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運動会と、ブルマーと、女の子の生理
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9月も半ばを過ぎ、朝夕は ようやく過ごしやすくなってきた。
日中は、まだまだ暑いけどね。
そんな中。もうすぐ運動会。
私たちの学校では、全校生徒が早めに登校し、"体育活動"を おこなうことが、日課となっていた。
7時40分までに登校し、大急ぎで体操着に着替え、グラウンドに集合する。
8時ジャスト、放送委員長による号令が かかる。
「全体、前へ ならえ!
気をつけ! 休め! 直れ!」
全校生徒600人。
号令に合わせ、みんな同時に同じ動きを しなければならないの。
ザッ、ザッ、ザッ。
みんなの靴音と共に、グラウンドの土が舞い上がる。
そうして、みんなが直立不動の姿勢になる。
その後、朝礼台に お立ちになった校長先生の前へ 生徒会長が進み出て、一礼し、大きな声で ご挨拶申し上げる。
「おはようございます!」
続いて先生方と全生徒が、一斉に ご挨拶申し上げる。
「おはようございます!」
それから校長先生の お話を聞くの。
「みなさん おはよう!
運動会を成功させるため、今日も みな 一丸となって がんばりましょう!」
お話が済むと、すみやかに入場行進を始めるのよ。
そして碁盤の目のような整列体形になり、ラジオ体操を おこなうの。
縦横の列が、きちんと整った行進。
手足の振りが、きちんと揃った行進。
碁盤の目のように整った整列。
みんなの動きが きちんと揃ったラジオ体操。
600人もいる生徒の動きが、誰ひとりズレてはいけないから、毎日 練習を おこなう必要があるの。
お手本は、オリンピックの開会式よ。
日本の選手団の美しい行進は、わが国の誇りなのだと、私たちは小学生のころから厳しく教わってきた。
何ひとつ疑問に感じては ならなかった。
日本中の学校で 同じことが おこなわれているのだと、信じていたから。
ブルマーの件も、相変わらずよ。
脳筋先生は夏休み以後、百合子先生に対しては、まるで人が変わったように、低姿勢になったわ。
だけど
「ブルマーは国の決まり」
という信念は、ゆらぐことがなかったの。
2学期の最初の体育の時間。
私たちは脳筋先生から、このように説明されたのよ。
「ブルマーは、百合子先生が おっしゃるように、文部省が決めたものではない。
しかし、国の決まりに ほかならないのだ。
なぜなら、日本体育連盟が指定した、女子専用の体操着だからな。
日本体育連盟とは、全国の学校の体育教育を つかさどる、最高機関だ。
その最高機関がブルマーを指定したのには、確固たる理由がある。
日本で はじめてブルマーを着用したのは、1964年の東京オリンピックで優勝した、女子バレーボール選手だ。
世界一の女子選手が、着心地も動きやすさも抜群だと、全世界に証明したのだ。
だからこそ体育連盟は、全国の女子のために、正式採用したのである。
つまりは、国の決まりに ほかならない。
おまえたちは感謝して、従うべきなのだ。
であるから、今後二度と不満を言うな!」
………私たちは普通の中学生なんですけど。
みんながみんな、バレーボール選手になりたいわけじゃないんですけど。
みんながみんな、オリンピックに出場したいわけじゃないんですけど。
なのになぜ、日本中の女の子が オリンピック選手のマネしなきゃいけないの?
そんな思いは、ぐっと飲み込むほか なかった。
どんなにイヤでも、国の決まりなんだから、あきらめるほか ないと思ったのよ。
あの事件が起きて、真実を つきとめるまでは━━。
・・・
事件は、体育の授業中に起きた。
そして私たち女子は、またしても心に傷を残してしまったわ。
国の決まりは、私たちが改善できることじゃないから、修学旅行の お風呂事件より酷いと思った。
私たちの学校では、運動会までの期間、体育の授業が男女合同で おこなわれていたの。
2クラスの男女、合わせて80人。
入場行進とラジオ体操を、きちんと揃ったものにするためよ。
それから100メートル走のスタートを、きちんと揃ったものにするためよ。
うちの学校はね、100メートル走が全員参加の種目だったの。
入場行進とラジオ体操が終わると、2クラスの男女が すみやかに、 スタートラインの後ろに整列する。
10人ずつのグループになり、走順に並ぶ。
走順は、まず男子が10人、次は女子が10
人。
男女が交互に並び、走者グループの後ろに座って、出番を待つ。
順番が回ってきたグループは、同時に起立し、同時にスタートラインに並ぶ。
「位置について!」
先生の指示に合わせて、一斉に地面に片膝をつき、両手をつく。
「用意!」の指示で、一斉に お尻を高く上げる。
「スタート!」の指示で、一斉に走り出す。
ここまでの動作が、きちんと揃わなきゃならない。
タイミングのズレた子がいると、そのグループは きちんと揃うまで やり直しとなる。
他の生徒は、走者グループの後ろに並んでいるわけで。
つまり、「用意!」の指示で走者グループが高く上げた お尻を見ながら待つことになるわけで。
で、女子はブルマーを はいてるわけよ。
Aスケたちはバカだから、どこを見て、何を考えてるか、すぐわかったよ。
大ショックな事件が起きたのは、そんな時だったわ。
佐保里が すぐ気づいて
「静ちゃん、こっちに来な」
「用意!」の指示で お尻を高く上げた静ちゃんの後ろに立ち、静ちゃんを立たせると、走者グループから 強引に引き離したの。
「おい佐保里! 勝手なことするな!」
脳筋先生が怒鳴ったけど
「静さんはケガをしてます。私が付き添って、保健室へ行きます!」
大急ぎで静ちゃんを連れて行った。
すると菓世くんも、佐保里より少し遅れて立ち上がり、急いで みんなの最後列に回るなり
「みんな、こちらを向いて、座り直してくれ!」
みんなを後ろ向きにさせたのよ。
その間、ただ怒鳴っていたのは、女子体育の脳筋先生。
ただ ぼけーっとしていたのは、男子体育の 木村先生。
お二人とも、何が起きていたか、まったく気づかなかったのね。
そんな先生方より、佐保里と菓世くんのほうが、はるかに先生らしいことしてくれたわ。
佐保里が静ちゃんを隠すようにしていたことで、私もようやく気がついた。
静ちゃんのブルマーから血が垂れていて、太ももをつたっていたのよ。
━━私もクラスの副委員長として、あまりにも力不足だと、深く反省した事件だったわ。
静ちゃんは生理が重く、二日目は血の量も多いため、月に一度は体育を見学する子だったのよ。
血の量が多い日は、ナプキンを2枚使っていたため、ブルマーから はみ出してしまうでしょ。
だから、ブルマー姿に なれないの。
それで あの時も、
「生理の二日目なので、授業を見学させてください」
と、脳筋先生に願い出たんですって。
なのに先生は、
「走るのは軽く流してよいから、動作の練習だけは参加しなさい」
って。
見学することを許さなかったんですって。
それで仕方なく、静ちゃんは2枚必要なナプキンを 1枚だけにして、あんな辛い目に あったわけよ。
脳筋先生の説明を、すっかり信じていた私は、心の中で体育連盟を恨んだわ。
ねえねえ、文部省より お偉い体育連盟さん。
女子のためにというなら、なぜこんなに厄介で、女子の生理現象を配慮しない体操着を強制するんですか?
体育連盟って、残酷ですね!
・・・
その翌日から、静ちゃんは学校に来なくなってしまった。
日中は、まだまだ暑いけどね。
そんな中。もうすぐ運動会。
私たちの学校では、全校生徒が早めに登校し、"体育活動"を おこなうことが、日課となっていた。
7時40分までに登校し、大急ぎで体操着に着替え、グラウンドに集合する。
8時ジャスト、放送委員長による号令が かかる。
「全体、前へ ならえ!
気をつけ! 休め! 直れ!」
全校生徒600人。
号令に合わせ、みんな同時に同じ動きを しなければならないの。
ザッ、ザッ、ザッ。
みんなの靴音と共に、グラウンドの土が舞い上がる。
そうして、みんなが直立不動の姿勢になる。
その後、朝礼台に お立ちになった校長先生の前へ 生徒会長が進み出て、一礼し、大きな声で ご挨拶申し上げる。
「おはようございます!」
続いて先生方と全生徒が、一斉に ご挨拶申し上げる。
「おはようございます!」
それから校長先生の お話を聞くの。
「みなさん おはよう!
運動会を成功させるため、今日も みな 一丸となって がんばりましょう!」
お話が済むと、すみやかに入場行進を始めるのよ。
そして碁盤の目のような整列体形になり、ラジオ体操を おこなうの。
縦横の列が、きちんと整った行進。
手足の振りが、きちんと揃った行進。
碁盤の目のように整った整列。
みんなの動きが きちんと揃ったラジオ体操。
600人もいる生徒の動きが、誰ひとりズレてはいけないから、毎日 練習を おこなう必要があるの。
お手本は、オリンピックの開会式よ。
日本の選手団の美しい行進は、わが国の誇りなのだと、私たちは小学生のころから厳しく教わってきた。
何ひとつ疑問に感じては ならなかった。
日本中の学校で 同じことが おこなわれているのだと、信じていたから。
ブルマーの件も、相変わらずよ。
脳筋先生は夏休み以後、百合子先生に対しては、まるで人が変わったように、低姿勢になったわ。
だけど
「ブルマーは国の決まり」
という信念は、ゆらぐことがなかったの。
2学期の最初の体育の時間。
私たちは脳筋先生から、このように説明されたのよ。
「ブルマーは、百合子先生が おっしゃるように、文部省が決めたものではない。
しかし、国の決まりに ほかならないのだ。
なぜなら、日本体育連盟が指定した、女子専用の体操着だからな。
日本体育連盟とは、全国の学校の体育教育を つかさどる、最高機関だ。
その最高機関がブルマーを指定したのには、確固たる理由がある。
日本で はじめてブルマーを着用したのは、1964年の東京オリンピックで優勝した、女子バレーボール選手だ。
世界一の女子選手が、着心地も動きやすさも抜群だと、全世界に証明したのだ。
だからこそ体育連盟は、全国の女子のために、正式採用したのである。
つまりは、国の決まりに ほかならない。
おまえたちは感謝して、従うべきなのだ。
であるから、今後二度と不満を言うな!」
………私たちは普通の中学生なんですけど。
みんながみんな、バレーボール選手になりたいわけじゃないんですけど。
みんながみんな、オリンピックに出場したいわけじゃないんですけど。
なのになぜ、日本中の女の子が オリンピック選手のマネしなきゃいけないの?
そんな思いは、ぐっと飲み込むほか なかった。
どんなにイヤでも、国の決まりなんだから、あきらめるほか ないと思ったのよ。
あの事件が起きて、真実を つきとめるまでは━━。
・・・
事件は、体育の授業中に起きた。
そして私たち女子は、またしても心に傷を残してしまったわ。
国の決まりは、私たちが改善できることじゃないから、修学旅行の お風呂事件より酷いと思った。
私たちの学校では、運動会までの期間、体育の授業が男女合同で おこなわれていたの。
2クラスの男女、合わせて80人。
入場行進とラジオ体操を、きちんと揃ったものにするためよ。
それから100メートル走のスタートを、きちんと揃ったものにするためよ。
うちの学校はね、100メートル走が全員参加の種目だったの。
入場行進とラジオ体操が終わると、2クラスの男女が すみやかに、 スタートラインの後ろに整列する。
10人ずつのグループになり、走順に並ぶ。
走順は、まず男子が10人、次は女子が10
人。
男女が交互に並び、走者グループの後ろに座って、出番を待つ。
順番が回ってきたグループは、同時に起立し、同時にスタートラインに並ぶ。
「位置について!」
先生の指示に合わせて、一斉に地面に片膝をつき、両手をつく。
「用意!」の指示で、一斉に お尻を高く上げる。
「スタート!」の指示で、一斉に走り出す。
ここまでの動作が、きちんと揃わなきゃならない。
タイミングのズレた子がいると、そのグループは きちんと揃うまで やり直しとなる。
他の生徒は、走者グループの後ろに並んでいるわけで。
つまり、「用意!」の指示で走者グループが高く上げた お尻を見ながら待つことになるわけで。
で、女子はブルマーを はいてるわけよ。
Aスケたちはバカだから、どこを見て、何を考えてるか、すぐわかったよ。
大ショックな事件が起きたのは、そんな時だったわ。
佐保里が すぐ気づいて
「静ちゃん、こっちに来な」
「用意!」の指示で お尻を高く上げた静ちゃんの後ろに立ち、静ちゃんを立たせると、走者グループから 強引に引き離したの。
「おい佐保里! 勝手なことするな!」
脳筋先生が怒鳴ったけど
「静さんはケガをしてます。私が付き添って、保健室へ行きます!」
大急ぎで静ちゃんを連れて行った。
すると菓世くんも、佐保里より少し遅れて立ち上がり、急いで みんなの最後列に回るなり
「みんな、こちらを向いて、座り直してくれ!」
みんなを後ろ向きにさせたのよ。
その間、ただ怒鳴っていたのは、女子体育の脳筋先生。
ただ ぼけーっとしていたのは、男子体育の 木村先生。
お二人とも、何が起きていたか、まったく気づかなかったのね。
そんな先生方より、佐保里と菓世くんのほうが、はるかに先生らしいことしてくれたわ。
佐保里が静ちゃんを隠すようにしていたことで、私もようやく気がついた。
静ちゃんのブルマーから血が垂れていて、太ももをつたっていたのよ。
━━私もクラスの副委員長として、あまりにも力不足だと、深く反省した事件だったわ。
静ちゃんは生理が重く、二日目は血の量も多いため、月に一度は体育を見学する子だったのよ。
血の量が多い日は、ナプキンを2枚使っていたため、ブルマーから はみ出してしまうでしょ。
だから、ブルマー姿に なれないの。
それで あの時も、
「生理の二日目なので、授業を見学させてください」
と、脳筋先生に願い出たんですって。
なのに先生は、
「走るのは軽く流してよいから、動作の練習だけは参加しなさい」
って。
見学することを許さなかったんですって。
それで仕方なく、静ちゃんは2枚必要なナプキンを 1枚だけにして、あんな辛い目に あったわけよ。
脳筋先生の説明を、すっかり信じていた私は、心の中で体育連盟を恨んだわ。
ねえねえ、文部省より お偉い体育連盟さん。
女子のためにというなら、なぜこんなに厄介で、女子の生理現象を配慮しない体操着を強制するんですか?
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