人々の生活を良くしていく、そういう人たちだから。特別な人ってわけじゃないよ」
「要は研究者って感じですね」
「そうそう、そういうこと。厳密にいうと私はちょっと違うけど……それは置いといてさっきの感じであの辺の岩を狙って今度は一人でやってみて。間違っても私に当てないでよ」
「大丈夫ですよ~」
試しにもう一度先ほどのイメージを頭に浮かべ、杖を突き出してみるとちゃんと魔力の固まりが出た。
例えるならば自転車や逆上がりのように身体にそのイメージが染み付いている感じだ。しかし、少し小さく形も完全な球状ではなかった、やはり先ほどのは補助があったからだろう。
「うんいい感じ。あとは何回も繰り返して慣れるしかないね」
セシルさんは岩に腰掛け、例のバッグからスケッチブックを取り出し何か描いている。
楽しそうな表情、その目線から恐らく僕を描いているんだろう。思えば今の自分は客観的に見れば草原で魔術の練習をする美少女、いい構図だろうけどそんなに堂々とやられたら少し恥ずかしいな……
ともかくその後はアドバイスを受けながら何度も繰り返すうちに少しずつ上達していき、一時間後くらいには最初のものと遜色ないものがいくつも連続して出せるようになった。
やっている最中は楽しくてあまり気にしていなかったが、元からある力を利用するので魔力切れとかそういうものはないらしい。その代わり毎回詳細なイメージが必要なので、なんというか……頭が疲れた。
「そろそろ疲れてきたでしょ、お弁当にしようか」
最高のタイミングでそう切り出したセシルさんはすでにバッグからランチボックスと水筒を取り出し、シートを敷いて待っていた。
お弁当は魚のフライと味付けした鳥肉それぞれを野菜と挟んだ二種類のサンドイッチだ。
鳥肉は野鳥のものだろうか、少し歯ごたえがあったが味わい深い肉だった。
「どう、おいしい? 温かいお茶とデザートもあるからね」
「はい、ほんとおいしいですよ。で……どんなもんでした、僕の魔術は?」
「すっごく上手だったよ! やっぱりレンちゃんは才能はもちろんだけど、集中力がすごいね」
「そ、そうですか。こういうの憧れだったので、張り切っちゃったというか……」
「そういう気持ちは大事! もうこの分野については基本はほぼ大丈夫かな」
少し練習しただけだがもうそのレベルなのか……この肉体の素質がそれだけ凄いってことかな。
「そもそも魔術の才能ってどんなものなんですかね?」
「ん~そういう決まりがあるものじゃないけど、一応私が考えてるのは二つ。一つは今のように魔力という力を扱う繊細さ、器用さって感じ。人間一人が扱える魔力量はあまり変わらないけど、それだけはどうしてもすごく差が出る上、努力してもどうしようもないから」
「なるほど、でもう一つは」
「もう一つは端的に言えばひらめきってやつ。魔力の関係する事象で、これをやればいいんじゃないかってのが自然と頭に浮かぶイメージかな。私もそうだけどこういうものが欲しいな、作りたいなってなったら、なんとなくでじゃあこれからかかればいいってのがわかるんだよね」
「ふうん……」
「レンちゃんはどちらの才能もすごいよ、私が保証してあげる。人に謙虚であることは大切かも知れないけど、自分が人とは違うことがあるっていうのをちゃんと認識しておくのはもっと大切だからね」
自分に取り柄があまりなかっただけに、よくわからないけど心にとどめておくべき事柄だろう。
「才能があれば一通りの基本をマスターするのは早いから。そういえば以前、魔術の才能は肉体に依存するといったけど、血筋とかはあんまり関係が無いんだよ」
「へえ……」
「私の両親もそれほど腕があったわけではないし、その身体の元の持ち主もそうだったと思うよ。ただ残念ながら家庭の事情とかでちゃんと学校もいけず、しっかり魔術を学べなかったんだろうね」
「何だかイメージと違いますね。もっと代々続いていくようなものだと」
「やっぱり?」
んん? なんだその意味深な笑みは?
「とはいっても私たちの才能は多少特別とはいえ、決して唯一無二ってほどのものでもないよ。百年単位で世界全体を見渡せばチラホラはいるくらいのはず」
「まあ……僕たちがこうして会えているわけですしね」
「そうだね。才能も知識も意欲も技術も経験も全部大事なことだけど……結局はそういった縁が一番大切だよね。素質を持って生まれてもそれが実る環境にいるか、そして何より会えるかっていったらまた違うから」
「縁……そうですね。僕もそう思います」
「それはそうと、もっとセシルさんのことについて教えてくださいよ。僕はそれが聞きたいです」
「いいよ、さて……どこから話そうかな。それじゃあ一昨日の夜、レンちゃんの世界から魂を呼んだところからにしようか」
だいぶ予想外のところから話が始まったなあ……
「まず以前言った魂を選んだときの条件だが、その前に聞きたいけど君は前世では何歳だった?」
「えっと、十七歳でしたけど……」
そういえば以前、僕をこの身体の中身として選んだときにいくつか条件を決めていたと言っていたな。
「そうだろう、一つ目の条件は大体そのぐらいの年齢であることだからね。赤ん坊や小さい子どもに来られても困るし、かといっておじさんおばさんとかに来られても私が嫌だから」
嫌って……あなたはそれ以上の年齢のはずでしょうが! と心の中で僕は突っ込む。
「二つ目はそれなりに賢い、良識ある人間だったということだ。レンちゃんはそんなことないと思うかもしれないが、そう私が選んで実際選ばれた以上十分のはずだよ。要はあんまり勉強しない人や学ぶという意欲がない人、そして危険なこと考えてる根が悪人みたいな人では困るっていうこと」
ちょっとピンとこないな……
「時間はあったから色々なことに手を出し覚えてきたとはいえ、私自身は魔術はともかく、他の学問に関しては凡才もいいとこだからね。足並みを揃えて、学んでいける人が欲しかったというのもあったかな」
「そうなんですか」
「そしてこの話で肝心なのが三つめだが……私が今まで訪れた世界の人間だということ。そうでなければ翻訳魔術が使えないしそもそも呼べないから」
「今まで訪れた世界?」
薄々感づいていたが、やっぱりそうなのか?
「気づいた? ご想像の通り、実はねえ……私もこの世界の人間じゃないんだよ」
「ああ、おはよっ。調子よさそうだね」
「はい」
堂々とドアを開けて、当たり前のように挨拶を交わす。僕はこの世界に来て二回目の朝を迎えた。
もう昨日のように戸惑ったりはしない。目覚めはとてもいいものだった。
もう女の子の身体にも幾分か慣れ、昨晩はお風呂も一人で入ることができた。しかし……じっくりと見る自分の身体や顔、起きた時やふとした動作の際に感じるほんのりとした香り、いずれにも僕は心が動いてしまう。
違和感こそ薄れてきたが、飽きてきたということはない。少し前の自分を考えたら別に変なことではないだろう。やっぱりこの身体はいいと、時が経っていくにつれその思いが強くなる。
「じゃあ、少し手伝ってくれる?」
「はいはい、了解です」
そうして僕自身も少し作るのを手伝った朝食を食べ終え、食後のお茶を飲みながら語り合う。
「ところで……今日は何するんですか? まさかまた掃除じゃないですよね……」
「ん……いや、ちゃんと今日から魔術を教えてあげるよ」
「本当ですか!」
「やっぱ楽しみにしてたよね~すごく嬉しそう」
「あ……えへへ」
◆◆◆ ◆◆◆
「ここらでいいかな。人影もないしね」
僕たちは今セシルさんの家から数キロほど離れた草原の外れにいる。どうやらあまり人目につかないところがいいらしい。
当然車などはないからここまでは一緒に馬に乗せてもらってきたわけだが……その乗り心地は思ったより良く、草原を駆ける爽快感は今まで感じたことがないものだった。
「さてさて、じゃあこれをプレゼントするよ」
「これは……」
馬から降りた僕が周りをウロウロしていると、セシルさんは何やら片手で持てるくらいの大きさの杖のようなものを渡してきた。
杖をプレゼントってことは……これってつまりあれだよね!
「これはねえ、簡単に言ってしまえば魔術を使うための道具だ。これ一本あればいろんなことができる、万能なやつだよ。別に杖である必要はないけれど、割と一般的な形だし、レンちゃんが一番イメージしやすいと思ってね……聞いてる?」
「あっ……はい」
正直僕は興奮していた。
きっと男女問わず誰もが魔法を使ってみたいと、一度は思ってことがあるだろう。もちろん僕も例外ではない。そんな子どもの頃からの夢が叶うようなものだ、平常心でいることの方が難しいだろう。
「無理もないかな、とりあえず一緒にやってみようか。簡単だから肩の力を抜いて……そうそう」
そう言ってセシルさんは後ろに立ち、杖を持つ僕の右手を優しく持って前へと突き出した。
「おお……おおお」
ポウっと赤い光が杖の先から出たと思った瞬間、小さな火の玉のようなものが一直線に飛び小岩に命中した。
思っていたよりもずいぶんとあっさりできた、というのがまず第一の印象だった。
「じゃ、もう一回。今度は感覚をちゃんと覚えてね」
「はい」
言われるがままに続けてもう一発、同じような光が杖の先から放たれた。
その際杖に何か力のようなものを帯び、それが流れ先端に集まったような、そんなイメージが浮かんだ。
「上手上手、大体これで分かったかな。様々な理論があるけど魔力を集中させるイメージを持つこと、これが基本だからそのイメージを忘れずにね。これができればこの世界にあるいろんな道具が使えるようになるから」
「そうなんですか……でも道具ってやっぱりないとダメなんですかね。さっきのを指先からそのままだしたりみたいにでみたりは……」
「私はそれくらいならできるよ。ほらっ」
僕の質問に答えながら、セシルさんは親指と人差し指の指先をこねる動作のあと、先ほど僕が杖先から出したような光を弾くようにして飛ばした。
ほとんどそちらの方向を見ていなかったというのに、その光は正確に小さな岩へと命中し、パチンという音とともに掻き消えていった。
「とまあ私はこうやってできるけど、これはかなり特別だと思って。普通はこんなことはできないよ」
「へえ……」
「魔力を扱うことはみんなできるけど、普通はさっきレンちゃんか感じたように流れをいじる……できて身体からそのままエネルギーとして出すってくらいが限界。さっきみたいにある程度の威力を持ったものを遠くに飛ばすのは才能がなきゃできない」
ふむふむ、大体わかったけど……意外とそんなもんなのか。
「魔術師っていうのは魔力に関わる道具を作ったりしていって、人々の生活を良くしていく、そういう人たちだから。特別な人ってわけじゃないよ」
「要は研究者って感じですね」
「そうそう、そういうこと。厳密にいうと私はちょっと違うけど……それは置いといてさっきの感じであの辺の岩を狙って今度は一人でやってみて。間違っても私に当てないでよ」
「大丈夫ですよ~」
試しにもう一度先ほどのイメージを頭に浮かべ、杖を突き出してみるとちゃんと魔力の固まりが出た。
例えるならば自転車や逆上がりのように身体にそのイメージが染み付いている感じだ。しかし、少し小さく形も完全な球状ではなかった、やはり先ほどのは補助があったからだろう。
「うんいい感じ。あとは何回も繰り返して慣れるしかないね」
セシルさんは岩に腰掛け、例のバッグからスケッチブックを取り出し何か描いている。
楽しそうな表情、その目線から恐らく僕を描いているんだろう。思えば今の自分は客観的に見れば草原で魔術の練習をする美少女、いい構図だろうけどそんなに堂々とやられたら少し恥ずかしいな……
ともかくその後はアドバイスを受けながら何度も繰り返すうちに少しずつ上達していき、一時間後くらいには最初のものと遜色ないものがいくつも連続して出せるようになった。
やっている最中は楽しくてあまり気にしていなかったが、元からある力を利用するので魔力切れとかそういうものはないらしい。その代わり毎回詳細なイメージが必要なので、なんというか……頭が疲れた。
「そろそろ疲れてきたでしょ、お弁当にしようか」
最高のタイミングでそう切り出したセシルさんはすでにバッグからランチボックスと水筒を取り出し、シートを敷いて待っていた。
お弁当は魚のフライと味付けした鳥肉それぞれを野菜と挟んだ二種類のサンドイッチだ。
鳥肉は野鳥のものだろうか、少し歯ごたえがあったが味わい深い肉だった。
「どう、おいしい? 温かいお茶とデザートもあるからね」
「はい、ほんとおいしいですよ。で……どんなもんでした、僕の魔術は?」
「すっごく上手だったよ! やっぱりレンちゃんは才能はもちろんだけど、集中力がすごいね」
「そ、そうですか。こういうの憧れだったので、張り切っちゃったというか……」
「そういう気持ちは大事! もうこの分野については基本はほぼ大丈夫かな」
少し練習しただけだがもうそのレベルなのか……この肉体の素質がそれだけ凄いってことかな。
「そもそも魔術の才能ってどんなものなんですかね?」
「ん~そういう決まりがあるものじゃないけど、一応私が考えてるのは二つ。一つは今のように魔力という力を扱う繊細さ、器用さって感じ。人間一人が扱える魔力量はあまり変わらないけど、それだけはどうしてもすごく差が出る上、努力してもどうしようもないから」
「なるほど、でもう一つは」
「もう一つは端的に言えばひらめきってやつ。魔力の関係する事象で、これをやればいいんじゃないかってのが自然と頭に浮かぶイメージかな。私もそうだけどこういうものが欲しいな、作りたいなってなったら、なんとなくでじゃあこれからかかればいいってのがわかるんだよね」
「ふうん……」
「レンちゃんはどちらの才能もすごいよ、私が保証してあげる。人に謙虚であることは大切かも知れないけど、自分が人とは違うことがあるっていうのをちゃんと認識しておくのはもっと大切だからね」
自分に取り柄があまりなかっただけに、よくわからないけど心にとどめておくべき事柄だろう。
「才能があれば一通りの基本をマスターするのは早いから。そういえば以前、魔術の才能は肉体に依存するといったけど、血筋とかはあんまり関係が無いんだよ」
「へえ……」
「私の両親もそれほど腕があったわけではないし、その身体の元の持ち主もそうだったと思うよ。ただ残念ながら家庭の事情とかでちゃんと学校もいけず、しっかり魔術を学べなかったんだろうね」
「何だかイメージと違いますね。もっと代々続いていくようなものだと」
「やっぱり?」
んん? なんだその意味深な笑みは?
「とはいっても私たちの才能は多少特別とはいえ、決して唯一無二ってほどのものでもないよ。百年単位で世界全体を見渡せばチラホラはいるくらいのはず」
「まあ……僕たちがこうして会えているわけですしね」
「そうだね。才能も知識も意欲も技術も経験も全部大事なことだけど……結局はそういった縁が一番大切だよね。素質を持って生まれてもそれが実る環境にいるか、そして何より会えるかっていったらまた違うから」
「縁……そうですね。僕もそう思います」
「それはそうと、もっとセシルさんのことについて教えてくださいよ。僕はそれが聞きたいです」
「いいよ、さて……どこから話そうかな。それじゃあ一昨日の夜、レンちゃんの世界から魂を呼んだところからにしようか」
だいぶ予想外のところから話が始まったなあ……
「まず以前言った魂を選んだときの条件だが、その前に聞きたいけど君は前世では何歳だった?」
「えっと、十七歳でしたけど……」
そういえば以前、僕をこの身体の中身として選んだときにいくつか条件を決めていたと言っていたな。
「そうだろう、一つ目の条件は大体そのぐらいの年齢であることだからね。赤ん坊や小さい子どもに来られても困るし、かといっておじさんおばさんとかに来られても私が嫌だから」
嫌って……あなたはそれ以上の年齢のはずでしょうが! と心の中で僕は突っ込む。
「二つ目はそれなりに賢い、良識ある人間だったということだ。レンちゃんはそんなことないと思うかもしれないが、そう私が選んで実際選ばれた以上十分のはずだよ。要はあんまり勉強しない人や学ぶという意欲がない人、そして危険なこと考えてる根が悪人みたいな人では困るっていうこと」
ちょっとピンとこないな……
「時間はあったから色々なことに手を出し覚えてきたとはいえ、私自身は魔術はともかく、他の学問に関しては凡才もいいとこだからね。足並みを揃えて、学んでいける人が欲しかったというのもあったかな」
「そうなんですか」
「そしてこの話で肝心なのが三つめだが……私が今まで訪れた世界の人間だということ。そうでなければ翻訳魔術が使えないしそもそも呼べないから」
「今まで訪れた世界?」
薄々感づいていたが、やっぱりそうなのか?
「気づいた? ご想像の通り、実はねえ……私もこの世界の人間じゃないんだよ」
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