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菓世くんの お父さん
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怒り マックスで帰宅した、その日の夜。
「ね。おかしいでしょ。私、悔しくてたまらないよ」
私はムカムカしながら両親に報告していた。
父も母も「ふむふむ」って、聞いてくれていた、ちょうどその時分。
「こんばんは。夜分に申し訳ございません」
「やっ。つぐみさん、こんばんは」
なんと、菓世くんと お父さんが、訪ねて来たの。
理由を聞いて驚いたわ!
今日からクラスの女子全員の家を、一軒一軒 訪ねてまわり、謝罪するのですって。
さらに驚いたことに、AスケBスケ(以下略)の家にも謝罪に行くのですって。
で、うちが最初の一軒目。
何日かかるだろう……。
っていうか、なんで菓世くん親子が、そんなことするのよ?!
「いやいや。娘は、道明寺さんに感謝してますよ。
本当に ありがとうございました。それなのに謝罪だなんて……」
父も母も すっかり恐縮していた。もちろん私もね。
けど これは、菓世くんの お父さんに考えがあっての行動だったの。
菓世くんも、お父さんの考えに賛成して、行動を開始したのですって。
菓世くんの お父さんの お話は、バカAスケたちの問題だけでは なかったのよ。
日本の未来にかかわる お話でもあり、とても勉強になったわ。
・・・
菓世くんの お父さんは、始終おだやかに話してくださった。
「ねえ、つぐみさん。
歴史を勉強したり、新聞を読んだりしていると、よくわかるでしょう。
日本中の人々が、みんな善い人とは限らないのです。
日々、様々な事件が起きています。
悪い おこないを する大人も、残念ながら いるのですよ。
ところで。つぐみさんは、どんな大人に なりたいですか?
……。
そうですね。すぐには答えられないと思います。
でも あなたは、自分の未来を思い描いて生きている。
そうでしょう?
あなたの ご両親も私も、子どもの時代がありました。自分の未来を思い描いて、生きてきました。
そうして大人になり、子どもの親になったのです。
親になった私は、子どもの未来に 願いを持つようになりました。
善い社会で健やかに育ってほしい。幸せになってほしいと。
私はね、町の子どもたちが、みんなかわいい。Aスケたちのことも、かわいい。
子どもは未来の大人です。
みんなを、善い大人に育てたいのです。
善い大人が育ってくれないと、善い社会に なりませんからね。
Aスケたちは 子どものうちに、悪い芽を枯らし、善い芽を育ててやりたい。
それが、大人であり親である、私の つとめと考えたのです。
息子は、事情はどうあれ、女子の風呂場へ行きました。暴力をふるいました。
いや、ことの次第を聞けば、非道な おこないを強行したAスケたちを、止めるためでした。
おひとりで難儀されていた百合子先生のことも、お助けしなきゃならんと。
息子なりに必死だったわけです。
修学旅行から みなさんが帰った翌日、関係した子どもたちと 私ども保護者が、学校に呼ばれました。
同席した先生は、校長先生と 脳筋先生と、鈴木先生だけでした。
事件の 一部始終を、唯一 ご存じの百合子先生が いらっしゃらないのです。
これは おかしいと思いました。
事件の てんまつを説明したのは、脳筋先生です。
まるで、自分が その場に いたような説明でしたが、本当は違うでしょう?
脳筋先生は、息子が床に のびているところに、ようやく駆けつけたのですからね。
おっと! つぐみさん、お怒りは ごもっともです。
でも、もうしばらく がまんして、話を聞いてください。
脳筋先生もAスケたちの保護者も、同じことを言いました。
『子どもたちは入浴時間を間違えただけだ。悪くない。
しかし菓世は、わかっていて女風呂へ行った。おまけに暴力をふるった』と。
校長先生は、旅行に同行してませんから、学年主任の脳筋先生を信じるほか ありません。
鈴木先生は、コトのてんまつを見ていませんし、お立場は脳筋先生の部下です。
黙って従うほか ないのでしょうね。
大人の世界の、厄介な仕組みです。
しかし、このまま終わらせたのでは、学校は善くなりません。
ということは、この町も善くなっていきません。
Aスケたちの心には、悪い芽が どんどん育ってしまい、悪い大人に なってしまうでしょうからね。
そこで私どもは、息子が女子の風呂場へ行った件、暴力をふるった件、
誠心誠意 謝罪させていただくため、一軒一軒お訪ねするのです。
もちろんAスケたちの お宅へも、謝罪に参ります。
私どもは、彼らに手本を示すのです。
今後Aスケたちが、非道な おこないを すれば、
私たち親子と同じように しなくてはならないと、ね。
ただ、よろしくない大人たちの件ですが、こちらを正すことは、大変難しいのです。
すでに、大人になっていますからね。
ここは、古い地域社会ですからね……。
せめてAスケたちが、大人になる前に、私どもの気持ちが伝わることを、願っております。
さて、つぐみさん。本当に悔しいことでしたね。
ただね、どうかお願いです。
世の中の男性すべてをキライにならないでください。
日本は長い間、男性優位の国でした。
しかし、これからの日本は、それでは栄えていけません。
あなたも きっと、お母様のように、社会に羽ばたいて いきたいでしょう。
そんな あなたを応援してくれる、お父様のような男性に、必ず出会えますよ」
菓世くんの お父さんが、そこまで話した時。
「父さんストップ!
その話は、Aスケたちの件とは関係ないでしょう!
父さんが そんな話をしたら、つぐみさんは、女子高に行かなくなってしまうじゃないか!」
いましがたまで おとなしくしていた菓世くんが、怒ったように口を挟んだ。
あのさあ。
菓世くんは、なんで私が進む高校を、女子高だと決めつけるわけ?
正義の味方だけど、お父さんと ずいぶん違うね。
ほんと古くさい、石アタマの男だわ!
「ね。おかしいでしょ。私、悔しくてたまらないよ」
私はムカムカしながら両親に報告していた。
父も母も「ふむふむ」って、聞いてくれていた、ちょうどその時分。
「こんばんは。夜分に申し訳ございません」
「やっ。つぐみさん、こんばんは」
なんと、菓世くんと お父さんが、訪ねて来たの。
理由を聞いて驚いたわ!
今日からクラスの女子全員の家を、一軒一軒 訪ねてまわり、謝罪するのですって。
さらに驚いたことに、AスケBスケ(以下略)の家にも謝罪に行くのですって。
で、うちが最初の一軒目。
何日かかるだろう……。
っていうか、なんで菓世くん親子が、そんなことするのよ?!
「いやいや。娘は、道明寺さんに感謝してますよ。
本当に ありがとうございました。それなのに謝罪だなんて……」
父も母も すっかり恐縮していた。もちろん私もね。
けど これは、菓世くんの お父さんに考えがあっての行動だったの。
菓世くんも、お父さんの考えに賛成して、行動を開始したのですって。
菓世くんの お父さんの お話は、バカAスケたちの問題だけでは なかったのよ。
日本の未来にかかわる お話でもあり、とても勉強になったわ。
・・・
菓世くんの お父さんは、始終おだやかに話してくださった。
「ねえ、つぐみさん。
歴史を勉強したり、新聞を読んだりしていると、よくわかるでしょう。
日本中の人々が、みんな善い人とは限らないのです。
日々、様々な事件が起きています。
悪い おこないを する大人も、残念ながら いるのですよ。
ところで。つぐみさんは、どんな大人に なりたいですか?
……。
そうですね。すぐには答えられないと思います。
でも あなたは、自分の未来を思い描いて生きている。
そうでしょう?
あなたの ご両親も私も、子どもの時代がありました。自分の未来を思い描いて、生きてきました。
そうして大人になり、子どもの親になったのです。
親になった私は、子どもの未来に 願いを持つようになりました。
善い社会で健やかに育ってほしい。幸せになってほしいと。
私はね、町の子どもたちが、みんなかわいい。Aスケたちのことも、かわいい。
子どもは未来の大人です。
みんなを、善い大人に育てたいのです。
善い大人が育ってくれないと、善い社会に なりませんからね。
Aスケたちは 子どものうちに、悪い芽を枯らし、善い芽を育ててやりたい。
それが、大人であり親である、私の つとめと考えたのです。
息子は、事情はどうあれ、女子の風呂場へ行きました。暴力をふるいました。
いや、ことの次第を聞けば、非道な おこないを強行したAスケたちを、止めるためでした。
おひとりで難儀されていた百合子先生のことも、お助けしなきゃならんと。
息子なりに必死だったわけです。
修学旅行から みなさんが帰った翌日、関係した子どもたちと 私ども保護者が、学校に呼ばれました。
同席した先生は、校長先生と 脳筋先生と、鈴木先生だけでした。
事件の 一部始終を、唯一 ご存じの百合子先生が いらっしゃらないのです。
これは おかしいと思いました。
事件の てんまつを説明したのは、脳筋先生です。
まるで、自分が その場に いたような説明でしたが、本当は違うでしょう?
脳筋先生は、息子が床に のびているところに、ようやく駆けつけたのですからね。
おっと! つぐみさん、お怒りは ごもっともです。
でも、もうしばらく がまんして、話を聞いてください。
脳筋先生もAスケたちの保護者も、同じことを言いました。
『子どもたちは入浴時間を間違えただけだ。悪くない。
しかし菓世は、わかっていて女風呂へ行った。おまけに暴力をふるった』と。
校長先生は、旅行に同行してませんから、学年主任の脳筋先生を信じるほか ありません。
鈴木先生は、コトのてんまつを見ていませんし、お立場は脳筋先生の部下です。
黙って従うほか ないのでしょうね。
大人の世界の、厄介な仕組みです。
しかし、このまま終わらせたのでは、学校は善くなりません。
ということは、この町も善くなっていきません。
Aスケたちの心には、悪い芽が どんどん育ってしまい、悪い大人に なってしまうでしょうからね。
そこで私どもは、息子が女子の風呂場へ行った件、暴力をふるった件、
誠心誠意 謝罪させていただくため、一軒一軒お訪ねするのです。
もちろんAスケたちの お宅へも、謝罪に参ります。
私どもは、彼らに手本を示すのです。
今後Aスケたちが、非道な おこないを すれば、
私たち親子と同じように しなくてはならないと、ね。
ただ、よろしくない大人たちの件ですが、こちらを正すことは、大変難しいのです。
すでに、大人になっていますからね。
ここは、古い地域社会ですからね……。
せめてAスケたちが、大人になる前に、私どもの気持ちが伝わることを、願っております。
さて、つぐみさん。本当に悔しいことでしたね。
ただね、どうかお願いです。
世の中の男性すべてをキライにならないでください。
日本は長い間、男性優位の国でした。
しかし、これからの日本は、それでは栄えていけません。
あなたも きっと、お母様のように、社会に羽ばたいて いきたいでしょう。
そんな あなたを応援してくれる、お父様のような男性に、必ず出会えますよ」
菓世くんの お父さんが、そこまで話した時。
「父さんストップ!
その話は、Aスケたちの件とは関係ないでしょう!
父さんが そんな話をしたら、つぐみさんは、女子高に行かなくなってしまうじゃないか!」
いましがたまで おとなしくしていた菓世くんが、怒ったように口を挟んだ。
あのさあ。
菓世くんは、なんで私が進む高校を、女子高だと決めつけるわけ?
正義の味方だけど、お父さんと ずいぶん違うね。
ほんと古くさい、石アタマの男だわ!
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