女の子だって羽ばたけるのよ！

学校の先生だけは なりたくないよ！

えーと。えーと。修学旅行。
２泊３日。京都・奈良の見学研修。

━━１日目の集合は朝６時。場所は教室。
━━健康状態の確認と、身だしなみ点検と、荷物点検をします。
ひとりでも違反があると、出発できません。

━━その後、グラウンドへ移動。バスに乗ります。
１組は１号車、２組は２号車……５組は５号車。
━━目的地へ到着したら、１組から順に並び、全体行動です。
列を乱さないこと。

━━旅館内では、男子は全員が１階の大広間を使います。
━━女子は２階の部屋をクラスごとに使います。
２０畳の部屋を２０人で使いますから、荷物の整理を徹底すること。

━━２日目の起床は６時。布団は三つ折りにして重ねます。

━━旅館の お風呂は、女性風呂が小さいので、男女ともに 男性用の大浴場を使います。
━━１組から順に、男子が先に入浴します。その後、１組から順に女子が入浴。
━━入浴時間は１５分厳守。
(うーん。なんでも男が優先なのねえ。それに入浴１５分て、短くない？)

━━湯船に入る前に、必ず からだを洗うこと。
━━女子は髪を洗わないこと。
(えっ。アタマを洗えないの？ なんでダメなの？)

━━着衣は夏期の制服。旅館内では夏期の体操服。
━━当日の天候によっては 冬季の体操服が必要になるため、必ず持参すること。着用する場合は、担任が指示します。
(ぎょぎょっ！ 寒くならないかぎり、女子はブルマーを はくってこと？)

━━クラス行動厳守。班行動厳守。
━━集合するたび、班長は すみやかに点呼。班員の健康状態を確認し、クラス委員に報告。クラス委員は担任に報告。

……。
副委員長で、班長だった私。
いちいち突っ込みを入れながら、ため息をつきながら、資料を確認していた。
新緑の風 吹きわたる、５月の日曜日の、昼下がり。

「ね、つぐみちゃん。
将来、学校の先生になるのは、どうかしら？」
私の憂うれいなんか おかまいなしに、私の横で書き物をしていた母が、唐突に言葉を発した。

「は？ 」
資料から目を離して母を見る私。
すると母は、まるで小さい子に言い聞かせるように

「県内にも国立大学があるわ。
医学部と、経済学部と、教育学部がある。
ね。教育学部に進んで、学校の先生になりなさいよ。
つぐみちゃんは将来、もの作りを やりたいのよね。
だから、家庭科の先生になるの。どうかな？     
家庭科の百合子ゆりこ先生のこと、あなた、大好きでしょ」

「お母さんたら、やめてよ！
そりゃあ百合子先生のことは大好きだけど。
私が学校の先生になるなんて、絶対にイヤ！
私たち女の子はね、ちゃんと見てるし、知ってるんだよ！
先生方は、親と同じくらい身近な大人ですからね。
学校はね、女の先生が 男の先生に差別されて、とても お気の毒な職場なの！」