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社会の縮図を見ていた
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なぜ 学校の先生だけは なりたくなかったか、私は誰にも 話したことが なかった。
そりゃそうよね。はなから意識の圏外だったもの。
すると母は、大きな目を さらに大きくして
「あらまあ。どうして?
学校の先生は、お給料に男女差が ないのよ。
世の中の景気が良くても悪くても、お給料が決まっているから、安心よ。
それにね、人に尊敬される。立派な お仕事だわ。
それにね、県内の大学なら、おじいちゃんの家から通えるわ」
そっか。
お母さんの ねらいは、私が大学へ進学して、離れて暮らしても、祖父母と同居するなら安心。ってことだったのね。
それに学校の先生なら、女性がなっても おかしくない。
でもね、学校の先生だけは、圏外よ。
この際だから、母に わかってもらえるように、一生懸命 伝えたわ。
「あのね、お母さん。
学校の先生は、子どもたちに勉強を教える、立派なお仕事だと思うわ。
でもね。私は先生方の現実を見てる。
女の先生方は、とても かわいそうなの」
・・・
小学校でも中学校でも、私は委員会の ご用で、職員室へ 行くことが多かった。
「失礼します」
挨拶して、職員室の扉を開けると、いつだってタバコの煙が モクモクモク。
臭くて たまらないの!
去年まで いらした美也子先生は、妊娠していらっしゃった。
なのに、男の先生方は、まったく気遣わないの。
いつも職員室は、大気汚染。
小学校と違って、中学校は、女の先生が極端に少なかった。
それなのに、昼休み時間の職員室は、女の先生が大忙しだよ。
男の先生はタバコ吸いながら 新聞を読むか、テストの採点をしてる。
だけど女の先生は、男の先生方に、せっせと お茶くみしてるんだ。
自分は お茶を飲むヒマもなく。
日曜日や祝日は、朝から晩まで、部活も あるよね。
当時の運動部活は、お盆と 年末年始のほかは、ほとんど休み無しだった。
男の先生は、家事なんか しないから、お好きなだけ 熱血教師を したらいい。
でもさ、女の先生は?
去年の秋。美也子先生は、赤ちゃんを、死産したんだよ!
……そして、学校に戻ることなく 退職なさった。
その後すぐに、壊れた部品を交換するみたいに、男の先生が やって来た。
美也子先生は、ソフトボール部の顧問だったから、後任だね。
後任の先生はスポーツマンで、熱血な先生だった。
そしたら、部活に熱心な部員の子たちは喜んだ。その親たちも喜んだ。
「熱心な先生が来てくださって、本当にありがたい」って。
だから私、誰にも話せなかった。
美也子先生が お気の毒で たまらなかった。
私ね。ひそかに 思っていたの。
美也子先生の死産は、職員室の大気汚染と、無理して働き過ぎたことが、原因ではないかと……。
・・・
「━━だから私、学校の先生だけは、なりたくないの」
一生懸命、母に伝えた。
「ああ……なるほど。でも……うーん……ああ。
なるほどね。なるほど。なるほど……」
母は、「なるほど」を 繰り返した後、真剣な顔で、何か 考えこんでしまった。
・・・
あのころ。
私が見ていた 職員室の先生方の様子は、大人たちの人間関係。
教室や運動場で 生徒と接する教師の 頼もしい姿とは、まるで違っていた。
学校の先生方の様子は、
当時の日本の社会の、縮図だったと思う。
そりゃそうよね。はなから意識の圏外だったもの。
すると母は、大きな目を さらに大きくして
「あらまあ。どうして?
学校の先生は、お給料に男女差が ないのよ。
世の中の景気が良くても悪くても、お給料が決まっているから、安心よ。
それにね、人に尊敬される。立派な お仕事だわ。
それにね、県内の大学なら、おじいちゃんの家から通えるわ」
そっか。
お母さんの ねらいは、私が大学へ進学して、離れて暮らしても、祖父母と同居するなら安心。ってことだったのね。
それに学校の先生なら、女性がなっても おかしくない。
でもね、学校の先生だけは、圏外よ。
この際だから、母に わかってもらえるように、一生懸命 伝えたわ。
「あのね、お母さん。
学校の先生は、子どもたちに勉強を教える、立派なお仕事だと思うわ。
でもね。私は先生方の現実を見てる。
女の先生方は、とても かわいそうなの」
・・・
小学校でも中学校でも、私は委員会の ご用で、職員室へ 行くことが多かった。
「失礼します」
挨拶して、職員室の扉を開けると、いつだってタバコの煙が モクモクモク。
臭くて たまらないの!
去年まで いらした美也子先生は、妊娠していらっしゃった。
なのに、男の先生方は、まったく気遣わないの。
いつも職員室は、大気汚染。
小学校と違って、中学校は、女の先生が極端に少なかった。
それなのに、昼休み時間の職員室は、女の先生が大忙しだよ。
男の先生はタバコ吸いながら 新聞を読むか、テストの採点をしてる。
だけど女の先生は、男の先生方に、せっせと お茶くみしてるんだ。
自分は お茶を飲むヒマもなく。
日曜日や祝日は、朝から晩まで、部活も あるよね。
当時の運動部活は、お盆と 年末年始のほかは、ほとんど休み無しだった。
男の先生は、家事なんか しないから、お好きなだけ 熱血教師を したらいい。
でもさ、女の先生は?
去年の秋。美也子先生は、赤ちゃんを、死産したんだよ!
……そして、学校に戻ることなく 退職なさった。
その後すぐに、壊れた部品を交換するみたいに、男の先生が やって来た。
美也子先生は、ソフトボール部の顧問だったから、後任だね。
後任の先生はスポーツマンで、熱血な先生だった。
そしたら、部活に熱心な部員の子たちは喜んだ。その親たちも喜んだ。
「熱心な先生が来てくださって、本当にありがたい」って。
だから私、誰にも話せなかった。
美也子先生が お気の毒で たまらなかった。
私ね。ひそかに 思っていたの。
美也子先生の死産は、職員室の大気汚染と、無理して働き過ぎたことが、原因ではないかと……。
・・・
「━━だから私、学校の先生だけは、なりたくないの」
一生懸命、母に伝えた。
「ああ……なるほど。でも……うーん……ああ。
なるほどね。なるほど。なるほど……」
母は、「なるほど」を 繰り返した後、真剣な顔で、何か 考えこんでしまった。
・・・
あのころ。
私が見ていた 職員室の先生方の様子は、大人たちの人間関係。
教室や運動場で 生徒と接する教師の 頼もしい姿とは、まるで違っていた。
学校の先生方の様子は、
当時の日本の社会の、縮図だったと思う。
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