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女子の反乱 ~ブルマーなんか大キライ~

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「ああっ、もう無理。 アタシ、これ以上がまんするの無理!
今日からの体育はジャージで行くよ。ブルマー※なんか、はきたくない!
脳筋のうきんには、アタシが代表で意見を言うからさ。
みんなも よかったらジャージで行こう!」
佐保里さほりが 高らかに宣言した。

百合子ゆりこ先生の『命の授業』を受けた、翌日のことだったわ。
更衣室で、みんなが着替えはじめた時のことよ。

佐保里は アタマがよくて、運動も できて、正義感が強くて、人望があって、私たち女子のリーダーだったの。
ほんとは私なんかより、はるかにクラス委員が ふさわしい。
だけど、男の先生方には不評だったのよ。特に、脳筋(敬称略!)には、ね。

あの脳筋が、女子の意見を聞くはずないのよ。
どうせムダなのよ。
なのに……佐保里は、納得いかない指導については、納得できるまで、先生方に説明を求める人だった。
脳筋みたいなヤツ(敬称大略!)が相手でもね。

私たち女子の体育は、3年間ずっと、脳筋が担当だったの。
ついでに部活も、女子バレーボール部の顧問。
女をバカにしてるくせに、なぜだろ?
不思議だったのよね。

佐保里が がまんの限界に達した理由わけは、3つの出来事が重なったからよ。

・・・

修学旅行の数日前。
女子だけが体育館に集められ、『女子指導』を受けたの。
その時の担当先生は、保健の先生と百合子ゆりこ先生だけ。
同じ時間帯、男子はグラウンドで、サッカーをして遊んでいたわ。男の先生方と いっしょにね。

保健の先生の お話を、延々と聞くだけの ご指導だったわ。
「奈良や京都は大都会です。
あなたたちは女性ですから、テレビのニュースで見聞きするような危険なことにも いかねません。
気をつけましょう」

うん。それは わかる。で、続けて言われたことは、
「みなさん必ず、生理用品を持参しましょう。
初潮を迎えていない人も、予定日と ずれている人も、万が一に備えましょう。
また、生理中の人は、お風呂を使えません。がまんしてください」
うん。それも、しかたないことね。からだが汚れてイヤだけど……。

当時の お風呂事情は、シャワー設備が無い家が多かったの。
修学旅行に利用される旅館も同様で、私たちが宿泊する旅館も、シャワー設備が無かったのよ。

そのあと、「質問はありますか? 」と聞かれ、佐保里は 勢いよく手を挙げて発言した。
「先生! ご指導は よくわかりました。
でも、それなら、旅館内の服装は ジャージを許可してください!
危険な男子が、この学年に いるのです。
ブルマー着用は、私たちもイヤですし、危険な男子を刺激します」

だよねぇ。私も同感。もちろん、ほかの女子たちもね。

でも、あっさり却下されて おしまいよ。
「女子のブルマー着用は、国の決まりです。
修学旅行は学校行事ですよ。
決まりを守りなさい」って。
これが1つ目の理由。

ただ その時、百合子先生が、何か おっしゃりたい ご様子だった。
なのに、保健の先生は右手を挙げて、百合子先生を制したの。
とても気になったところよ。
百合子先生は、何を おっしゃりたかったのかしら?

で、ほら。修学旅行の2日目の夜、佐保里が懸念けねんしたように、バカAスケたちが大事件を起こしたわけよ。
これが2つ目の理由。

そして3つ目の理由が、じつは、私の態度にあったの。
「つぐみ。あんたがAスケを見る目と、脳筋を見る目が、同じだよ。
明らかに、あの二人を嫌ってる目だよ」
ドキッとしたわ。

菓世かぜくん親子の家庭訪問が あって以後。
私は、Aスケたちの親と 脳筋の つながりを、知ってしまったからだわ……。

指摘されるまで気づかなかった。
私が あの人たちをキライなこと、佐保里にはバレてたのね……。

学校の先生は みんな、正しい ご指導で子どもたちを導いてくださる聖人。偉い人。
これが会社の常識で、先生の ご指導に意見する人なんか、まずいない。
だから、お風呂事件の 先生方の ご指導を、女子の保護者が怒ったことは、異例の事態だったのよ。
菓世くん親子が回避してくれたけどね。
 
・・・

「ブルマーは、はかない。ジャージで行くよ!」
佐保里に賛成。みんな賛成。大賛成。
その日 私たちは、上は夏の体操服。下はジャージの長ズボンを はいて、体育館に整列したわ。

結果、どうなったか って?
もちろん、撃沈げきちんしたわ。

脳筋は、予想した通り大噴火だいふんか
「国の決まりなんだ! 国の決まりに反抗するのか!
女のくせに。
そんな態度では、ろくな大人にならんぞ!」
脳筋は、「女のくせに」が、口癖なのよ。
先生方も人間で、いろんな人が いる。ってことよね。

佐保里も負けていなかったわ。
「生意気は承知です。申し訳ありません。
でも、国の決まりなら、必ず決めた経緯と理由の説明が あって しかるべきです。
ですから教えてください。
文部省は、どのような理由で指定体操服に されたのですか? 」

脳筋は、何ひとつ説明できなかったわ。
説明できないから、大噴火することで威厳いげんを保とうと していたわ。

結局その日の体育は、押し問答で授業時間が過ぎてしまった。
「とにかくズボンを脱げ! ブルマーになれ 」 
「文部省が そのように決めた理由を聞くまでは、脱ぎません!」

・・・

私たちの中学時代。
女子の体操服は、密着型ブルマー(おしりが 
 はみ出して困る)が、全国の女子中・高校生の 指定体操服になっていたの。
だから、どんなにイヤでも着なきゃいけなかったの。

ところが、じつに不思議なんだよね。  
文部省は、どのような理由で、あんな恥ずかしい体操着を指定したの?
スケベな偉い人が いたのかな?

★★★
※ブルマー(密着型ブルマー)
密着型ブルマーは、1960年代半ば~90年代半ばまで、女子の指定体操服と定められてきた。
しかし、文部省は これを指定していない。
それどころか、多感な年頃の女子の服装として、『肌を見せない』衣服を推奨していた。

にもかかわらず密着型ブルマーが全国の学校で採用されたのは、体育連盟と学生服メーカーによる 強い働きかけが あった経緯がある。

密着型ブルマーが 廃止され、男女共通の ハーフパンツが採用されはじめたのは、1990年代のなかばから である。
きっかけは、とある高校の女生徒たちによる 反対運動が 全国に広まったこと。
隠し撮りされた写真を掲載した雑誌などが 社会問題になっていたこと。などである。
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