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世津子ちゃんの転校と、学校の個性

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世津子せつこちゃんは2年生の夏休みに、F市の学校へ転校したの。
みんなに伝えられた理由は、"お父さんの お仕事の都合"。
家族みんなでF市へ引っ越したの。
学区制※という仕組みがあって、転居しないことには、転校することが できなかったのよ。

世津子ちゃんの お父さんは、東京に本社がある 大手スーパーマーケットの重役でいらしたのね。
もともとは東京に住んでいて、世津子ちゃんが生まれたころに、転勤していらしたの。
現在は、地方支店の責任者。
F市は県庁所在地で、大きな支店があったから、転居する理由にできたの。
お母さんは、何度もF市へ出向き、住む家を さがしたのだそうよ。

子どもの事情が どうであれ、転校なんて、誰もが容易に できることでは ないの。
世津子ちゃんは辛い経験をしたけれど、お父さんの お立場に救われ、ご両親の大変な ご苦労と、深い愛情によって守られたの。

そうして2学期が終わるころ。
どうしているかと案じていた世津子ちゃんから、ようやく手紙が届き━━。
学校の個性について、知ることができたわ。
こんなにも違うのかと……。

~~~ つぐみちゃんへ ~~~
つぐみちゃん、お元気ですか。
連絡が遅くなり ごめんなさい。心配かけてしまったことも、ほんとに ごめんなさい。
もっと早くに お手紙したかったのですが……ごめんなさいね。

お知らせしたいことが、たくさんあります。
長くなりますが、どうか最後まで読んでね。

私は元気に学校へ通っています。一度も休んでいません。 
朝 起きるのさえ辛かったのが、うそみたい。
それで、原因不明だった体調不良は、私の心の弱さのせいだったと、気づくことができたわ。
それと、学校の"個性"と合わなかったことも、原因だったようです。

人には人それぞれ個性があるように、学校にも個性があるの。
こちらの校長先生が教えてくださったことよ。
どういうことか、具体的に説明するわね。

私は読書クラブに入りました。
こちらの学校は、毎週土曜日※の3時限目が、必修クラブの時間なの。
読書クラブは、1年生から3年生まで、合わせて8人のメンバーがいます。
読んだ本の感想を発表しあったりして、楽しいです。

部活は、演劇部に入りました。
今は部活が楽しくて たまりません。
なぜなら私は、脚本作りを任されているからよ。
私の書いた物語が お芝居になり、みんなの役に立っているなんて、夢みたい。

F市内の中学校は、必修クラブと部活が、別々にあるの。
そして必修クラブこそが、文部省が定めたもの。
国の決まりで、中学生の義務なのよ。

こちらの学校では、毎年4月のはじめに、先生方と生徒の全員に希望調査を おこない、開設するクラブを決めるのです。

いろんな必修クラブがあって驚いたわ。
ヨガクラブ、鉄道クラブ、折り紙クラブ、ミステリークラブなど……。
バレーボールクラブや 野球クラブなど、運動部と同じ名前のクラブもあるのですが、活動するのは毎週1時間だけ。
みんなで楽しむことが目的です。

そして こちらの学校の部活は、先生方も生徒も自由参加です。
そもそも部活は、国の決まりでも 中学生の義務でもないからよ。
ですから部活に参加せず、親の責任のもとで、市内の お教室に通う生徒も います。
日舞とかバイオリンとか書道とか……ね。

社会スポーツクラブへ通う生徒もいるわ。
学校に、顧問ができる先生が いらっしゃらない年度には、部活の名前だけを残し、社会スポーツクラブで活動するの。

学校としては、なるべく多くの生徒に 学校の部活に所属して、大会などに参加してほしいから、
このようにして、運動部も文化部も大切にしているそうです。

そちらの学校は、必修クラブと部活を統合してるのよ。
だから脳筋のうきん先生は、部活は国の決まりで中学生の義務だと、説明なさったのね。

文部省では、必修クラブを義務とし、部活は自由としながらも
どのように運営するかは、"学校の裁量"と定めているの。

ですから そちらの学校のように、クラブと部活を統合し、文化部を無くし、運動部だけを熱心に おこなう運営も、けっして間違いとは、言えないようです。
ただ……間違いとは言えなくても、私は体調を崩し、両親に大変な苦労を かけてしまいましたけどね。

でもね、今だから思えることだけど。
脳筋先生には感謝してるのよ。

父に言われたの。
「世津子が体調不良になった時は、父さんも母さんも本当に辛かった。
しかし それゆえに父さんは、いつも仕事を言い訳にして、家族を思いやらなかった生き方を反省できた。
そして 命より大切な世津子のために、力を尽くすことができた。

世津子も考えてほしい。
辛い経験をしたけれど、今、世津子は輝いて生きている。
世津子も いずれは大人になり、子どもの親になる。
未来の子どもたちのために、学校や社会の より良い あり方を、考え続けてほしい」

つぐみちゃん、私ね、父のような大人になりたい。

私ね、高校は、F高を目指すわ。
演劇部に入って、もっともっと 脚本作りを頑張りたい。
勉強も頑張るわ。父と同じ大学へ進みたいの。
つぐみちゃんは、どのような進路を考えていますか?
よかったら教えてね。

今回の お手紙は、以上です。
つぐみちゃん、お元気でね! 

・・・

※学区制
自治体が定めた決まり。
公立学校に入学する児童生徒は、住んでいる地域の学校に通学しなければならない。

※土曜日
学校の授業は現在のように週休2日制ではなく、月曜日から土曜日まで おこなわれていた。
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