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百合子先生の授業

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家庭科※の授業はね、私たちが中学生だったころは、女子だけに義務づけられていたの。
男子は同じ時間帯に、技術科※の授業を受けていたわ。
男と女は こんなふうに、学ぶ教科さえも分け隔てられていたの。

とても残念なことよ。
なぜって 百合子ゆりこ先生の家庭科は、とてもユニークな授業だったのですもの。
当時の日本の中学校で、こんな授業を してくださった先生は、おそらく百合子先生だけだと思う。
私たちしか知らない、人生の宝物よ。

家庭科の授業(裏では男子が技術科)は、給食前の2時限続き。
2クラス合同で、調理室か被服室で おこなわれていたの。

で、その日の授業は、理科の資料集を持参するよう、連絡があったの。
理科の資料集とは、自然科学に関する写真や絵が載っていて、見るだけでも楽しい補助教材よ。

今日は どんな勉強を するのかしら?
わくわくしながら、教室へ向かったわ。

・・・

百合子先生が おっしゃるには、家庭科とは、すべての教科に通じる総合科学なのですって。
私たちはね、先生の家庭科を通して、地理や歴史や、自然科学や、古典文学……さまざまな教科を学んでいたの。

そうね。たとえば、
使い古した食用油を使って、肌にやさしい石鹸を作った。
校庭の一角で麦や野菜を育てた。
戦国時代、戦に臨んだ人々は、食事やトイレを どうしていたか調べた。
江戸時代のレシピ本を参考に、昔の人が食べていた料理を作った。
夏のワンピースを作りながら、暑い国に住む人々の衣服の知恵を学んだ。
家計簿のつけ方を学びながら、国の予算運用について 国民も考えることの大切さを学んだ。

遠い外国の人々の暮らし。
はるか昔の人々の暮らし。
国の政策や予算運用。
すべてが、今を生きる私たちの、暮らしの土台になっているの。

私たちは生涯にわたり、学び続ける意義を、理解したの。

★★★
※家庭科、技術科
家庭科と技術科が統合され、男女共修となったのは
中学校が 平成5年から。
高校が 平成6年からである。
その後、男女共同参画社会基本法が、平成11年に公布された。
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