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頭髪の自由化と 流行りのマンガ

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菓世かぜくんが、ポッカーンと大口を開けたまま、やつらの奇行を見てる。
初めて見たわ。菓世くんの、あんなマヌケな顔。
でも、それは ほんの つかの間。
私が見てると気づいて、すぐ  いつものハンサム顔に 戻った。

「きり~つ。れいっ!」
菓世くんの号令が かかる。
鈴木先生が いらした。

そして案の定
「Aスケ! Bスケ! 職員室へ来いっ!
このままでは出発できないぞ!
あー。みんなは、旅行の手引きを確認しながら、教室で待機な」

「え~」
「え~~」
「え~~~」

出発できないって!? 
鈴木先生の言葉に、Aスケたちの奇行を はやし立てていた子たちも大ブーイング。

当たり前でしょ! 先生が正しいと思うわ。
だって修学旅行なのよ!
バスを降りたら、クラスごとに行列して歩くの。
どこへ行くにも、男女並んで 二列で歩くの。
Aスケは男子の先頭で、私の となりに並ぶの。

ただでさえイヤなんだよ!

Aスケたちは、ぶつぶつ言いながら、先生に連れられて行ったわ。
「だってさぁ、先生よぉ。修学旅行だぜい。
ダサイ格好に戻すなんて、恥ずかしいじゃんよぉ」

……Aスケたち。
『ダサイ』の意味を、完全に間違えてるよ!

・・・

当時の日本では、多くの中学校で、男子の頭髪は丸刈り、って決まりがあったの。
それが前年度から、市内の中学生は 自由頭髪が許可されたの。
新しい市長さんの お考えだと聞いたわ。
教育委員会がオーケーして、校則が変わったのよ。

以後、生徒手帳の校則のページは、
『中学生らしい、節度ある頭髪を心がけましょう』
って注意書きに変わったの。

頭髪が自由になったことは、私も基本的に賛成よ。
……だけどねえ、私たちの上の学年が、すごいことに なったのよね。
お不良な先輩たちの間で、"リーゼントスタイル"が大流行。

あの髪型は、高さを競うんですかね?
「オマエのアタマ、高過ぎるぞ。生意気だ!」
「オマエこそ、オレより高いなんて、生意気なんだよ!」
校舎の裏あたりで、よくケンカ騒ぎが起きていたわ。
前髪を固めて高さを競ってケンカして、何が楽しいんだろ?

そうそう、そんな彼らが愛用していた乗り物は、学校指定の自転車。いわゆるママチャリよ。
それに気合い入りのシールをベタベタ貼って、得意気だったわね。

ただね、こういう決まり事には、どうしても理解しがたい謎が、つきまとうのよ。

自由頭髪が許可されたのに、なぜか野球部の子たちだけは、相変わらず丸刈りだったの。
不思議よね。
だって ほら、流行りはやりのマンガでは、リーゼントの お不良さんや、前髪を長く伸ばしたヒーロー。
野球マンガでも、長髪のヒーローが活躍していたわ。

……。
女子のブルマーにしても、野球部員の丸刈りにしても、
何か特別な、強力なルールがあるみたい。
これらを変えることは、永久に叶わないんだろうか?

★★★
※ダサイ
格好悪い、みっともない、という意味に用いられていた。
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